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これがラブですか?  作者: 舞原きら
番外編
110/115

紗弥の恋⑩

「……で?」

 食事を終え、残すはデザートとなった時、わたしは圭介くんに聞いた。食事中、圭介くんは本題に入ろうとはしなかった。

「で?って?」

「とぼけないでよ。大事な話ってなに?」

「あぁ、あれね……」

 圭介くんはカップをゆっくり置いてわたしを真剣な表情で見た。その表情にわたしがドキッとしたのは言うまでもない。

「そのことについてはまず先にお前に聞きたいことがある」

「なに?」

「……彼氏いるのか?」

「はぃ?」

 なんでこのタイミングでこの質問?圭介くんの聞きたいことがこれなの!?これが大事な話に関係するの!?

「え、いないけど」

「本当か?」

「本当だよ。前に言ったじゃん。わたしは…圭介くんが好きだって……」

 言ってしまった時のことを思い出すと辛くなる。あの時わたしは圭介くんに振られた。幼なじみでもあるが、先生と生徒でもあるから。――両想いなのに。

「……じゃあよかった」

 圭介くんは安堵の表情を浮かべた。……なんで?なにを聞いて、なにを知って、圭介くんはそんな表情をしているの?わたしに彼氏がいないこと?わたしがまだ圭介くんを好きでいること?それとも――。

「それより、今日は何時まで大丈夫?」

 話を変えられたのは不服だが、聞かれたからには答える。時計を見ると8時少し前だった。バスの最終までには十分時間があった。

「まぁ最終バスに乗れるくらいまでなら?」

「そっか。まぁもし最終バス乗れなかったら送って行くよ。お前の家はわかるし」

 そりゃ幼馴染だからね。家は隣だし。……あれ?だったら方向一緒な気がするけど……。

「そういえば圭介くんって今どこに住んでるの?実家?」

「いや、今は一人暮らし。大学卒業してからずっとだな」

「そうだったんだ。てっきり実家に戻ってるのかと……」

「さすがにそろそろ自立しなきゃだしな。大学が全寮制だったことをいいことに卒業してから一人暮らし始めた。でも実家にはたまに帰ってるけど」

「えっ!?そうだったの?」

「あぁ、一応帰ってはいた。卒業してからの話だど。っても帰ってたのは年末年始ぐらいだな。なのに一度もお前と会わないし、久々に会ったかと思ったらまさかの生徒……」

 帰ってはいたんだ……。なのに一度も会ってなかったなんて。てか受験で年末年始もあるようでなかったようなものだし。そう考えると不思議なことじゃないか。それにまさか圭介くんが帰ってきてたなんて思わなかったし。

「え、じゃあまさか赴任先がわたしの通ってる学校だって知らなかったの?」

「あぁ、紗弥のお母さんにも俺が教師になったことは言ってなかったし、だから紗弥がどこの高校に行ったかも知らなかったし」

 そうなるとすごい偶然。まさか、高校で圭介くんと再会できたなんて。まさに偶然の悪戯……。

「でもまぁ、このタイミングで紗弥に会えてよかったよ。逃したら危なかったしな……」

「タイミング?」

 このタイミングを逃したら危なかった?一体なにがどう危ないというのか、わたしにはよくわからない。そもそも、それは圭介くんにしかわからないかな……。

「……こっちの話だから気にすんな」

 やっぱりそういうと思った。

「でもまぁ、言ってもいいかな」

「ホント!?」

 予想外の発言で思わず大声を出してしまった。圭介くんは一瞬驚いて苦笑いした。

「ど、どうしたんだよ急に……」

「あ、いや、だってまさか圭介くんが話してくれるとは思わなくて」

「話してもいいけどあとでな?場所変えたい」

「……ここ、個室なのに?」

「あぁ」

「誰かに聞かれたくない話だから個室にしたんじゃないの?」

「いや、間違っても学校関係者に見られないようにと思って個室に」

「ちょっと待って、さっき言ってたじゃん。大事な話あるからって」

「大事な話はあるよ」

「でもここでは言えないの?」

「あぁ」

 ますます圭介くんのいう大事な話がどんなものなのかわからなくなった。誰にも聞かれないような話な個室であるここでいうのがいい方法だと思うのに。でもここでは言えない大事な話……。一体どんな話よ!?

