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100.それぞれのホワイトデー

 麻由と加賀美くんの関係は1ヶ月経った今でも順調に続いている。相変わらず加賀美くんファンの子が教室の前に来ることに変わりはないが、2人はそんなの一切気にしてはいないらしい。

「聞いて聞いて!今日の終業式が終わったあとにヒロくんと2人で出かけるの!」

 朝、教室に入ると麻由は満面の笑みでわたし達に言った。そんな麻由を見て紗弥の顔が引きつったのをわたしは見逃さなかった。

「え、なに?朝から惚気?この幸せ者が」

「ちょっとー!そんな冷たい反応しないでよー!」

「そういえば今日はホワイトデーだからね」

 そう、今日は3月14日、ホワイトデー。たまたま今年はホワイトデーと終業式が重なったらしい。それをいいことに麻由と加賀美くんはデートか。

「はいはい、よかったですねー。それで、乃愛は桐崎くんと出かけたりしないの?」

 突然紗弥に話を振られた。まさか話を振ってくるとは思わなかったからあたふたしてしまった。

「え、出かけないよ?なにも言われてないし……」

「うわっ、桐崎くんサイテー……。彼女をホワイトデーなのにほったらかしとか可哀想だわ」

「べ、別にわたしは……!」

 期待していないと言えば嘘になるけど、そこまで期待しているわけではない。わたしはただ、少しでも桐崎くんと一緒にいられればそれでいいもん……。

「まぁ、お返しを忘れてなかったらさっきの言葉は撤回するわ。もし忘れていたら……どうなるかわからないけどね」

 そう言った紗弥の意味ありげな笑顔は恐ろしかった。恐ろしい、ただそれしか言えないもの。絶対紗弥を敵に回したら大変なことになる。それくらい紗弥は怖かった。

「池波さん」

 わたし達のそばに加賀美くんがやってきた。と言っても目的は麻由だけらしいけど。

「ヒロくん、おはよう!」

「あのさ、放課後のことなんだけど……」

「あ、うん」

 どうやら2人は放課後のデートについていろいろ話すらしい。わたしと紗弥は空気を読んでその場から離れた。

「ったく……。デートの話をここで堂々としないでほしいわ……」

 紗弥は呆れ気味に言った。でも正直わたしも賛成。ラブラブなのは構わないけど、そんなに堂々としなくてもいいじゃんか……。

「あの2人も一時はどうなるかと思ったけど順調でよかった……」

「まぁ順調でよかったとは思うけどあれはないわ……」

 紗弥は呆れながらもどこかうらやましそうな表情で2人の姿を見ていた。やっぱり紗弥も恋とかしたいのかな……?あ、そういえば……。

「ねぇ紗弥。実はわたし見ちゃったんだ」

「え、なにを?」

「紗弥がバレンタインデーに圭介先生にチョコを渡していたのを」

「っ!」

 わたしの言葉を聞いた紗弥の顔は驚愕の表情に変わっていた。

「あ、そ、それはその……。義理チョコよ義理チョコ!よく質問とかしてたからそのお礼的な……」

「そうだったんだ」

 なんだ、てっきり紗弥はあの先生が好きなのかと思ったけど違かったみたい。

「……乃愛、この際だから言っちゃうけどわたし……やっぱなんでもない」

「えー!そこまで言ったら最後まで言ってよー!」

「別に言うほどのことじゃないなって思ったの!」

「乃愛さん」

 紗弥と話の途中だったが桐崎くんがわたし達の方に寄ってきた。

「今日の放課後、一緒に帰らない?」

「え、でも桐崎くん……」

「俺の帰りが大変だと思うならそれは気にしなくていい。俺が送りたいから言ってるだけだし」

