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これがラブですか?  作者: 舞原きら
番外編
109/115

紗弥の恋⑨

 冬休み、なぜかわたし達5人は水族館へ行くことに。それもクリスマスである25日。ちなみにその5人というのがわたし、乃愛、麻由、桐崎くん、加賀美くん、というなんとも言えぬメンバー。てか、なんでクリスマス?第一彼女持ちの桐崎くんまで加わるってどういうこと?乃愛がいるからなのかそれとも……。でもそれで乃愛が傷つくとわかっているのかな彼は。いや、わかっていたらそんなことしないか。

 でも乃愛は傷ついてはいなかった。むしろ桐崎くんと一緒にいられることをすごく喜んでいた。だからその日わたしは乃愛が楽しめるように、悲しい気分にならないようにいろいろ援助しようと思った。


 そして水族館デートの日。水族館で乃愛と桐崎くんは仲良さそうに行動していた。乃愛も桐崎くんもすごく幸せそうな顔だった。そう、水族館では、ね……。

 ショッピングモールでは事件が起こった。乃愛がナンパされ、危うく連れて行かれそうになった。もちろんそれを止めたのは桐崎くん。真っ先に乃愛の異変に気づき、駆け出したのは彼だった。この時点で桐崎くんが乃愛を好きだというのは紛れもなく事実。フツー、好きでもない人の異変に気付いたり、危険だと思って駆け出したりはしない。だからこそ、一瞬だけど胸が痛んだよ。桐崎くんの目には乃愛しか映っていないんだって。その目にわたしは絶対映らないんだって。そしてつくづく思うよ。どうしてわたしは既に好きな人がいる人を好きになるのだろうって。別に乃愛から桐崎くんを奪おうとなんて考えてはいない。圭介くんの婚約者から圭介くんを奪おうとは思っていない。だからこそ辛い。だからこそ苦しい。わたしの恋は一生報われないんだって。

 でも今はそんなことどうでもいい。乃愛と桐崎くんが少しでも進展さえすれば。2人が楽しい時間を過ごせるのならば。

 だからね、ゲーセンで楽しそうに会話している2人を見てわたしは嬉しく思えた。それを見て2人の邪魔はしたくないと心から思い、わたしは早く退散しようと思った。


 そしてその時、一件のメールが来ていた。送信者は予想外の人物。


〔話がある。今夜会えないか?〕


 メールの送り主はわたしが何年も片想いしていた人物、圭介くんだった。

「嘘……。どうして圭介からメールが……」

 ここしばらく口もきいてないし目も合わせようとしなかった。それなのにどうして突然……。って今はそれより返事をしなくちゃ。もうそろそろわたしは退散しようと思っていたからちょうどいいタイミングでメールが来てくれてよかったと思う。


〔会えるけど、どうしたの?〕


 話ってなんだろう。わざわざ会えないかって聞くくらいだからメールや電話では言えない話なんだろうとは予想できるけど、じゃあ一体どんな話?

 そんなことを考えているうちに返事は来た。


〔直接話したい大事な話だし、なにより渡したいものがある〕


 渡したいもの……。もっとわからなくなった。話だけならなんとなく予想は出来たかもしれないけど渡したいものがある?圭介くんのすることはいつもよくわからない。それは昔から変わらない……。


〔わかった。何時にどこで?〕


〔駅前のイルミネーションツリーに6時でいいか?〕


 駅前のイルミネーションツリー……。あ、あのクリスマスシーズンに綺麗に飾り付けされている木のことか。今は4時すぎだから……遅くとも5時半までにここを出れば間に合うな。


〔いいよ。じゃあまたあとでね〕


 というわけで5時あたりにわたしは退散するとしよう。乃愛と桐崎くん、麻由と加賀美くんの邪魔をしたくはないし。

「ほらほら!また取れたよ~!」

「池波さん取りすぎ……」

 と麻由と加賀美くんは楽しそうに、面白そうに会話しているし。

「ねぇ、本当にもらっていいの?」

「あぁ、むしろもらってくれないと困る」

「……彼女さんとかにあげたら?」

「俺は乃愛さんにもらってほしいんだけど?」

「うぅ……じゃあ、ありがたくいただきます……」

 と乃愛と桐崎くんはフツーにどこのバカップルだと突っ込まれてもおかしくないくらい2人の世界に入っているし。この2ペアを見れば見るほど辛くなる。苦しくなる。悲しくなる。だからこそ、この場から早く離れたい。


 ***


 5時すぎにわたしは予定が入っているから帰ると言って先に帰った。早く、早く彼に会いたい。なにより彼に会いたい。好き、本当はすごく好き。この日だからこそ会いたいんだ。クリスマスだからこそ会いたいよ。