「でさ、このあとちょっと行きたいところあるんだけどいい?」

「もちろん。どこ?」

「ついてくればわかるよ。昔何度か行った場所だし」

 昔何度か行った場所……。この辺に昔何度か行った場所なんてあったかな?わたしが覚えてないだけかもしれないけど、全然記憶にない。

「わかった。あとで行こ」

「ありがとう」

 圭介くんのいう大事な話も、圭介くんの行きたい昔何度か行った場所も、わたしにはよくわからない。でも圭介くんが望むならわたしはすべて受け入れる。圭介くんと一緒にいられるこの時間を素敵な時間にしたいから。


 ***


 レストランを出てわたしが連れて来られた場所は駅前から少し離れた小高い丘。まさに圭介くんの言っていた“昔何度か行った場所”だった。

「ここって……!」

「思い出したか?俺らの特等席」

 そう、ここからは街の夜景を一望できる。冬だからこそたくさん輝いている街並みを一度に見れる唯一の場所。わたし達の“特等席”。

「やっぱりここからの景色は最高だな。昔と全然変わってない」

「そうだね……」

 わたし達は2人して感傷に浸っていた。この素敵な景色を一緒に見たのは一体何年前だろう。恐らく圭介くんが大学に入学する前。下手したらそれよりも前……。そんな何年振りかさえわからないこの場所に圭介くんと2人で来れたのがわたしはなにより嬉しかった。

「どうしてここに来たいと思ってたの?」

「お前に大事な話をするため」

 ここで、大事な話を……?

「その前に少しだけ昔の話をしていいか?」

 圭介くんはわたしの顔を覗き込むように見た。圭介くんの顔が一気に近づいてドキッとした。それでも表情が顔に出ないようになんとか耐えた。

「うん、いいよ…?」

「お前は、あの約束を覚えてるか?」

「約束……」

 約束?あの約束ってどの約束?いつした約束?なんかいろいろ約束したような気もするけど何年前のことだろう?……ダメだ、記憶にない。というか思い出せない。

「やっぱり忘れてるのか……。いや、そんなもんだとは思ってたけど」

 圭介くんはショックだったのか、声が小さくなっていった。

「ご、ごめん……」

「それじゃあやっぱり話すしかないな」

 圭介くんはわたしに向かい合った。

「7年前、いや、正しくは12年前かな」

「えっ!?そんなに!?」

「いいから黙って聞け!」

 わたしの反応に圭介くんは間を開けずに言った。だって、えっ!?12年って少し昔とは言わない!わたし何歳よ!?5歳じゃない!圭介くんは13歳だし……。

「お前と遊んでる時になにかと言ってたよな?『さやね、けいすけおにいちゃんとけっこんするー!」って」

「ちょっ……!そんな昔のこと覚えてるの!?」

「自分から言っといて覚えてない方が逆にびっくりだ!」

 圭介くんの突然の発言にわたしは驚くと同時に恥ずかしくもなった。いきなりなにを言い出すの彼は!それより覚えてないとは失礼な!ちゃんと覚えてますよ!?忘れるわけがない。小さい頃から『けいすけおにいちゃんとけっこんする』って言ってたのは覚えてるんだから。わたしは昔から、そして今も圭介くんが好きだもん。

「あの時俺は『紗弥が結婚できる歳になってもそう思ってたらな』って言った。俺にとって紗弥は妹だったからな」

 改めて妹発言をされると苦しい。8歳も離れてるならそれも仕方のないことかもしれないけど、それでもやっぱり苦しいものは苦しい。

「でもな、気付いたら気持ちが変わってたんだ。それが7年前だよ。俺が大学に入学するからって引っ越す日、お前泣きながら言っただろ?『圭介くん、約束忘れないでね?わたし、今でも圭介くんが好きだよ』って」

 うわぁ、昔の自分が恥ずかしい。堂々と告白してたぁ。しかも泣きながら。そしてまさかそれを忘れているというね。12年前のことは覚えているくせに7年前のことは忘れているなんて……。

「俺は驚いたんだ。5年経っても紗弥の気持ちが変わってなかったことに。そんな子どもの頃の約束を覚えてるなんて思わなかったから」

「……圭介くんは覚えてたの?」

「あぁ、さすがに小さい頃から言われ続けてりゃ覚えてるわ」

 そうですよねー……。

「紗弥に言われてから気付いたんだ。妹のようにも感じる。でもそれとは違う愛しさを感じるって。……バカだよな。その別の愛しさの正体に気付いたのが紗弥と再会してからだなんて」

「……その正体って?」

 わたしは変にドキドキしながら圭介くんの言葉を待った。そして――。


「その愛しさが、紗弥のことを妹としてでなく、女として好きなんだってことを意味してるって」


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