24.合宿です!②
「はい、今日の練習はここまで。各自荷物整理して会館前集合」
『はい』
「つ、疲れた……」
一体何時間練習したんだろう。練習を開始したのは8時ちょっと前。それからみっちり基礎練習して、ミーティングして、1時間のお昼休憩をとってから5時間近くずっと本番さながらの練習。しかも休憩は10分が2回だけ。……ある意味地獄。
「お疲れ乃愛。疲れたね」
「うん。さすがの緋華も疲れたの?」
「当たり前でしょ?乃愛より体力はあるけど集中力はないから」
そういう問題かい。思わず突っ込みたくなった。
「いやー……。わたしがあんな役やるなんてやっぱりなんか合わなくない?」
「えっそんなことないよ?緋華っぽくないキャラがまたいいんだよ」
緋華は王子様のフィアンセである姫君、つまりわたしのライバル役。その姫君は女の子の中の女の子、まさにプリンセスと呼ばれるに相応しい女性を演じる。緋華はいつもいい役取っていくんだよなぁ……。
「なんかさぁ、わたしっぽくないんだよねこの役。この役こそ乃愛に相応しいのに……」
「えっ?そうかなー?」
「そうだよ!だってあんな超お嬢様な女の子キャラだよ!?乃愛みたいな女の子らしい子にぴったりだよ!」
「でもそんな超お嬢様な女の子キャラを演じてる緋華は可愛かったよ?」
「か、か、可愛い!?」
緋華の顔めっちゃ真っ赤……。照れてる照れてる。可愛いなぁ。
「そんなわけなっ――」
「なにそんな顔赤くして騒いでんだよ、宮本」
「……真田」
「今、超お嬢様な女の子キャラを演じてる緋華が可愛かったよって話してたの」
「わぁー乃愛ー!言わないでー!」
「なに言ってんだ如月?こいつは元から可愛いし」
『……はっ?』
なに今の?この人、さらっとすごいこと言ったけど、聞き間違い?なわけないか。
「ちょっと!なにこの場でフツーに惚けてるの!意味わかんない!」
「そうだよ真田!一体なに言ってんの!」
「惚けてねぇよ。別にいいだろ?ホントのことだし」
「なっ……!」
真田くんのその言葉に緋華は思わず絶句。……真田くんってこういう人だったっけ?こういう人だってこと今初めて知ったよ。
「茶番はそこら辺でやめとけ、真田」
「なんだよ桐崎。別にホントなんだからいいだろ?」
いつの間にか真田くんの隣には桐崎くんが立っていた。いつからいたんだこの人は。全く気がつかなかった。神出鬼没だなぁ……。
「お前が宮本さんのこと好きなのは分かってるから。まずお前も自分のことしろよ。みんな待ってるぞ?」
「えっ!?みんな早い!」
桐崎くんの言葉に反応したのは真田くんではなくわたしだった。
「だからほら、如月さん達も荷物整理しようか」
桐崎くんは笑顔でわたしの方を見て言った。
「は、はい……」
この笑顔を見てわたしはなんとなく、なんとなくだけど今の桐崎くんには逆らえないような気がした。ここでいいえと言ったらどんな恐ろしいことが待っていたのだろうと密かに思った。
***
ホテルに着いて早速部屋に入った。
「わぁーベッドー!」
わたしはそこら辺に荷物を投げてすぐさまベッドにダイブ。見事に身体がバウンドした。
「ちょっと乃愛、子どもっぽいよ」
緋華は苦笑しながら言った。
「だってこんなにはねないんだもーん。しかも二段ベッドだし……」
「あぁー、そういえば妹いるんだっけ?」
「うん。緋華もいるよね?」
「うん。2つ下の妹いるよ」
「2つ下!?わたしも!」
意外な共通点。まさかわたしの妹と緋華の妹が同い年なんて。
そんな話をしていたらドアをノックする音が聞こえた。
「はいはーい」
ドアを開けるとそこには真田くんが立っていた。
「緋華ーお客さんだよー」
「おい待て如月。俺はまだなにも言ってないぞ」
「なんだ真田か」
「なんだとはなんだ、なんだとは」
またこのやりとりか……。最早これが普通なのかなこの2人の。
「で、なにしに来たの?」
「あぁ。夕食の時間は7時ってことを知らせに」
「あ、そう」
ちょっと緋華、返事があまりにも素っ気なさすぎるよ。
「それと、それが終わったら部屋に来いって誘いに」
「……なにする気?」
緋華は露骨に表情を歪ませた。
「そういうことじゃねぇよ!どうせ暇だから4人でトランプでもしないかって誘いだよ!」
「トランプ?別にいいけど、4人って誰々?」
「俺とお前と如月と桐崎」
「えっ?わたしも入るの?」
「だってどうせ暇なんだろ?」
「うっ……」
確かに暇だけど。
「そういえば真田達の部屋ってどこなの?」
「ちょうど宮本達の部屋の下」
「分かった。じゃあ夕食終わってから行った方いい?」
「別にすぐじゃなくていい。来る前にメールか電話してくれれば」
「了解」
ちょっとちょっとお2人さーん?勝手に話を進めないでくださーい。わたしを置いてきぼりにしないでほしいな。
「そういうわけだから乃愛、夕食済ませたら真田と桐崎くんの部屋行こうね」
「うん。緋華と一緒なら行く!」
それに、桐崎くんにも会えるし、話せるし。やっぱり気になるって自覚してからわたしはちょっと変わったかもしれない。会えたら会いたいなぁとか話せたら話してみたいなぁとか思うようになった。
でも多分、わたしは桐崎くんのこと好きにはならない。気になるで終わると思う。きっと蕾のままで花は咲かない。