20.気づき
昨日中止になったシーンから練習スタート。今日の如月は大丈夫か少し心配。
「『……え?今なんて?』」
「『ですから、王子様は他国の姫君と婚約することになりました』」
「『そんな……』」
「『後日婚約パーティーを開くようですので是非ご出席を』」
「『は、はい……』」
今のところ特に問題はないな。まぁいつもどおりか?いや、次からが問題かもしれないな。
「『そんな……王子が王女と婚約を発表する場に出席するなんて!あんまりだよ……。見たくない。彼が……婚約するところなんて、見たくないよ!』」
……俺の気にしすぎだな。今日の如月は昨日より全然いい。目を奪われるようないい演技をしている。
「『無理なのは分かってる。でも、婚約してほしくない……。あたしだって彼が好きなんだからっ!』」
「……はい、一旦カットー!」
桐崎が合図をだした。
「なぁ真田」
「ん?なんだ」
「如月さん、本当に昨日の練習でミスしてた?素人並の演技してた?」
練習が始まる前に一応桐崎に昨日の如月のことを話しておいた。
「あぁ。昨日は今までで一番酷い演技だった」
「如月さんが……。珍しい。なんかあったのか?」
いや、原因は多分お前だ!と危なく言いそうになった。言ったところで桐崎は自分が如月に対してなにをしてしまったのか分からないだろうし、如月も如月で桐崎のこと好きって気付いてないみたいだから言わない方いいな。
「でも、今日は大丈夫そうだと思うぜ。で、お前のイメージと俺のイメージって……」
「あぁ、ちょっと似てるかな。だから真田が指示しても大丈夫なはず」
それならもし桐崎が休んでもなんとか練習は出来そうだな。
「あっ桐崎くん!聞きたいことがあるんだけど……」
おっ、噂をすれば。如月が台本を持って桐崎のところへ走ってきた。
「なに?如月さん」
「ここのシーンなんだけど……」
ここは空気を読んで離れるか。俺はそっと2人から遠ざかった。
「……いい加減気付けよ。この鈍感」
***
「あぁ、ここか。ここは……うーん、そうだなー……なんで自分は王子のこと好きになったのか、身分が違いすぎるのにっていう少女の心情を表すように、かな」
「なんで好きになったのか……」
さっき聞こうと思って聞けなかったことを桐崎くんに聞くと彼は親切に教えてくれた。
「でもさっきの感じもよかったよ。身分が違うことを嘆いてる感じとか」
「うー……。やっぱ恋愛ってイメージだけじゃなんかもの足りないなぁ……」
まともに恋愛したことない人がイメージだけでやるにはなにかが足りない。でもなにが足りないのか分からない。
「そこまで考えるなんてすごいね。でも深く考えなくても大丈夫。如月さんは如月さんらしく少女を演じればいいんだから」
ドキッ……
またきた。胸が締め付けられるような感じ。笑顔じゃなくちょっとした微笑みでもこんなことになってしまう。
「う、うん。ありがと……」
わたしはそそくさと桐崎くんから離れた。
この感じが気になる。わたしは桐崎くんのことが気になる……?紗弥たちに言われるまで分からなかった。
けど今なら、よく考えれば分かるかもしれない。普通に話せて、寝顔を見ちゃって、優しくされて、心配してくれて、笑顔を見ちゃって、ドキッとしたり顔が赤くなったり。それはやっぱり、気になるってことなのかな。それが気になるってこと?そしてそれが好きの一歩手前なの?
「おい、なにボーッとしてんだよ。まだ練習は終わってねぇよ」
真田くんの声がしたと思って振り返ったら急にデコピンされた。
「いっ……!」
「そんなにボーッとしてっとまたミスるぞ」
「ちょっと真田!乃愛になにしてんの!」
続いて緋華がわたしに駆け寄ってきた。
「なにってデコピン?」
「なんでそんなことしてんのよー!乃愛の顔に傷跡がついたらどうするのよ!主役の顔は傷つけないでよ!女の顔は傷つけないでよ!」
「緋華ぁ……」
緋華はなんて優しいんだ!こんなにもわたし(の顔)のことを心配してくれて!それに比べ真田くんは……。
「避けきらなかった如月が悪い。ボーッとしてた如月が悪い」
と言う具合にわたしに責任転嫁した。
「乃愛は悪くない。真田が悪い」
「お前はどっちの味方だよ!」
「乃愛に決まってるじゃん。彼氏と友達なら真っ先に友達をとるね」
さすが緋華!やっぱりそうだよねそうに決まってるよね!緋華は真田くんとは違って優しくて親切でしっかりしてるお姉さんみたいな人だもん。
「うわ。真田ドンマイ。宮本さんに振られてるし」
いつの間にか近くにいた桐崎くんが真田くんに言う。
「お前はうるせぇよ!」
「ムキになるなんてかっこ悪いよ真田……」
緋華は呆れるように言った。……にしてもこの2人が3年も付き合ってるなんてホント意外だなぁ。みんなの前ではこんな感じなのに。2人の時はラブラブなのかな?……なんか2人の時見てみたいかも。
「ほら、そろそろ再開するぞ!脚本しっかりしろよ!」
「お前に言われなくても再開するつもりだよ」
「如月、宮本、準備しろ」
『うん』
わたしと緋華は舞台へあがった。
それから通し練習は18時過ぎまで1時間以上も続いた。
舞原です。
今回は珍しくタイトルがシンプルです。特に深い理由はありません(笑)
真田くん目線から始まった今回の話。意外にも真田くんは勘が鋭いようです。彼の勘が正しいかどうかは分かりませんが(笑)
今後の真田くんの行動にも注目です。