 駅前に向かうバスの中でわたしはずっとそのことだけを考えていた。


 駅前に着くと既にたくさんの人で賑わっていた。

「うわっ……人多い……」

 こんな中で圭介くんを待つの!?こんな中で圭介くんを捜すの!?でもまだ待ち合わせの時間まで少し時間はあるし、なんとか見つけ出せるかな……。

「嘘……辛い……」

「なにが辛いって?」

「えっ?」

 後ろから声がして振り返るとそこにはわたしが早く会いたかった人……。

「けけけ、圭介くん……!」

「なに驚いてんだよ?」

 圭介くんは昔のような笑顔をわたしに向けた。久々にあの笑顔を見た。あぁ、やっぱりわたし、この人が好き。

「いや、なんか久々だったから……」

「ほぅ……よく言えたもんですね。ここしばらく僕と口はきかないし目も合わせようとしなかった貴方が」

「うっ……」

 やっぱりバレてた。そりゃそっか。あんなにあからさまに避けていたのだから。てか、その先生口調やめて!

「まぁいい。話したいこともそりゃたくさんあるけど、とりあえずなんか食べよう。店予約してあるから」

「あ、うん。わかった」

 ……ちょと待て。今圭介くんはなんか食べよう、店予約してあるからって言ったぁ!?違和感ありまくりの発言なんですけど!

「え!?予約してある!?どこでご飯食べようか決めてあるの!?」

「あぁ。前もって予約しておいた」

「えっ?なんで?」

「なんでって……今日が何の日か考えてみろ。クリスマスだろ?どこの店行っても混んでるんだから前もって予約してればすんなり入れると思ってしておいたんだ」

 あぁ、なるほど。なんか、さすが大人の男性って感じ。行動がスマートすぎる。でも、一体いつ予約を……?

「ほら、行くぞ」

 そう言って圭介くんはわたしの手を握った。

「えっ……!?」

「こんなに人が多いんだからはぐれないようにしろよ?」

「あ、うん……」

 圭介くんはきっと気づいてない。わたしがそれだけの行為でドキドキしているということに。気づかなくていいの。気づいたらきっと、圭介くんは迷惑に思う。だからお願い気づかないで。

 わたしはそう思いながらも、繋がれた手を通してわたしの気持ちが伝わればいいなと思っていた。


 ***


 圭介くんに連れてこられたのはよく雑誌に載っている少し高級な雰囲気が漂うレストランだった。

「……え?まさか、ここ?」

「あぁ、そうだけど?」

 圭介くんはさらっと平然そうな顔で言った。そんな圭介くんとは対照的にわたしはおどおどしていた。

「なにそんなにおどおどしてるの?」

「だ、だって!まさかこんな素敵なレストランだなんて……。てか、こんなレストランの予約を一体いつしたというの?」

「え?まぁそれはいいだろ?」

 この様子だと今日予約したわけじゃなさそうね……。そうなると前持って予約しておいたということになるけど、もしわたしが断っていたらどうしていたの!?

 圭介くんはそんなわたしを気にせず、店の中へ入って行った。

「いらっしゃいませ」

「予約していた新妻です」

「新妻様ですね。お持ちしておりました。お席へご案内します」

 わたしと圭介くんはウェイターのあとをついて行った。見れば見るほど素敵なレストラン。まさかこんな素敵なレストランに来るとは思わなかった。もう少しおしゃれな恰好してくればよかったと後悔中。

「こちらでございます」

 そう言って案内された席はまさかの個室。

「……えっ?」

「どうした?」

「だって、え?個室なの?」

「あぁ。それなりに大事な話があるんだ。当然だろう?」

「では失礼いたします」

 ウェイターは去っていった。

「とりあえず座れよ」

「あ、うん……」

 圭介くんに促されるがままに、席についた。まさかこんな素敵なレストランだけでなく、個室まで用意されているとは。一体どんな話があるのだろうか。

「そういえば、この前にはなんかあったのか?」

「え?なんで?」

「服、結構気合入ってるように見える。それにさっき電話した時に周りがざわついてた」

「あー…、乃愛たちと出かけてたの」

「……如月さんたちか」

 乃愛の名前を出してちゃんと名字に変換出来たってことはちゃんと乃愛のことを覚えていたのね。まぁあの子、数学に関してはそこそこ出来る方だし。

「で、今日はどうしてこんな素敵なレストランにわたしを?」

 それがわたしの一番気になること。こんな高級なレストラン、しかも個室をわざわざ予約していたのだから。不思議な点が多々ある。

「まずは大事な話があること。そして個室にした大きな理由は、この様子を学校関係者に見られたら厄介になると思ったからだ」

 ……そういえばそうだ。わたしと圭介くんは幼なじみでもあるが、先生と生徒でもある。見られたら厄介だ。坂井さんのような人に見られたら特に。また脅迫まがいことをされる。

「そっか……。幼なじみとはいえ、一応先生と生徒だもんね……」

「そういうこと。だから個室にしたんだ」

「その方が安全だからね……」

 でも、大事な話ってなんだろう。なんとなくわかるようでわからない。知りたいけど知りたくないとも思う自分がいる。あぁ、わたしってば矛盾しすぎ。

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