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これがラブですか?  作者: 舞原きら
番外編
112/115

紗弥の恋⑫

 それから少しして、圭介くんの腕の力が弱まった。

「満足しましたか?」

「正直まだ足りないけど……あとのお楽しみにとっておくか……」

 なにが足りないと言うんだ……。あんなに抱き締めたしキスもしたくせに……。まぁいいや。とりあえず話が聞きたい。

「で、どうしてあんな噂が立ったのよ。その理由は?」

「それが長くなるんだけどなー……」

「いいから話して」

「……はい」

 わたしが一蹴すると圭介くんは観念したかのように話し始めた。


 ***


「新妻先生、生徒から随分人気ですね」

 この高校に来てからしばらく経って他の先生方からよく言われるようになった。

「いえいえ、そんなことないですよ……」

「でも、特に女子生徒からの人気は絶大ですよ?」

「そうなんですか?」

 まぁよく声かけられるし何故か集まってくるし多少なりと思ってはいた。でも正直鬱陶しいんだよなああいうの。邪魔だし、他の女には絶対なびかないし、本当に邪魔だし。

「よく新妻先生の話をしているのを聞きますよ?」

「そうなんですか?でも興味ないですね」

「そうなんですか?歳も近いからそれなりに思うこともあるのかと」

「まさか、相手は生徒です。僕からしたら子どもですよ」

 あの子を除いては、な……。あの子、林原紗弥は例外だ。紗弥に会ったのは7年振り。7年振りに会った紗弥はすごく綺麗だった。大人っぽくなってはいても、中身はなにも変わっていなかった。そこが更に美しかった。

「随分とばっさり仰るんですね……」

「はい。それに僕には大切な人がいますから」

 そう言った瞬間、職員室がざわついた。主に女性教師が。

「えっ!新妻先生、彼女さんいらっしゃるんですか!?」

「彼女……」

 彼女ではないかな。俺の大切な人であって、彼女ではない。そもそも紗弥が俺をどう思っているかなんてわからない。でも、そうだとしても大切な人に変わりはない。

「えー!残念!新妻先生かっこいいから狙ってたのにー!」

 そういう女子生徒みたいなことを職員室で言うなよ……。と思いつつ、仕事に取り組もうとした時。


「それじゃあ、いつかは結婚なさるんですか?」


 思いがけない一言が耳に入った。返事に俺は困った。でも、できることなら……。

「そうですね、いつかはしたいです。できることなら、彼女と……」

 それが俺の本音だった。

 でも、この時に周りを気にしなかった俺はバカだと思う。教師に聞かれるならまだいいんだ。まさか、生徒に聞かれていたなんて思わなかったんだ。


 ***


「それは圭介くんが悪い」

 圭介くんから事情を聞いたわたしは真っ先にそう言った。

「それはわかってる……。俺の不注意が招いた結果なんだ」

 わたし自身も圭介くんに婚約者がいるって噂を聞いて驚いたし本気で悲しんだ。それにまさか圭介くんがわたしが昔言った言葉を覚えているとは思わなくて、圭介くんの婚約者がわたしだとは思わなくて……。

