18.うらやましいです!
やっぱり呆れられたのかな。集中出来なかったはっきりとした原因がなにか分からないなんて。
「あ、おかえり乃愛。随分早かったね」
部室のドアを開けようとしたらいつの間にか後ろにいた同じ部活の緋華に声をかけられた。
「真田くんに今日はやり直しやめるって言われたの。桐崎くんがいるときにやろうって」
「えっ?なんで?」
「わたしにも分からない……。演技に集中出来なかった原因が自分でも分からないことに呆れられたのかな」
「……ちょっと真田に問いつめてくる」
「ひ、緋華!そんなことしなくていいよ!」
今にも駆け出しそうな緋華の腕を掴んだ。
「わたしが悪いの。演技に集中出来なかったわたしが悪いの。だから問いつめなくていいよ。もしそれで緋華と真田くんの仲が悪くなったりしたら嫌だし……」
「乃愛……」
すると緋華はクスッと笑ってわたしの頭を撫でた。
「乃愛がそこまで言うなら問いつめないよ。それと、それくらいのことでうちらの仲は悪くならないから大丈夫!3年も付き合ってるんだからそれくらいのことで別れたりしないよ」
その言葉にわたしはキョトンとした。確かにそうだね。そんなことで別れるほど2人の関係は脆くない。わたしは笑顔で緋華に抱きついた。
「わっ!ちょっと乃愛」
「ホントそうだよね!緋華たちの関係はそんなことで崩れるほど脆くないもんね!そんなこと言ったわたしはバカだな。2人はラブラブなのにさ」
「別にラブラブってわけじゃないよ……!」
「おいこらそこの2人。話聞こえてっけど」
声のする方を見ると真田くんが立っていた。
「真田」
「真田くん」
「なに廊下でそんな話してんだよ……。つか如月、宮本から離れろ」
真田くんは機嫌悪そうにわたしに言う。……なるほど、そういうことね。
「なんで緋華にくっついちゃダメなのー?あ、そっか!嫉妬してるの?」
「なっ!だ、誰が嫉妬なんか……!」
「真田……かっこ悪い……」
「なっ!」
緋華の不意打ちの一言。さすがにこれはダメージが大きかったのかな?言い返さないし。
「……どうせ俺はかっこ悪いよ。それよりみんなは中にいるか?」
「うんうん。いないよ。やることないからって帰った。だからうちも今帰ろうかと……」
「はぁ……。マジかよ……」
真田くんはたまらずため息をつく。わたしもこればかりはため息をつきたくなった。演劇部って、こんなに緩い部活だったっけ?こんなに自由な部活だったっけ?
「ま、いっか。今日はもう終わりにする。どうせやることないし。脚本がいなきゃ話は進まないからな。……宮本、帰るのか?」
「うん。帰るよ」
「だったら――」
「乃愛、今から駅前行く予定なんだけど一緒に行かない?」
真田くんの言葉を無視し、緋華はわたしに言った。……真田くん、哀れだな。
「うーん。今日はいいや!いろいろやらなきゃいけないことあるしね」
「そっか、それじゃ仕方ない。真田は駅前行く……か」
「あぁ。どうせ同じバスに乗るんだから一緒に行くか?」
うわっ、この人わたしがいる前で堂々と彼女をデートに誘ったよ。しかも放課後デート……。ここは学校!一応公共の場!そういうのは周りを確認してからにしてほしいわ!
「……しょうがないなぁ。一緒に行く」
「じゃ今帰り支度するからちょっと待ってろ」
真田くんは部室に入って行った。……気付いてないのかな?緋華が誘いに乗った瞬間、若干声のトーンが上がった。表情が明るくなった。随分と分かりやすい人だなとわたしは思った。でもなんかうらやましいな。こんな感じで堂々と出来るなんて。恋するといろいろ見方が変わるのかな?たまに恋したいなぁとか思うけど実際無理。やっぱりまだ怖いから。わたしもいつか緋華と真田くんみたいな恋できるかなぁ……。
「乃愛も帰り支度してきたら?帰るんでしょ?」
「あ、うん。だってみんないなくなっちゃうし帰るよ。今してくるね!」
緋華に言われわたしも部室に入って帰り支度を始めた。
「なんだよ真田くん……。部長のくせに戸締まりを副部長に任せるなんて。そんなに緋華と駅前行きたかったのか!」
帰り支度はさっさと終わらせたのに、部誌を書き忘れてたため戸締まりを任せられた。半ば強制。
「少しくらい待っててくれたっていいのに……。この薄情者ー!」
部誌を書きながらぶつぶつと呟くわたし。……なんかすごく虚しいなぁとか思ったり。にしても部誌って書くのこんなに面倒だったっけ?こんなに時間かかったっけ?
この前は桐崎くんがいたからパパッと活動内容を思い出せたし、桐崎くんがいたから話が盛り上がって楽しかった。なのに、1人だとつまんないなぁ……。
って……わたしはなに桐崎くんのこと考えてるんだー!おかしい!うん、おかしい!なんで?もしかしてわたし、みんなが思ってる以上に気になってるのかな?意識しちゃってるのかな?
「あーもういいや!変なこと考えちゃったし今日はもう帰ろっと!部誌も粗方書けたから多分大丈夫のはずだし」
あぁ、なんか独り言って余計虚しくなるなぁ。ホントにもういい。帰ろ……。
部室のロッカーに部誌をしまい、部室をあとにした。