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27.合宿です!⑤

 2日目の練習は予定していた時刻より更に30分も早く終了した。

「如月、今日は調子良かったな」

「本当?なんか今日はいつにもまして役になりきれてた気がする!」

 珍しく真田くんに褒められた。いつも怒られてばっかりだからなんか変な気持ち。

「今日は演じやすかったよ。如月さんのおかげかな」

「へっ?なんでわたしのおかげ?」

 わたしのおかげなんてとんでもない。そう思うのは桐崎くんの演技力が高いだけ。それに、脚本なだけあってキャラのイメージは出来てるんだし。

「如月さんの演技が上手いから頑張って合わせようって思うようになったんだ。だから如月さんのおかげ」

「そ、そんなことないって!」

 と言いつつ実はすごく照れてて嬉しいわたし。それをこんなふうに……。やっぱりわたしってツンデレなのかな。

「よし、じゃあさっさと片付けろよ。今日は夕食の時間早くしてもらったし」

『はーい』

 あぁー、イルミネーション見に行くの楽しみだなぁ。しかも部活のみんなで!こんなこと滅多にないもん。

「乃愛、すっごい笑顔だね」

「だって楽しみなんだもん!」

 なんでイルミネーション見に行くだけなのにこんなにわくわくするのだろう!うずうずする!

「だからってにやけすぎだよお前は」

 背後から来た真田くんに気付かず、見事に頭を叩かれた。

「いっ……!」

「ちょっと真田!乃愛を叩くな!つか女子に手ぇ出すな!」

「手は出してねぇよ。台本で頭叩いただけだ」

 まぁ確かにそうなんだけどさ、これが地味に痛いんだよね……。

「女子を叩くなんてひどっ!乃愛の顔に傷が残ったらどうするの!」

「残るわけねぇだろ。頭叩いただけで顔は叩いてねぇんだから……」

 緋華がわたしのために真田くんに抗議してるなんてどんなに嬉しいことなんだろう!……ってそんな場合じゃないか。ヒートアップすれば本格的なケンカになってしまう!

「ねぇ2人とも……」

「おい真田。片付けがおせぇよ」

 困ってるわたしに救いの手を差し伸べてくれたのが桐崎くんだった。

「あー悪い」

「まったく、乃愛のこと叩く前に自分のこと済ませなよ。子どもじゃないんだから」

「悪かったな。どうせ俺はガキだよ」

「誰もガキとは言ってないんだけど……」

「まぁまぁ落ち着いて2人とも……」

 再び勃発する前にこの雰囲気をどうにかしなくちゃ。

「そ、そういえば、お前どれくらいイルミネーション見られる?」

 真田くんは少し照れながら緋華に聞いた。

「えー。みんなと一緒なら何分でも」

「そうか。どうする?男女分けていくか?」

「それは嫌だよ!」

「男女の交流は深めないのかよ!」

 とまたもや批判を浴びる真田くん。どうせ自分だってさ緋華と回りたいくせに。

「分かった分かった。全員ではぐれないように歩くか」

『はーい』


 ***


「さぁ行くか!」

 夕食を終え、ホテルのロビーに集まったわたし達。

「まぁ適当にはぐれないように歩こうぜ」

「はいはーい」

 イルミネーションを出来るだけゆっくり見たいわたしは後ろの方に移動した。すると緋華も後ろの方に移動してきた。

「あれ?いいの緋華?真田くんと一緒じゃなくて?」

「大丈夫大丈夫。多分その内後ろにやってくるから」

 それもそうか。真田くんは緋華が本当に好きだから近くにいたいと思って気付いたら緋華のそばにいるはず。

「だからね!乃愛はわたしと一緒に見よ!」

「うん!」

 とか言ったけど真田くんが来たら気付かれないように離れるよ。緋華のためにも、真田くんのためにも。空気を読んで雰囲気をぶち壊さないためにも。

「で、並木道までどれくらいかかるの?」

「5分もかからないかな。あ、ほらあの結構明るいところだよ!」

 緋華が指差した先には何本もの木が並んでいて、その一本一本が様々な照明でキラキラと輝いていた。

「すごーい!」

「こんなに明るいんだね」

「綺麗……」

 誰もが感動し、見とれていた。

「本当にすごい……。こんなにキラキラしているなんて!」

「感動した?」

「うん!」

 まさかこんな素敵なイルミネーションを見れるなんて思わなかった。提案してくれた緋華と真田くんに感謝。と言っても大体は緋華のおかげだね。

「迷子になんなよお前ら」

「真田、いつからそこにいたの?」

 緋華は少し冷めたような口調で言った。まったく素直じゃないんだから。

「ついさっきだよ。迷子になるんじゃないかって心配してきてやったというのに……」

「迷子になったら電話やらメールやらすればいいだけでしょ」

 ちょっと緋華さーん……。なにやらグチグチ言ってるようですけどちゃっかり並んで歩いてますよー?やっぱり緋華も真田くんが好きなんだもんね。いつの間にか笑顔になって頬がほんのり紅く染まってるもの。

