1.男嫌いを治すには?
おかしい。わたしは男子が苦手なんだ。なのに最近よく男子と話している。今までは部活の男子としかちゃんと話したことなかったのに気がつけばクラスの男子とも普通に話せるようになっていた。
これはなにかあったとしか考えられない。そう思ってみんなに相談してみた。
「確かに最近話せるようになったよね」
と紗弥が言う。
「男子に対して態度がツンツンじゃなくなったね!」
と麻由が言う。
「やっぱりあんなことがあったから?」
と遥奈が言う。
「まぁ話せるならいいんじゃない?少しは克服出来たってことで!」
と雪帆が言う。
……うーん。なんか、ちゃんとした答えってあった?みんなには失礼だけど、どれも微妙な気がする……。
「でもさ、やっぱりこれってなんかあったとしか思えないんだよね!なんだと思う?」
『それくらい自分で考えなさい!』
4人が一斉に突っ込んできた。
考えても分からないから相談しているのにどうしてわたしはこんなにも冷たい反応されるんだ。
「じゃあいいのかな?少し克服出来たってことで……」
「そうそう」
「あまり気にしない方がいいと思うよ」
「てかさ……」
紗弥が話を切り出した。わたし達は一斉に紗弥の方を向く。
「乃愛、あんた恋しなよ」
『――えっ?』
「こ、恋?わたしが!?」
男苦手なわたしが、男を好きになれと?恋愛しろと?
「いやいや!む、無理だよ!わたし、男子苦手だし」
「だからそれを治すために恋しなって言ってるの」
「あぁー。なるほど。そういうことね」
遥奈が納得したように呟いた。
「でも乃愛には試練みたいなものだよね……」
雪帆も遥奈に続いて納得したように呟いた。
「えっ?どういうこと?なんで?」
納得してないのってわたしだけ?麻由はなんかニヤニヤしてるし……。
「知りたい?知りたいの?乃愛」
妖しげな笑みを浮かべ、麻由は言った。
もちろん知りたいに決まってる。けどこの麻由の顔を見たら知りたくないかも……。
「知りたいならうちに『教えてください麻由様』ってい――」
「うるさい麻由」
麻由の後ろにいた紗弥が持っていた雑誌で麻由の頭を思いっきり叩いた。バシッと痛々しい音がした。
てか、また本で叩いてるし……。
「つまりわたしが言いたいのは、恋して誰かと付き合えば自然に距離が縮まるでしょ?そうすれば男子に対して苦手意識がなくなるんじゃないかなって思ったの」
あぁなるほど。確かにそうすれば自然と苦手意識がなくなるかもしれない。けど……。
「わたしに地獄を味わえというの!?男子のそばにいるなんて無理!それに……それにまだトラウマがあって近づきたくは……」
トラウマ。少し前にあったある出来事がきっかけ。
「そっか……。そうだよね。あれはトラウマになっちゃうよ」
遥奈は静かに呟いた。
ある出来事、それは遥奈の元カレである橘悠斗に迫られたこと。
腕を掴まれて逃げられない状態を作られ、無理やりキスされそうになった。雪帆が助けてくれたからキスされないで済んだけど、もし雪帆が来なかったらわたしはファーストキスを奪われていたかもしれない。
今でも腕を掴まれた感触や橘くんの顔を思い出すと身震いしてしまう。男嫌いが更にひどくなった気がした。
あの日以来、橘くんとは話していない。そして、彼は遥奈と別れてから誰とも付き合っていない。まだ日は浅いけどあの女好きで有名な彼に彼女がいないのは驚きだ。
「遥奈はあの日以来なんかあったの?」
「まさか!あるわけないよ!橘くん元々あたしのこと好きじゃないんだからさ!」
こういうことを躊躇いなく言えるってことは遥奈はもう大丈夫なのかな?多分引きずってないね。
それならよかった。遥奈が次の恋に向けて頑張ってくれるなら。
「乃愛って案外ビビリなのね……。そんな適当に理由つけて男子から避けるから治らないのよ!」
紗弥が呆れたように言った。
そんなこと言われなくても分かってはいるよ。でもやっぱり怖いんだよ……。男子と話すことも男子の近くにいることさえも。
「そういえば乃愛の部活って男子もいるよね?」
雪帆が言った。そういえば最近、なにもすることなくて行くの面倒だからって理由で部活サボってたっけ……?っても2週間くらいだけど。
「うん。いるよ。最近部活行ってないから全く話してないけどね」
わたしがそういうと紗弥がさっきの麻由みたいに妖しげな笑みを浮かべてわたしに言った。
「よし、今日は部活行け!そして誰かに恋しな!」
「だから恋なんて出来ないってば!」
まず第一に、わたしは恋するとは言ってない!勝手に話を進めないで!
そう心の中で叫んだ。言葉にすると紗弥になにをされるか分からなかったから。
とりあえずこんな流れでわたしは今日、久しぶりに部活に行くことになった。