「正直どこから婚約者がいる話になったのかはわからない。いつかは彼女と結婚したいとは言ったが、婚約しているとは言ってない。それに彼女がいることも肯定してない」

「否定もしてないけどね」

「まぁそうなんだけど……。でもとにかくなぜか事実が少し変えられて噂になってる。今更否定するのも面倒だからあえてなにも言わずスルーしてたが……」

「それでわたしが傷ついたんだけどなー」

「わかってるわかってる。悪かったって……!」

 いじけるわたしを圭介くんはそっと抱き締めた。この人、抱き締めればわたしの機嫌が良くなると思ってる、絶対。……あながち間違ってはいないが。

「紗弥は覚えてると思ってたからさ」

「覚えてはいたよ?でも圭介くんがそんな昔の、子どもの頃の口約束みたいなことを覚えてるのかわからなかったから婚約者は別の人だと思ってた」

「なにも説明してなかったしな……。それは仕方ないか……」

「それに、わたしが婚約者いるのって聞いた時に曖昧にしか答えなかったし……。ちゃんと答えてくれないと不安になるの!言わなきゃわかるわけないでしょ!?」

「お、落ち着けって紗弥……」

「落ち着けるわけないでしょ……?わたしがどんなに辛かったなんてわからなかったくせに……」

 ずっと胸にしまっていた思いを言葉にしてしまったからにはもう止まらない。それだけわたしは胸の中に自分の気持ちをしまいこんでいた。

「圭介くんにキスされた時も、好きだって言われた時も、びっくりしたけどすごく嬉しかったの!なのに……先生と生徒だからって理由で付き合えないって言われた時は本当に辛かった……。圭介くんが坂井さんとキスした時より辛かったの!」

「紗弥……」

「だから圭介くんのこと諦めようとしたの!他の人を好きになれば圭介くんへの気持ちを捨てられると思ったの!でも無理だった……。そして思い知った。『どうしてわたしが好きになる人はいつも既に好きな人がいる人なんだろう』って!」

「……おい、ちょっと待て紗弥。好きになる人はいつもってどういうことだ?俺を諦めようと他の男を好きになったのか?」

 はっ、うっかり口をすべらせた……。どうしていつもなんて言っちゃったんだ?これじゃあ桐崎くんに本当に短い間だけ惹かれていたことを言ったも同然なのに……。

「どうなんだよ紗弥」

 圭介くんはお怒りだ。このまま黙っていても余計怒らせるだけ。素直に言うべき?でも言ったら……。

「黙ってるってことはそうなんだろ?相手は……まさか桐崎じゃないだろうな?」

 ビクッと僅かに身体が反応してしまった。これで答えがわかったも同然。まさか一番最初に桐崎くんの名前が出るとは思わなかった。

「お前やっぱり……」

「違う!桐崎くんがわたしを保健室に運ぼうとした時は好きじゃなかった!でも、圭介くんに付き合えないって言われた後にへこんでたわたしに優しくしてくれて親切にしてくれたから……!気になってただけなの!でも、桐崎くんには好きな人がいたからもし仮にわたしが桐崎くんを好きになっても付き合えることはないってわかってた!だから桐崎くんへの気持ちは捨てた!」

「でも他の男に気を取られてたことに変わりはないだろ?」

「圭介くんのせいでしょ!圭介くんがわたしのこと好きなくせに付き合えないって言ったから。長年想っていた気持ちはすぐには捨てられない。だから別の誰かを、桐崎くんを好きになればその気持ちが捨てられて圭介くんを諦められると思ったの!」

「気持ちなんて捨てる必要はなかったんだ」

「そうかもしれない。でも付き合えないって言われた時のわたしの気持ちを考えたことある!?わたしの恋は叶わないと思うのも当然でしょ!?そうなったら諦めるしかない。余計辛くなるのは嫌だもん!ずっと好きだったからこそ叶わないと思ったら辛くなるの!だからこの気持ちを捨てようとしたの!」

 女の子は強い。でも、本気で人を好きになると弱くなる。嫌われたくなくて、辛くなるのが嫌で、弱くなる。それを男子は気づかない。

「でもね……桐崎くんに惹かれかけていたけど好きにはなってないの。やっぱりわたしが好きなのは圭介くんだけだから」

「紗弥……」

「ねぇ圭介くん」

 わたしは圭介くんに抱きついた。そんなわたしを圭介くんは抱きしめてくれた。

「わたしはこの恋を隠し続ける。ずっと圭介くんと一緒にいたいから」

「あぁ」

「だから、圭介くんがそれに同意してくれるならわたしにキスしてください」

 そういうと圭介くんがわたしを強く抱きしめた。

「同意するもなにも最初からそのつもりだ」

 圭介くんは身体を少し離してわたしにキスした。優しくて不安なんて消してしまいそうなキス。

「離れたい言われても離れてやらないからな」

「いいよ。それで」

 圭介くんの腕の中で圭介くんの愛情を十分に感じた。すごく幸せだった。ずっとこういう風になりたいと思っていたからこそ尚更幸せを実感できた。

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