 よし、それじゃあわたしは一旦退きますか。そう思って少し歩くスピードを遅くした。すると背中が誰かにぶつかった。

「あ、ごめんなさい……」

「いや大丈夫。如月さんこそ大丈夫?」

 ぶつかったのは意外なことに桐崎くんだった。

「うん……。わたしは平気だよ」

「人多くなってきて誰がどこにいるか分かんなくなってきたんだよね。如月さんが近くにいてよかったよ」

「そういえば急に人増えたね。あ、前に緋華達いるよ?」

「達ってまさか……?」

「うん。緋華と真田くん」

「早速イチャついてんのかよ……」

 まぁそうでしょ……。だからわたしは緋華の隣ではなく、ここにいるんだから。

「別にいんじゃない?どうせ2人は部活内公認の仲なんだから」

「まぁそうなんだけどさ、部活内で見せつけんなって思ったんだよ」

「あー……それは思った」

 でも緋華が真田くんと一緒にいたいと望むならわたしは緋華の意思を尊重する。普段なんだかんだでツンツンしてる緋華にはこれくらいしないと素直になってくれなさそうだしね。

「でもよかったね。真田と宮本さんがイルミネーション見に行こうって提案してくれたから練習も早く終わったし、部員同士の交流も深められるしね」

「そうだね。緋華と真田くんに感謝だよ」

 それに……桐崎くんの近くにいられて、話すことができて。今、わたしは本当に嬉しい。

 その時突然、人の波にのまれてわたしは桐崎くんの腕に肩をぶつけた。

「っ!」

 突然のことに鼓動が高鳴った。ついさっきまでただ近くで話していたのに一瞬で急接近してしまって言葉も出なかった。なにも言えなかった。桐崎くんがこんなに近い位置にいるなんて思うと胸がドキドキして……。わたしは恥ずかしくなって下を向いた。

 桐崎くんはわたしの肩があたってることに気付いてるのかな?あたってからなにも言葉を発していない。一応離れてはいるんだけどやっぱり並木道はすごく混雑していて何度も桐崎くんの腕に肩があたってしまう。何度もぶつかってしまってるから気付いてるとは思うけど、なんとなくごめんねが言えない。多分優しい桐崎くんのことだから、混んでるからぶつかるのも仕方ないよって言うはず……。

 離れたくないなぁ……。ずっと、ずっとこのままがいい。桐崎くんのそばにいたい……。

「あ、いた乃愛!」

 そんなことを思っていたら前方から緋華の声が聞こえた。顔を上げると緋華が心配そうな顔でわたしを見ていた。

「緋華……なんで?」

「もう!心配したんだよ!後ろ向いたらいつの間にかいなくなってるんだもん!」

「いや、だって……」

 緋華と真田くんの邪魔したくないもん、なんて言えるわけなく、黙り込んでしまった。

「まさか乃愛、わたしと真田の邪魔しちゃまずいとか思ってないよね?」

 緋華のその一言にわたしは思わずビクッとなってしまった。

「やっぱり……。乃愛らしい考え」

「まぁまぁ宮本さん、如月さんははぐれたり迷子になったりしてないから大丈夫だって」

 隣にいた桐崎くんはやっと言葉を発した。

「そうだね……。桐崎くんが乃愛の近くにいてくれたみたいだし。よかった、乃愛になにもなくて」

「し、心配かけてごめんなさい……」

「珍しく素直だね。いいよ、許してあげる!それにわたしと真田のためって聞いたら呆れたけど少し嬉しかったし。ありがとね……」

 一瞬、緋華の顔が紅くなった気がした。緋華が……照れてる!可愛いっ!

「おい宮本、いきなり走り出してどうしたんだよ」

 続いて前方から真田くんがやってきた。相変わらず空気読めない人だな……。

「だって乃愛を見かけたんだもん」

 緋華がそういうと真田くんは何故かわたしではなく、隣にいる桐崎くんを見た。

「なんだ。桐崎がいたなら如月は大丈夫だろ?」

「う、うん……。近くに桐崎くんがいたから少し安心した……」

 言ってから後悔した。すごく恥ずかしくなって緋華に抱きついた。

「どうした乃愛ー?」

「……緋華に甘えたくなっただけ!」

 それは緋華に抱きつくための口実。緋華に本当のことを知られないための嘘。

 本当は、紅くなったであろう顔を誰にも見られたくなかったから。緋華がわたしのことを探しに来た時に顔を見られたと思って一瞬焦った。だってあの時のわたしの顔は間違いなく紅かったもん。見られたら気付かれてしまうもの。わたしの桐崎くんに対する気持ちが……。


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