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これがラブですか?  作者: 舞原きら
番外編
108/115

紗弥の恋⑧

 それからしばらくして、乃愛と桐崎くんが放課後にデートしていたと噂が飛び交った。噂は間違いなく本物だった。でもわたし達が気になっていたのは2人の関係。そのデートによって縮まったのかどうか。そういうわけで放課後にハルちゃんとユキも交えた5人で話した。正しく言うと、わたし達が質問してそれに乃愛が答えるという感じだったが。

 どうやらそのデートとやらの提案者は桐崎くんだったらしい。……好意丸出しすぎる。でもなんとか距離を縮めようと努力したのは称賛に値するわ。桐崎くんの乃愛の本気度が少しは分かった気がする。

 それで、わたし達の説得もあって乃愛は桐崎くんに告白する決意をした。わたし達はただ乃愛の恋が実ることを願っていた。……同時にわたしは桐崎くんへの想いを捨てようと決意した。


 でも、乃愛の告白は予想外の出来事で達成できなかった。


「なんか昨日泣きながら寝ちゃったみたい」

 乃愛の言ったその言葉と真っ赤に腫れた目を見てなんとなくその理由がわかった。でもおかしい。まさか乃愛の告白が上手くいかなかったなんて。そんなのあり得ない。だって桐崎くんは乃愛が好きなんだ。なのに、なんで上手くいかなかった?

 その後、加賀美くんが桐崎くんに言ったことでわたしの頭の中は更に混乱した。

「せっかくリア充なのにそんなテンションでどうすんだよ!」

 ……リア充?やっぱり2人は付き合っているの?でもそしたらどうして乃愛は目を真っ赤に腫らしているの?あまりの嬉しさに泣いた?いや、それでもこんなに目が腫れるわけない。わたしはあえてなにも知らないフリをして桐崎くんに言った。

「えーっ!?ちょっとなに!?桐崎くん彼女いるの!?」

 これで桐崎くんが彼女は乃愛と言えばそれで済む話だった。同い年なのか、同じ学校なのか、わたしの質問に桐崎くんは答えず、その代わり加賀美くんが答えてくれた。加賀美くんは同じ学校とは言っていたけど同い年とは言わなかった。そのことからなんとなく察しがついた。桐崎くんの彼女が乃愛ではないんだと。

「ねぇ、どういうこと桐崎くん!」

 わたしは今にも桐崎くんに掴みかかりそうな勢いで言った。多分乃愛と加賀美くんはわたしがこんな勢いで桐崎くんに聞いたのは彼女が誰か知りたいからだと思っているはず。でもそんなんじゃない。わたしはなんで乃愛以外の子を彼女にしたのか、ただそれだけが知りたい。案の定桐崎くんはわたしの思っていることがわかったらしい。2人に聞こえないように「あとでちゃんと話す」と言ったのだから。

 その後乃愛に聞いたら乃愛は泣きそうな顔をした。もちろんそれに気付いたのはわたしだけ。わたしは乃愛を連れて別室へ向かった。乃愛は想いを伝えられなくて相当辛かったらしい。昨夜も泣いたというのに涙が流れて止まらなかった。そんな乃愛を見てわたしは心が痛んだ。同時に桐崎くんがなにをしたいのか分からなくなった。放課後にデートして乃愛に本気なのかと思いきや他の人と付き合う?一体なにを考えてそんなことをしたの?乃愛のことは本気じゃなかったの?もうわからない。こうなったら本人に問い詰めるしかない。乃愛の泣いている姿を見てわたしはそう決意した。

 そして、そう決めたわたしの行動は早かった。


 ***


「ちょっと!話ちゃんと聞かせてよ!」

 放課後、桐崎くんを捕まえて別室に連れ込んだ。誰かに聞かれたりしないようドアもきっちり閉めて。ドアを閉めるなり、わたしは叫んでいるかのように桐崎くんにきつく言った。

「なんで?乃愛に本気だったんでしょ?なのに他に彼女つくったの?桐崎くんの乃愛への想いはその程度だったの?」

「そんなんじゃねぇよ!事情は誰にでもあるものだ!」

「どんな事情よ!?乃愛がどんなに辛い思いしたと思ってるの!?見てて辛かったんだから!」

「えっ……?」

 桐崎くんの困った顔を見て今自分が言ったことが桐崎くんには言ってはいけないことだと思い出した。

「乃愛さんが……辛い思いを?」

 しかし聞かれてしまって聞き流されなかったのなら仕方ない。もう開き直ってしまおうか。

「そうよ。乃愛は辛い思いをした。桐崎くんのその行動が乃愛を傷つけたの!」

「ちょっと待てよ。その言い方じゃまるで乃愛さんが俺のこと……」

「わたし、言ったよね?乃愛は桐崎くんに心を許してるって。嫌われてはいないって」

 ここまでしか言わない。乃愛に告白する前に乃愛の気持ちに確信を持たせたりはしない。だから思わせぶりなことしか言わない。

「でもね、今はわからないよ?乃愛は元々男性不信なの。中学の頃に嫌がらせを受けてからそれ以降。……まぁ数ケ月前にもまた男性不信に陥りそうな出来事があったけど、今はそれほどではない」

