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これがラブですか?  作者: 舞原きら
番外編
104/115

紗弥の恋④

「おい待てよ!」

 後ろから圭介くんが追いかけてくる。でもわたしは止まらない。止まりたくない。圭介くんの顔を真正面から見たら泣くに決まっている。あんなのを見て泣かないわけがない。本当は今でも頑張って耐えているんだ。わたしは弱くない。わたしは人前で泣き顔を晒さない。それが、学校での『林原紗弥』だから。

「だから待てと言ってるだろ!紗弥!」

 圭介くんに手首を掴まれて止まってしまった。

「嫌!離して!」

「なんで逃げるんだよ!話を聞け!」

「嫌!離してよ!“先生”!」

 そういうと圭介くんは『先生』という言葉にカッとなったのか、近くの空き教室にわたしを連れ込んだ。

「やだ!離してったら!」

「だったら話を聞けよ!そして質問に答えろ!」

「だから離してったら!」

 わたしの叫び声が教室内に響いた。圭介くんはわたしの手首からそっと手を離した。解放された手首は僅かに赤くなっていた。

「紗弥、さっきのは……」

「ねぇ、なんでしたの?」

「だからあれは……」

「わたしが言ってるのは坂井さんとしたことじゃない!どうしてわたしにしたのかってことが知りたいの!」

 圭介くんは戸惑った顔でわたしを見た。圭介くんからすれば触れられたくなかった話題、なのかな。わたしだって本当は話題にしたくなかった。でもしないわけにはいかない。

「……それとこれとは関係な――」

「関係なくない!じゃあ聞くけど関係ないとしたらなに?圭介くんは誰にでもキスできるというの?生徒とは付き合わないって言ってたくせになんで?そんなに軽い人だったの?婚約者さんの気持ち考えてないの?」

「なんでまだ気付かないんだよ!」

 圭介くんは大声を上げてドンッと壁を叩いた。いわゆる『壁ドン』状態。でも今のこの状況では少女漫画のようにときめいたりしない。なに?一体なんなの?気付かないってどういうこと……?わたしは圭介くんの言葉の意味がよくわからなかった。

「お前は俺のことをそんなふうに思ってたのかよ?軽い奴だと思ってたのか?」

 違う。本当はそんなこと思っていない。カッとなって思ってもないことを言ってしまったの。なんて、言っても信じてくれないかもしれないけど。

「お前は……俺のことどう思ってんだよ!」

「どう思ってるかって?そんなの決まってるでしょ!」

 ダメ。ここから先は言っちゃダメ。言ったら圭介くんを困らせてしまう。でも、言い出したらもう止まらない。

「好きだよ。好きに決まってるでしょ?ずっと好きだったの!」

「えっ……?」

 ついに言ってしまった。言ってはいけない胸の内を。

「だから胸が痛いよ!どうしてわたしにキスしたの?それなのになんで坂井さんとキスするの?これ以上わたしの気持ちをかき乱さないで!」

「かき乱したつもりはない!」

「じゃあなんでよ!」

「まだわかんねぇのかよ!?俺もお前が好きなんだよ!」

「……えっ?」

 圭介くんが、わたしのことを好き?ずっと?

「でも……お前と付き合うことはできないから忘れろと言ったんだ」

「なんで?どうして付き合えないの?」

「俺が教師でお前が生徒だから」

 そっか……。結局そこへ辿り着くんだね。予想はしていたよ。圭介くんが教師でいるためには生徒とのスキャンダルがあってはいけない。同じことを坂井さんにも言っていたもの。結局はわたしも坂井さんと同じ扱い。

「……だから紗弥、俺のことは忘れろ」

「忘れろって……なにを?」

「俺を好きだということも、キスのことも」

 ズキッと胸が痛んだ。圭介くんの言葉は遠回しに突き放されたような気がした。

「そして、お前を大事にしてくれる人と付き合え」

「なによそれ……。もう圭介くんなんて知らない!大っ嫌い!」

 わたしは泣き叫ぶような声で言い残して教室から走り去った。そんなわたしのあとを圭介くんが追ってくる気配はなかった。


 ***


 学校から出てとぼとぼと歩いていた。頭の中は圭介くんのことでいっぱい。わたしに圭介くん以外の人と付き合えと言った。圭介くんはそれでいいの?わたしのこと好きと言ってくれたくせに、わたしが他の誰かと一緒にいたらそれでいいの?それ以前に婚約者がいるのにわたしを好きってどういうことなの?もうわからない。圭介くんのこと、全然わからない。目からは涙がボロボロと零れた。

