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これがラブですか?  作者: 舞原きら
番外編
102/115

紗弥の恋②

 あの日以来、圭介くんとは話していない。わたしは質問を口実に話しかけようともしないで、でも呼び出されたくはないから授業は真面目に聞いている。圭介くんも圭介くんでそんなわたしを呼び出すことも出来ず、ここ最近目を合わせてもいない。

「紗弥ー。最近数学のこと聞きに行かないね?あの先生になってから結構聞きに行ってたのに」

 休み時間、乃愛に言われてドキッとした。なんで乃愛はこういうことには鋭いのかな。普段は鈍いくせに……。

「だって最近ちゃんと理解してきたからね。それにあの人の教え方にやっと慣れてきたからかな?」

「……もしかして紗弥、圭介先生のこと嫌い?」

「はい?」

 一体どうしてそうなった?質問に行かなくなった=嫌いって方程式はおかしくない?

 そんなことを思うわたしの心情を悟ったのか、乃愛は焦った様子でわたしに言った。

「違うよ!?質問に行かなくなったから嫌いなのってことじゃなくて……。だってほら、紗弥って圭介先生のこと『あの人』って呼ぶじゃん?だからてっきりそうなのかと……」

 はっとした。そういえばそうかも。わたし、みんなの前では圭介くんのことを『あの人』と呼んでいた。無意識だったから言われるまで気づかなかった。――違う。無意識じゃない。『圭介先生』じゃなく『圭介くん』って呼んでしまうことを恐れて言わないだけだ。

「別に嫌いじゃないよ。ただ……」

 ただ、なんだろう。理由が思い浮かばない。正直に言ったら知り合いだということを気づかれてしまうかもしれない。わたしの好意に気づいてしまうかもしれない。

「ただ、なに?」

「……知り合いと同じ名前だから間違って『先生』じゃなく『さん』って呼びそうだから」

 我ながら苦しい言い訳だと思った。こんなのちゃんとした理由じゃない。それだけで先生をあの人呼ばわりしないもん。

「へぇー、そうなんだ!別に嫌いじゃないならいいや!」

 あれ?意外にそのままスルーしてくれた。いや、わたしからすればありがたいけど、この子は本当に人の話を信じて疑おうとしないのね。なんか悪いことしたみたいで少し罪悪感を感じてしまう。

「そういう乃愛はどうなの?あの人のこと好きなの?」

「まぁ先生としては好きだよ?恋愛対象抜きで好きかな」

「そう……。わたしもまぁそうかな」

 恋愛対象として好きと言えば騒ぎになりそうだからやめておこう。先生という存在だから好き、と言えば周囲の目をごまかせて怪しまれない。

「ねぇ聞いて!明日の放課後、圭介先生と2人きりで数学教えてもらうことになったの!」

「きゃーなにそれ!うらやましい!」

 ……えっ?圭介くんと2人きり?そう話している女子がいて声のした方を向いた。そこには前々から圭介くんに好意を抱いている坂井さんだった。数学の授業中に問題を解いている時にいつも質問したり解き方を聞いている子。好意は明らかにバレバレ。

「最近、全然ついていけなくてね……。休み時間に聞きに行ったら『僕もいろいろと忙しいので明日の放課後でしたらしっかり教えられますけど……。お急ぎですか?』って言われちゃってね!教えてもらうならしっかり教えてもらいたいし、なにより圭介先生と2人きりになりたいしね!」

「よかったね!告っちゃえば?2人きりになれるチャンスなんて滅多にないんだから!」

「そのつもり!放課後に2人きりなんて絶好のチャンスだよね!……期待しちゃってもいいのかな?」

「いいでしょ!キスの1つや2つ、奪っちゃえば?」

 キ、キス……?圭介くんと、キスするというの?なに考えているの?そもそもそんなことが学校側にバレたら……。わたしは坂井さんの答えを待った。

「――考えておく!」

 その答えを聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。

「紗弥?」

 圭介くんが他の女の子と、それも生徒とキスするだなんてそんなの……。

「嫌だよ……」

 そう言った瞬間、目の前の風景が回った。

「紗弥!」

 乃愛の叫び声が聞こえたかと思えば、わたしの意識は暗闇に落ちて行った。


 ***


 目を覚ますとわたしは白いベッドの上に寝ていた。ここ、保健室?

