紗弥の恋⑦
クリスマスムードが漂う12月のある日、ついにわたしは確信してしまった。乃愛と桐崎くんが両想いだということを。
停電が起こった時、桐崎くんは凍える乃愛に手袋を貸したらしい。わたしはその時すでに家にいたからその時の状況はよくわからないけど。わたしが思うに、フツー好きでもない女子に手袋を貸すとは思えない。いくら桐崎くんが優しくて親切だとしても。それに桐崎くんは乃愛のことを特別視していると自分で言っていたんだ。だったらもうこれは『厚意』による行動じゃない。純粋な『好意』による行動だ。
それだけじゃない。停電が起こった数日後には乃愛と桐崎くんが放課後、一緒にいるのを目撃した人がいるし乃愛自身も一緒に本屋に行ったって認めたし。で、一緒に本屋に行こうと提案したのが桐崎くん。
ここまで聞けばもう十分。2人が両想いなのは明白。でも乃愛は今の関係が崩れることを恐れて告白するつもりはないらしい。まぁユキがなんとか説得して結局告白しようと決めたらしいけど。でも乃愛がこんな感じならきっと桐崎くんも同じように関係が崩れることを恐れて告白しようとは思っていないだろう。聞けるチャンスがあれば聞いてみよう。
そして、そのチャンスは意外にもすぐ近くにあった。
***
たまたま掃除当番が一緒で、ごみ捨てじゃんけんに負けた日だった。
「林原さん。今日はごみ多いから俺も手伝うよ」
と、桐崎くんがごみ捨てを手伝ってくれた。これは桐崎くんにいろいろ聞けるチャンス。そう思ってお願いした。
「ありがとう。じゃあお願いしてもいい?」
「もちろん」
桐崎くんは2つあるうち、桐崎くんは重い方を持ってくれた。
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
そしてわたしは早速本題を桐崎くんにぶつけた。
「あぁ、なに?」
「ぶっちゃけ乃愛のことどう思ってるの?」
「っ!?い、いきなりなにを……?」
桐崎くんは顔を真っ赤にした。ホント、この人はわかりやすいなぁ……。ここまですぐ顔に出るなんて。
「え?だって乃愛に手袋貸したり放課後デートしたんでしょ?それって好きだからじゃないの?それともまだ好きになる一歩手前?」
「……林原さんにもお見通しかよ。やっぱ俺、わかりやすいのかな?」
「そりゃね。すぐ顔に出るし。ってわたし以外にも気付いた人いるの?」
「あぁ。加賀美に気付かれてたよ」
なるほど……。まぁ加賀美くんって結構鋭いし、桐崎くんはわかりやすいし、そりゃ気付くよね。……じゃなくて。
「で、どうなの?好き?好きじゃない?」
「……多分好き」
「多分?多分ってなによ?まだわかんないの?」
「嘘嘘!あー……分かった。正直に言うよ。俺、如月さんが好きだ」
僅かに胸が痛んだ。チクッと針が刺さったような痛み。やっぱりそうか。じゃないと手袋貸したり放課後デートしたりしないものね。
「やっと気づいたんだ。で、告白したりしないの?」
「告白なんて無理に決まってるだろ……」
桐崎くんは急に自信をなくしたかのように弱々しく言った。
「え、どうして?」
「……俺は確かに如月さんが好きだ。でも如月さんが俺なんかを好きなわけないんだ。だったら今の友達のままでいい。俺は今の『友達』という関係を壊したくないんだ。関係を壊すのが怖いんだ」
桐崎くんは悔しそうな顔をして言った。それほど乃愛との『友達』という関係を壊したくないのか……。それほどまでに乃愛のことを好きなんだね。
「どうしてそう思うの?」
「えっ?」
「どうして乃愛が桐崎くんのことを好きなわけないと思うの?」
これは意地悪な質問かな?でもこの人は優しすぎるし謙虚すぎる。……まぁ、本人は気付いてないけど。
「俺は加賀美みたいに頭良くないし、運動だってずば抜けてできるわけじゃないし、それにかっこよくもない。こんな奴好きになる人なんているわけない」
ほら、やっぱり……。そんな人でも好きになってくれる人がいるというのに……。
「でも桐崎くんは優しいじゃん」
「全然。傍若無人だよ」
……いやいや!十分すぎるくらい優しいよ!?こんな優しい人が傍若無人だというなら他の人はどうなる!?傍若無人どころの話じゃないって!
