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これがラブですか?  作者: 舞原きら
番外編
101/115

紗弥の恋①

番外編スタートです!

今回の主人公は林原紗弥になります!

「ねぇ、紗弥は恋とかしないの?」

 ある日突然、乃愛にそんなことを言われた。

「……えっ?突然なに?」

「だって紗弥のそういう話聞いたことないんだもーん!」

「そうだよー!あるなら正直に教えてよー!」

「あー!もう!うるさいよあんた達!わたしは恋なんてしたことないってば!」

『なーんだ……』

 乃愛と麻由は残念そうな顔をした。……なんてね。本当は恋をしたことがある。正しくは進行形。――圭介くん。立場なんて気にしなければわたしのそばにいてくれたの?わたしは今でも貴方が好きなの。圭介くんは……?


 ***


 8歳上の幼なじみのお兄さん。それがわたしの初恋の人であり、好きな人。でも彼は全寮制の大学に行ってしまったためもう何年も会っていない。だからびっくりしたの。彼が後期になって突然、この学校にやってきたことが。“先生”としてやってきたことが。しかも彼は数学の先生でわたし達のクラスの数学担当だった。

 授業が終わった後、彼のところに質問に行った。すると彼はわたしの顔を見て驚いた顔をした。そして懐かしむような顔をして小さな声で呟くように言った。

「……紗弥?」

 覚えていてくれたんだ……。わたしのこと……。もう何年も会ってなかったのに。それだけで十分だよ。もう十分すぎるくらい嬉しいよ……。

「お久しぶりです。“圭介先生”」

 自分からそう言ったくせに胸がズキンと痛んだ。あぁ、先生と生徒の境界線。分かってはいたけどやっぱり苦しい。

「……どうしましたか?“林原さん”」

 彼は一瞬悲しい顔をした後すぐさま生徒に向ける先生の笑顔になった。

「ちょっと質問があって……」

「あー……すまないけど今は忙しいから放課後でもいいですか?」

「あ、はい……」

「それでは放課後、選択室に来てください。お願いします」

「はい」

 ……嘘。絶対今忙しくなんかないよ。きっとわたしのことを幼なじみの妹として接してしまいそうだから2人きりになりたいんだ。でもそれはわたしも一緒。圭介くんと2人きりで話したいことがあるもん。わたしは早く放課後にならないかと内心楽しみだった。


 ***


 放課後になってわたしは選択室へ移動した。コンコンとノックすると中から「はい」という声がした。聞き間違えるはずがない。圭介くんの声だ。わたしは「失礼します」と言って中に入った。

「……久しぶり紗弥。何年振りだろう」

「圭介くん……!」

 わたしは圭介くんに駆け寄って昔のように手を握った。圭介くんの手は昔とは違う気がした。

「圭介くんが大学生になる時だから7年振りだよ」

「そんなに?あ、でも確かにそうだな。その時紗弥はまだ小4だったし。もう高2なのか……」

「そうだよ。変わらないね圭介くんは」

「おい……。一応学校だから先生にしろよ」

「あ、そっか……。圭介先生は7年経っても変わりませんね」

「林原さんは変わったね。前よりグッと大人っぽくなったよ」

 圭介くんのその言葉を聞いてわたしは胸が痛くなった。大人っぽくなったって言ってくれたことに対する喜び、圭介くんの笑顔にドキッとした。でもそれと同時に名字で呼ばれたことに対して距離を感じてしまった。幼なじみなのに、初恋の人なのに、先生なんだ……。

「ありがとう、先生」

「……林原さん、質問とは一体なんですか?」

 圭介くんは数学教師の顔になった。あ、もう先生の顔に戻っちゃったんだ……。

「はい、ここなんですけど……」

 圭介くんが先生として接するのならわたしだって生徒として接しよう。幼なじみでもなく、1人の生徒として。


 ***


 圭介くんと再会してから1ヶ月が経った。見た目も若く、かっこいい圭介くんは女生徒の人気の的だった。そしてそれを見る度にわたしの胸はもやもやしていた。

「あの今休んでる数学の先生の代わりに来た若い先生、結構人気だよねー」

 突然麻由がそんなことを言い出した。わたしと圭介くんが幼なじみということは誰も知らない。生徒だけでなく先生までも。

「そうだね。顔がいいからじゃないの?」

「でも確かにかっこいいよねー。てかすごいいい人だよね!なんかお兄ちゃんみたーい!」

 ドキッ。そりゃそうだよ。8歳しか違わないんだもん。だからお兄ちゃんも同然だよ。

「そういえばうち、こんな噂聞いたんだよねー、あの先生の」

「噂?」

 圭介くんの噂?それってわたしの知っていること?それとも知らないこと?いや、圭介くんのことでわたしが知らないことはないはず。でも……会っていなかった7年の間になにかあったのかもしれないと思うと不安になる。

「あの先生、婚約者がいるらしいよ?」

 婚、約者……?