 そう、乃愛は数ケ月前、橘に襲われかけた。そのせいでまたもほんの一時期だが、男性不信に陥りかけた。男子とすれ違うだけでかなり距離をとったり、必要最低限の話しかしなかったりなど。

「だから乃愛は男子に心を許すのに時間はかかるけど心を許した相手にはすごく懐くわ。桐崎くんもその1人だった。そこは桐崎くんだってわかってるはず。だからこそ、一度心を許した相手に傷つけられるようなことをしたらどうなるかわからないよ」

「……俺、嫌われたのか」

「わかんないわよそんなこと。でも嫌われたのか心配してるってことはちゃんと乃愛のこと好きよね?」

「あぁ、その気持ちに変わりはない」

 桐崎くんはさっきまでとは一転して意思のこもった目ではっきりと言った。

「これ以上嫌われたくないならそれなりの行動しなさいよ。応援はすると言ったけど桐崎くんの行動次第で変わるからね?」

「わかってるよ、そんなこと」

 ふてくされたかのように桐崎くんは言った。少し強く言い過ぎたと反省した。

「で」

「で?」

 わたしはどうしても聞きたくて仕方なかったことを聞いた。

「その彼女って一体誰よ。何者?」

「あ……一応言うけど好きで彼女と付き合ってるわけじゃないからな?」

「……は?じゃあ遊びってこと!?」

「んなわけあるか!俺にそんな余裕があるとでも!?」

「……それもそうね、ありえない」

 素直に言ったけどこの桐崎くんが本命がいるくせに遊びなんかで他の女子と付き合うわけないか。本命とでさえ進展しないというのに。いや、それには乃愛にも原因はあるか。じゃなくて……。

「じゃあ一体なんなのよ!?なんのために付き合ってんの!?」

「それはその……」

「どうしても言えないの?」

「あぁ、悪い」

「彼女の名前くらいなら聞いていいでしょ?」

「名前は楠木美嘉」

「楠木美嘉……?えっ?まさかあの1年の?めっちゃ可愛い子?え、一体どんな接点が!?」

 演劇部の桐崎くんとチアリーディング部の楠木美嘉。部活も違ければ学年も違う。まさか中学で先輩後輩だったとか?でも桐崎くんの答えはわたしが予想していた答えではなかった。

「美嘉はその、俺の再従妹なんだ」

「……は、再従妹!?あの可愛い子が!?桐崎くんの!?」

「あぁそうだよ!似てる要素なんかどこにもないけどな!」

 衝撃だった。まさかあんな可愛い子が桐崎くんの再従妹だっただなんて……。いや、ちょっと待て。それがどうした。再従妹だからなんだ。なんのために付き合ってる!?

「で、なんでそんな可愛い子と付き合ってるの?その理由をわたしは知りたいの!」

「……ストーカー」

 桐崎くんの声は小さくて聞き取りづらく、一瞬なんて言ったかわからなかった。でも言葉を理解してわたしは少し混乱した。ストーカー……は?ストーカー!?

「はっ!?乃愛が好きなくせにその子にストーカー行為してたの!?」

「なんでそうなるんだよ!?」

「え!じゃあまさか桐崎くんがその子にストーカー行為されてる……?」

「ちげーよ!」

「んじゃなによ!遠回しじゃなくはっきり言ってくれない!?」

「少しは察しろよ!いろいろ事情があるんだ!」

 そう言われてわたしは少し考えた。再従妹、ストーカー、好きで付き合ってるわけじゃない。そしてその再従妹とやらはめちゃくちゃ可愛いあの楠木美嘉……。あ、なるほど、そういうことか。ようやく理解できた。でも、どうしてそれで付き合うことになるの?……まぁこれ以上聞いても答えてくれなさそうだから今はなにも聞かないでおく。

「で、そのことは乃愛に言ったの?」

「言ってない。乃愛さんに言ったのは彼女の名前だけ」

 それだけじゃ乃愛はなにもわからないか……。ただでさえ鈍いのに。

「でもいつかちゃんと言うつもりだから。彼女のこともだし、告白も。ただその時間が伸びただけなんだ……」

「それで乃愛を誰かに奪われたりしないようにね。……失ってから本当に大切なことに気付いてももう遅いんだから」

 失ってからじゃもう遅い。取り戻すのは困難だ。そんなこと、桐崎くんと乃愛には経験してほしくない。

「……もしかして林原さん、誰か好きな人が……!」

「じゃあわたしは行くから」

 桐崎くんの話を最後まで聞かず、わたしは教室から出た。わたしは人前で弱いところを見せたくない。仮に見せるとしてもそれは圭介くんの前だけと決めているんだ。桐崎くんには絶対見せない。それがわたしだから。

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