「嘘だー!乃愛は桐崎くんは優しいって言ってるけど」
「っ!」
わたしがそう言った瞬間、桐崎くんの顔が赤くなった。それも耳まで……。
「うわっ、わっかりやす……。そして耳まで真っ赤。どんだけ乃愛好きなのよ……。どんだけ恥ずかしいのよ……」
「う、うるさい!仕方ねぇだろ!」
「否定も肯定もしないのね」
「っ!」
本当にわかりやすい人だな。反応が面白くてついからかいたくなるほどに。
「あのさー、桐崎くんって自分が言うほど嫌な奴じゃないよ?もし仮に桐崎くんが本当にそこまで頭良くないし運動だってずば抜けてないしかっこよくもないとしても、桐崎くんの優しさは人から好かれる力を持ってるからね?」
乃愛もだけど、わたしもその力に惹かれた人なんだから……。
「……あまり期待させんなよ。振られた時に辛くなる」
桐崎くんは少し暗い表情をして言った。乃愛に本気なのが十分伝わってくる。本気で好きだからこそ、今の関係を壊したくないんだ。
「じゃあいいこと教えてあげる。乃愛は優しい人が好きなの。でもって一緒にいて楽しい人。それにあの子、元々男子が苦手だったの。なのに桐崎くんとよく一緒にいるってことは桐崎くんに心を許してるってことだからね?」
「っ!」
「嫌われてはいないんだから安心してね?」
わたしがそういうと桐崎くんの顔がわずかに明るくなった。……本当にわかりやすい人。
「もし本当に乃愛が好きで大事にしたいと思うなら応援はするから」
「応援か……。協力はしてくれないのか……」
「うーん……。出来る限り協力はするよ!桐崎くんの本気度がわかったらね!」
「それでも助かる。ありがとう」
桐崎くんは微笑みながら言った。その微笑みにドキッとしたのはわたしだけの秘密。乃愛の気持ちがわかる。
「んじゃわたしは帰るから!ごみ捨て手伝ってくれてありがとね!バイバイ」
「また明日」
わたしは小走りで桐崎くんから離れていった。
あぁ、わたしは本当にバカだ。わかってた。桐崎くんが乃愛のこと好きだって、乃愛を誰よりも大事に思っているって。そして同じように乃愛も桐崎くんのことを好きだって。
わかってたはずなのに、好きになっちゃった……。桐崎くんに惹かれていた……!でもあの2人は両想いなんだ。わたしに入る隙なんてものはない。
つくづく思うよ。どうしてわたしの好きになる人は既に好きな人がいる人なんだろう。桐崎くんといい、圭介くんといい……。報われない恋をするとこんなに悲しい気持ちになるんだ。悔しい。なんでわたしは好きな人がいる人を好きになっちゃうの?そうならなければこんなに悲しい思いはしなかった。桐崎くんへの思いならまだ引き返せるかもしれない。でも圭介くんへの思いはもう引き返せない。心のどこかには圭介くんが好きって気持ちが残ってる。消さなきゃいけないと思って別の人を好きになろうと思って桐崎くんに惹かれた。でも彼もまた好きな人がいる。もうどうすればいいかわからない。どうしてわたしはこうなるの?乃愛みたいに純粋に誰かを好きになりたい。
誰かを純粋に想える、そんな日がわたしには来るの?
お久しぶりでございまする……!
更新する時間がないほど忙しく気づけば2ヶ月ぶり⁉︎
……毎月20日に更新していたはずなのに。
忙しさがおさまってきたら毎月5.20日に更新しようと考えています。