「でも……」

「ちょっとそこのお2人さーん、わたしの存在は無視ですかー?イチャイチャするならここでしないでくださーい」

 紗弥はさっきと同様、呆れながら言った。そりゃ目の前でこんなところ見ちゃそう思うよね……。

「あ、ごめん。じゃあ場所変え――」

「いいや、わたしが教室に戻るから。あの2人も話は終わったと思うし」

 紗弥はそう言って教室に戻って行った。

「あちゃー……なんか悪いことしちゃったなぁ……」

「確かに。俺が入って来たからか……。ところでさっきの話だけど、ダメか?」

「べ、別にダメじゃないけど……」

「はい、じゃあ決まり。一緒に帰ろう」

 半ば強引に決められたような気がするけどそんなの気にしない。わたしだって本当は一緒に帰りたいもん。ただ、桐崎くんが家まで送ってくれると桐崎くんの帰宅までの時間が1時間になってしまうのが迷惑かと思って嫌だっただけで、本音を言えば一緒に帰りたい。

「……うん!」

 笑顔で返事をしてわたし達は一緒に教室に戻った。


 ***


 危ない危ない。危うく乃愛に言ってはいけないことを言ってしまいそうになった。これはわたしの胸の中にだけ秘めておくべき想い。だって、こんなこと言えるわけないじゃない。

 わたしが、桐崎くんのこと気になっていたことなんて。

 まぁ一時だから今は違うけど。これは麻由も知らない。わたしだけしか知らないこと。だからこれから先も言わない。それに、わたしも乃愛や麻由みたいになりたいから。自分の気持ちに素直になりたいから。このことは絶対に口外しない。

「紗弥」

 名前を呼ばれて振り返る。そこにいたのはわたしの大切なあの人……。彼を見た瞬間、自然と笑みがこぼれた。


 ***


 放課後、ヒロくんと一緒に駅前の映画館に行くことになった。付き合ってから1ヶ月経った今ではフツーにあたしの隣にいてくれる。あたしにはそれが嬉しくてたまらない。

「そうだ。池波さんに渡すものがあるんだ」

 ヒロくんはそう言ってバッグの中から小さな紙袋を取り出した。

「はい、ホワイトデーのお返し」

「わぁ!ありがとう!開けていい?」

「いいよ」

 紙袋の中にはラッピングされた袋が入っていてその袋をあけると中には――。

「わぁ……可愛い……!」

 キラキラした石のついたストラップが入っていた。

「それ、池波さん好きそうだと思ったんだ」

 ヒロくんは微笑みながら言った。わたしは早速ケータイにストラップをつけた。

「でもあたしには可愛すぎるんじゃない……?」

「そんなことないから大丈夫だよ、麻由」

「っ!」

 ドキッ。いきなり名前で呼ばれて顔が熱くなるのを感じた。だってこんな、いきなり……。

「クスッ、顔真っ赤」

 ヒロくんは笑いながら言った。

「だ、だってヒロくんがいきなり名前で……!」

「じゃあ名字の方いいの?」

「えっ……。な、名前がいい……」

「じゃあいいだろ?」

「うん……」

 あたしが返事をするとヒロくんはあたしの手を握って歩き出した。

 2ヶ月前、ヒロくんに条件付きで付き合ってもらうことになった時、あたしは振られると思っていた。ヒロくんは乃愛のこと恋愛対象として見ていないと言っていたけど、あたしはただの友達であって彼女にはなれないと思っていた。でも1ヶ月前、あたし達は正式に付き合うことになった。こんなの予測してはいなかった。乃愛と紗弥が励ましてくれてもポジティブにはなれなかった。今、こうしてヒロくんと一緒にいられるのは2人のおかげなんだ。