「えーっ!嘘ーっ!?」

「噂だから本当かどうかはわからないけどね」

 もう乃愛と麻由の言葉は耳に入らなかった。大好きな圭介くんに婚約者が?でもおかしくはない。圭介くんはもう25、6歳だもん。彼女がいても不思議じゃない。でも辛い。苦しい。そんな時チャイムが鳴って圭介くんが入ってきた。そっか、次の授業は数学だった。どうしよう、わたし、多分圭介くんのこと見れないよ……。


 ***


 案の定、授業をちゃんと聞いていなかったおかげで放課後に呼び出しをされてしまった。場所はもちろん選択室。

「林原さん、今日は一体どうしたんですか?」

「……」

 わたしは俯いたまま何も言わなかった。2人の間には沈黙が生じた。すると圭介くんは小さくため息をついた。

「ごめん、やっぱり無理。紗弥の前で先生の顔は疲れる」

 圭介くんは『先生』じゃなく、『幼なじみ』の圭介くんとしてわたしに言った。

「それで、一体なにがあったんだ?紗弥」

「……」

 それでもわたしは黙ったままだった。

「俺に言えないってことはまさか恋愛関係じゃないよ、な?」

 圭介くんは茶化すように言ったけどその発言にわたしはビクッと反応してしまった。そして圭介くんはそれを見逃さなかった。

「……そうなのか?」

「……」

 黙ったままなにも言わないでいると圭介くんがわたしの両肩を掴んだ。

「まさかなにかされてないだろうな?DVとか、大丈夫だよな!?」

 圭介くんの顔は真剣そのものでわたしの肩を掴む手の力は強かった。

「違うよ……!そういうことじゃないし彼氏とかいないし」

 だってわたしは小さい頃から今まで圭介くんしか好きになってないもん。大体の人は『いい人』止まり。圭介くんがわたしの理想の人だから他の人を好きになることはできない。

「そっか、いや、それならいいんだ……」

 圭介くんはすごく安心しきった顔をしてわたしの肩から手を離した。なんでそんなに安心しているの?なんで真剣な顔でわたしのことを心配したの?――わたしが幼なじみの妹のような存在だから?

「……ねぇ圭介くん」

「なんだ?」

 わたしが授業をちゃんと聞いていなかったのは麻由から聞いた話が原因なの。だからってこれを聞いていいのかはよくわからない。でもね、わたしは本当のことが知りたいの。圭介くんの口から直接聞きたいの。

「あ、のね……わたし、その……」

 言いたいことは決まっているのに言葉にできない。だってこれを聞いてもしそれが本当だったらわたしはきっとこの場で泣き出して走り去ってしまう。そんなことしたらもう圭介くんと顔を合わせられない。

「どうした?やっぱりなにかあったのか?」

 圭介くんはさっきみたいに真剣ですごく心配した顔でわたしを見た。ねぇなんで?どうしてそんな顔をするの?いくらわたしが圭介くんの幼なじみで妹のような存在だからって圭介くんに好意を抱いているわたしからすればそんなの思わせぶりに過ぎないよ。もしかしたら圭介くんもわたしのこと、って期待しちゃうよ……。そんなことを考えてしまったら突然涙がこぼれた。

「さ、紗弥!?おいどうしたんだよ!やっぱり……!」

「圭介くん……」

「なんだ?言いたいことは正直に言っていいんだからな?」

 そんなこと言われたらもう止まらないよ……。聞きたかったことが自然と口から出てしまった。


「――婚約者がいるって、本当なの?」


「えっ……?」

 圭介くんの戸惑っている声がはっきりと聞こえた。当然だよね。突然泣き出したかと思えば婚約者の有無を聞かれたんだもん。

「どうしてそんなことを聞くんだ?」

「今日友達から噂を聞いたの。だからすごく気になったの……」

「いつの間にそんな噂が広まったんだ?」

 圭介くんは否定も肯定もしなかった。どうして?曖昧は態度しないでよ。いるならいる、いないならいないってはっきりしてよ。

「べ、別に、圭介くんに婚約者がいてもなにも不思議なことじゃないし。わたしには関係のないことだもん」

「……本当にそう思っているのか、紗弥」

「えっ?」

 圭介くんは低い声でそう言った。圭介くんの低い声は明らかに不機嫌な証拠。なに?なんでそんなに不機嫌なの?わたしは圭介くんを不機嫌にするようなことを言ってしまったの?

「なにも覚えてないのか……」

「えっ?」

 覚えてない……?もしかしてわたしは圭介くんの婚約者を知っているということ?でも圭介くんと年の近い女の人をわたしは知らない。

「……覚えていないのならいいよ。それより、紗弥はもう17歳になったのか?」

「え、うん。なったよ」

「そうか」

 どうして圭介くんは突然そんなことを言い出したのだろう。圭介くんに婚約者がいることとあたしの年齢に一体どんな共通点が?

 もう、圭介くんがなにを考えているのかわからない。でもこればかりは乃愛や麻由には聞けない。2人はわたしには好きな人がいないと言っているし、第一好きな人が先生だってことを知られたらデメリットしか浮かばないもん。この恋はわたしが1人でどうにかしなくちゃいけないものなんだね。


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