「起きましたか?林原さん」

 カーテンが開いてわたしのそばによって来たのはわたしが最近避け続けていた圭介くんだった。

「圭介、くん……?」

 わたしがそう言うと圭介くんは耳元で小声で言った。

「『先生』だろ?」

「あ、圭介先生……。どうしてここに?」

「如月さんの叫び声が聞こえたので駆けつけてみるとあなたが倒れていたんです。そこでたまたまあなたの近くにいた彼……桐崎くん、だったでしょうか?彼がクラスメートに言われてあなたを保健室まで運ぼうとしていましたが、僕が止めてあなたをここまで運びました」

 桐崎くんがわたしを保健室まで運ぼうとしたことを止めたの?そして圭介くんがわたしをここまで運んでくれたの?なんでそんなことを圭介くんが……?てか、どうして桐崎くんが?確かに彼は親切だけど。……そうか、だから乃愛も。

「圭介先生、生徒さんは目が覚めましたか?」

 保健室の先生がわたし達の方へやってベッドの近くにあった椅子に座った。

「はい、今状況を説明していたところです」

「そうですか。では圭介先生、あとはよろしくお願いします。わたしはこれから出張なので」

「はい、わかりました」

 保健室の先生は白衣を脱ぎ、荷物を持って保健室から出て行った。え、今圭介くんと2人きりは結構辛いのに……。2人きりにしないでよ先生!

「それじゃあ早速聞きたいことがいくつかあるから聞いてよろしいですか?」

 圭介くんは先生口調で言った。その声がいつもより少し低いのは気のせい?

「は、はい」

「倒れた原因は睡眠不足のようですね。目の下のクマ、気付いていませんでしたか?」

「気付きませんでした……」

「僕は授業中に気付いたというのに本人が気付けないなんて。気を付けてください」

「はい……。すいませんでした」

 まさか自分が気付くより先に圭介くんに気付かれていたなんて。しかも倒れた原因が睡眠不足だなんて……。

「では2つ目の質問よろしいですか?」

「はい……?」

 すると肩を強い力で掴まれた。あまりに強い力に一瞬顔が歪む。

「せ、先せ……」

「桐崎って生徒と紗弥、一体どういう関係だ?」

 圭介くんはさっきよりも低い声で言った。不機嫌なのは明らかだ。しかも口調が先生口調じゃなくなった。わたしだけに向ける、幼馴染としての口調。

「ど、どういう関係と言われてもただ同じクラスなだけだよ?」

「だったらなんで紗弥が倒れた時に彼が紗弥を運ぼうとしたんだ?いくら男でも1人の女を抱きかかえようとするなんて好意があるか、それなりの関係だということしか考えられない」

 わたしを、抱きかかえようとした?あの桐崎くんが?

「そんなんじゃないってば!本当にただのクラスメート!たまに話すけどアニメの話しかしないもん!」

「だったら他の男の近くで倒れんなよ!」

 えっ?それって一体……。他の男子の近くがダメなら圭介くんの近くでならいいの?

「仕方ないじゃない!故意に倒れたわけじゃないもの!どうしたの圭介くん、なんかいつもの圭介くんじゃない!」

「そうさせたのはお前だよ紗弥!」

「えっ?」

 わたしが、圭介くんをいつもと違う圭介くんにしちゃったってこと?そんな、どうして?わたしがなにをしたというの?わたしの頭の中は疑問だらけだった。

 そして、わたしの肩を掴む圭介くんの力が一瞬緩くなったと思えば、腕を掴まれてそのまま圭介くんの方へ引っ張られた。それと同時に唇が重なった。

 ……えっ?なに、これ?一体どうなっているの?目の前には圭介くんがいて、わたし達の唇が重なっていて……。キス、しているの?圭介くんにキスされていると理解したわたしは思わず圭介くんの胸を強く押した。

「な、なにして……」

「わ、悪い紗弥!」

 圭介くんは椅子から立ち上がってわたしから離れて行った。

「待って!圭介くん!」

「なにしてんだ俺……。紗弥、今のことは忘れろ。俺も忘れるから」

 そう言い残して圭介くんは保健室から出て行った。

「圭介くん!」

 名前を呼んでも圭介くんは立ち止まらず、そのままどこかへ行ってしまった。

「待ってって言ってるんだから止まってよ……!ねぇなんで?どうしてよ!」

 わたしはなにがなんだかわからず、布団を力任せに叩いた。だって、わけわかんないよ……。なんでいきなりキスなんてするの……。自分からしておいてなに後悔しているの?なんで忘れろなんて言うの?忘れられるわけないでしょ……!好きな人にキスされて……そんなの、忘れられるわけないじゃん!

「バカ……。圭介くんの、バカァ!」

 泣き声が外に漏れないように布団に顔をうずめてひたすら泣いた。布団が濡れることもお構いなしに。いっそのこと、圭介くんへの想いも涙と一緒に流れてくればいいのに……。


更新遅れました!

今後も不定期になりますが、ご了承ください。


いつもと違う紗弥の一面を見ることができてどう思いますか?

恋すると女の子って変わるものなんですね。


先生と生徒の恋って難しいですね。

実際わたしが経験したらあまりの切なさにどうすることもできないでしょう。

みなさんはどうですか?



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