 ありがとう、乃愛、紗弥。2人のおかげであたしは、今すごく幸せです。これからもあたしのそばにいてください。


 ***


 約束通り桐崎くんに家まで送ってもらった。もちろん、その間一言も話していないが。

「送ってくれてありがとう」

「いえいえ、それに乃愛さんに渡すものあったからね」

「渡すもの?」

「はい」

 桐崎くんはラッピングされた袋をわたしに手渡した。袋の中に入っていたのは花と蝶の飾りがついたヘアピンだった。

「可愛い……。いいの?こんな可愛いのもらっても?」

「あぁ、乃愛さんに似合うと思ったけどどうかな?」

 わたしは袋の中から取り出して早速髪につけてみる。

「ど、どう……?似合う……?」

「似合うよ。可愛い」

 ドキッ。また不意打ちの可愛い発言……。桐崎くん、付き合ってから結構可愛い発言連発している気がする。嬉しいけどめちゃくちゃ恥ずかしい……。

「なぁ、1つ聞きたいんだけど」

「なに?」

「乃愛さんのこと、呼び捨てで呼んでもいいか?」

 ……ねぇ、どうしてそんなこと聞くの?答えなんて聞かなくてもわかるでしょ?好きな人に、彼氏に、呼び捨てで呼ばれて嬉しくないわけない。むしろ呼んでほしいよ。

「いいよ。呼び捨ての方嬉しいもん……」

「ありがとう」

 桐崎くんは微笑みながら言った。この笑顔、わたしはすごく好きだなぁ。優しい感じの笑顔を見るとこっちも笑顔になる。

「じゃあわたしも1つ聞いていい?」

「いいけど?」

「は……『颯くん』って呼んでいい?」

「っ!」

 一瞬桐崎くんの顔が赤くなった。この人もわたしと同じですぐ顔赤くなるのね。それが可愛いとは口が裂けても言えないけど。

「そんなの、いいに決まってるだろ?」

 桐崎くんは顔を赤く染めさせたまま笑顔になった。さっきの微笑みよりもずっと上の無邪気な笑顔に。名前で呼ばれることってすごく嬉しいことなんだね。名前で呼ぶことってすごく特別感があるんだね。

「好きだよ、乃愛」

 ドキッ。早速名前で呼んでくれた。しかも好きって言ってくれた。一度に嬉しいこと言うなんて反則です……。

「わたしも、颯くんのこと好きだよ」

 名前で呼ぶ、ただそれだけのことなのに声が震えた。恥ずかしくて死んじゃいそうなくらい顔が熱くなった。

「……抱き締めても、いいか?」

「……うん」

 桐崎くんはわたしのすぐそばまで来てゆっくりとわたしを抱き締めた。腕の力はすごく優しくて大切にされているんだと実感できた。わたしも桐崎くんのことを大切にしていこうと桐崎くんに抱き締められた腕の中で思った。



 男子が苦手なわたしが恋なんてできるとは思わなかった。でもクラスを通して、部活を通して、心惹かれるままに桐崎くんのことを好きになった。桐崎くんのことを好きになってわたしはいろいろな思いを経験した。恋することの楽しさ、辛さ、痛み、切なさ、そして愛おしさ。全部桐崎くんに恋したことで知ることができた。

 桐崎くんはこんなにもわたしを大切にしてくれている。それは付き合う前から変わらない。……ううん、付き合ってからは友達の時以上に大切にしてくれている。そして、愛してくれている。わたしはこんなにも愛されているんだって実感できるほどに。だからわたしも桐崎くん、ううん、颯くんのことをこれでもかっていうくらい大切にする。これでもかっていうくらい愛する。

 ねぇ颯くん、貴方はわたしに恋することの楽しさ、辛さ、痛み、切なさ、愛おしさを教えてくれたね。おかげでわたし、やっとわかったよ。そういう気持ちが“ラブ”だということを、わたしの颯くんを想うこの気持ちが“ラブ”だということを。颯くん、わたしに“ラブ”を教えてくれてありがとう。

 わたしはこれからも颯くんと一緒にいたい。だからお願い。わたしのこと離さないで。離れていかないで。わたしにとって貴方は、とても大切な愛おしい人だから……。



はい、「これがラブですか?」は以上で完結となります。

読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございます。


バレンタインデーにまさかのホワイトデー(笑)

そこは温かい目で見てください……。


本編は完結しましたが、予告通り(?)番外編を始めたいと思います。

でも正直、いつから開始するかは未定です。

それまでしばしお待ちください。



最後に二度目になりますが、ここまで読んでくださった読者の皆様、

本当にありがとうございました!

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