「あ、林原さん」

 声をかけられて振り向くとそこにいたのは桐崎くんだった。

「……!林原さん、泣い……」

「っ!」

 気付かれた。わたしは人前で涙を見せないようにしていたのに……。急いで顔を隠して涙をぬぐった。

「……近くに公園に水場があるからそこで目洗ったら?」

「えっ……?」

 桐崎くんの言葉が理解できず、桐崎くんの顔を見た。

「そのままだと目が腫れるよ。それに少しすっきりするかもしれないし」

 わたしは桐崎くんの好意に甘えて近くの公園まで案内してもらった。

 公園には誰も人がいなかった。さすがに日が短くなってきているこの時期では小学生もいないみたい。そもそも、最近の小学生は外で遊ぶことが少なくなっているし。

「……理由は聞かないけど、林原さんって1人で溜め込む癖があるよね?」

 桐崎くんは優しい感じの声ででも厳しくわたしに言った。

「如月さんも気にしてたよ。最近、林原さんが思いつめたような顔をしてたって」

 やっぱり乃愛にも気付かれていたんだ。乃愛が気付いているならきっと麻由も気付いているはず。

「この前も教室で倒れたし。疲れとかストレスとか溜めすぎると大変なことになるから気をつけてね」

「ありがと……。これから気をつけるわ」

「如月さんや池波さんに心配かけるなよ?なんかあったら俺も話くらいなら聞くから」

 知らなかった。桐崎くんってこんなに優しかったのね。こりゃ乃愛が気になる理由もわかる。

「……もし乃愛達に聞かれたくないことだったら話させてもらう。ありがとう」

「いえいえ。困った時はお互い様だろ」

 桐崎くんは笑顔で言った。……あ、なんか乃愛の思っていたこと、少し理解できた気がする。この人の笑顔ってこんなにも無邪気で言っちゃ悪いけど可愛いものだったのね。

「あ、ちょっと待ってて」

 そう言って桐崎くんはどこかへ走って行った。なにか見つけたのかな?……まさか、乃愛達がいたとか?と思っていたわたしの考えは外れていた。桐崎くんは手になにかを持ってこっちへ走ってきた。

「はい、お茶だけど」

 桐崎くんはペットボトルに入っているお茶をわたしに渡した。

「……えっ?」

 わたしは驚いて桐崎くんの顔を見た。

「あ、ジュースとかの方がよかった?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」

「じゃあ、はい」

「あ、ありがと……」

 わたしはお礼を言ってからペットボトルを受け取った。

「あ、お茶代いくら?」

「いいよ、そんなの。俺が勝手にやっただけだし」

「でも……いいの?」

「いいよ。そういうところ、如月さんと似てるな」

「えっ?乃愛と?」

「あぁ。前、如月さんにジュースおごった時も同じようなこと言われたし同じようなこと言ったし」

 ……おごってもらったら誰だってそう言いそうだけど、この際気にしないでおこう。てか、乃愛にはジュースだったのね。まぁそんな感じはするけど。

「……ホント、親切なんだね。桐崎くんって」

 わたしは呟くように言った。その言葉は桐崎くんには聞こえていないはず。

「ん?なんか言った?」

「ううん、なにも」

 聞こえていないと思ったけどちょっとは聞こえていたみたい。

「桐崎くん、お願いがあるの」

「お願い?なに?」

「わたしが泣いてたこと、乃愛と麻由には絶対言わないで。というか……絶対誰にも言わないで」

 わたしが泣いていたなんて誰にも知られたくない。特に乃愛と麻由には。あの2人に知られたらわたしは……。

「なんだ、そんなことか」

「そ、そんなことって……!」

「元々言わないつもりだったから安心しなよ」

 桐崎くんは優しい笑みを浮かべて言った。

「よかった……。ありがとう」

「いーえ。どういたしまして」

 トクンと一瞬だけど胸が鳴った。なんだろう。この変な気持ち。まさかわたし……。いや、そんなわけない。わたしは乃愛の気になっている人を好きになったりはしない。絶対に。

 確かにこの人はわたしの好きなタイプに合っている。まぁ、容姿は乃愛には悪いけど圭介くんの方が断然上。そう、桐崎くんと圭介くんは全然違う。なのになんで?どうして?桐崎くんは乃愛の気になる人なのに、ただのクラスメートだったはずなのに……。どうしてこんなに、気になってしまうの?



舞原です。

久々の投稿です。


これにはいろいろわけがありまして……。

詳しくは後ほど活動報告で……。


というわけで、紗弥の恋④大変長らくお待たせしました!

はい、話ぐっちゃぐちゃー……。

とりあえず紗弥は乃愛達が思ってる以上に辛い恋をしてます。

今後の圭介先生はどうなるんでしょうかね。



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