1日目 クリスマス 隆之
誤字や脱字、意味の分からないところがあるかもしれませんが、良かったら読んでください。感想をいただけると嬉しいです。
「ごめんな、美希・・・こんな大切な日にこんなところへ連れてきて・・・」
「いいよ・・・こうやって2人一緒に居られればいい。」
白い吐息を吐き、俺の腕にすがりながら美希は嘘をついた。はにかんで笑っていた。これは美希が嘘をつく時の特徴だ。
まぁ誰でもクリスマスに何の明かりもない、あるといえば運送会社の事務室の電灯の光しかないこんなところへ来たいはずがない。
夜になると車1台通ることのない田園の直線道路にひっそりと立つ運送会社。そこのトラック出入口に俺と美希は立っていた。一厘のゆりと折鶴365羽を手にして。
ゆりは親父が好きだった花。折鶴は1日の出来事を書いた折り紙で折ったもので、毎年365羽ささげていた。今年で1095羽になる。
俺は今年の思い出をビニール袋に入れた。
「美希、それも入れてくれる?」
「うん」
白い手袋に握られたゆりはビニール袋の中におさまった。
「ありがとう」
そう告げると俺はセンターラインを見つめ、しばらくして目を瞑り、合掌した。
・・・目を開けると、隣にいた美希もわざわざ手袋をはずして手を合わせていた。
「なんかホント・・・わりぃ・・・」
「良いって、謝らなくて・・・。それにしても・・・」
微笑んだ美希は縁石横にあるビニール袋に目を移した。
「私・・・隆之のお父さんに会ってみたかったなぁ。白バイ隊員だったんだよね?」
「・・・あぁ、そうだ。」
「かっこよかっただろうなぁ・・・」
本当にかっこよかった。俺の親父は・・・。自慢できる親父だった。俺は天田に散らばる星を見上げた。
親父は今でもこの幾千の星から俺たちの安全を願って見守ってくれているのだろうか?
そう信じて今日まで生きてきたし、これからも生きていく事になる。
「よし!美希、メイン会場へ急ごう!」
「待ってました!!」
本当に待ちくたびれたと言う顔をしていた。ポケットから車の鍵を出し、運送会社の駐車場に止めた車に向った。
「今年はどんなところだろうなぁ?」
腕を組み、俺にすがる美希が白い息をはいた。
「ここだよ。」
「嘘でしょ!?」
今まで我慢していた美希はつい、本音が出てしまったという様子だった。その証拠に口に手を当てて、申し訳なさそうな顔で俺を見ている。
「嘘だよぉーん。」
「もう、最低!」
肩にかけていた鞄を美希は頬を膨らませ、俺にぶつけた。
「痛いって・・・」
こんなじゃれている時が俺にとっての一番の幸せだ。その時の美希の笑顔が良い。
そんなことを思っていると急に美希は叫んだ。何も隠し事をしていなかったが、隠し事がバレたのかと思い、一瞬汗をかいた。
「な、何だよ急に・・・」
「手袋忘れた・・・」
全くドジな奴だ。もう車が目の前にあるというのに。いつになっても直らない。
「ちょっと取り入ってくるね。」
「車で入口まで行くからなぁ。」
「わかったぁ・・・」
俺から走り去る美希の背中が建物の角に消えると、妙な寂しさが俺を襲った。
急に冷えた体を温めようと、すぐさま車に乗り込み、エンジンをかけた。
この車は俺が大学2年のときに親に買ってもらった4人乗りの軽自動車だ。初めは嫌だったが、乗りなれていくうちに、こいつの性格とかをわかり、自分なりアレンジした結果、好きになった。
のんきに1人で温まっている場合ではない。俺は車を動かした。
重圧感のある音が寂しい景色に響いているわかる。建物のカーブを曲がると、出口が見えた。そこには美希と・・・誰かいる!
頭に何か被った、全身黒い装いをした奴が美希の両肩をつかみ、思いっきり揺さぶっている。
このままだと美希が危ない!!
俺はアクセルを一気に踏み込み、軽快なブレーキ音が止むのと同時に車から飛び降りた。
「美希から離れヤガレ、クソ!!」
俺はそいつを蹴り飛ばしてから、美希に駆け寄った。
「大丈夫か、美希?」
美希はひどく強張っている。まぁ無理もない。全身黒で頭になにか被った変人に襲われたのだ。
「後は俺に任せろ。」
そうかっこよく言おうとしたのに、美希は俺の前から逃げ、蹴り飛ばした奴のそばに行った。
「な、何で?」
俺は地面に崩れた。
「誰なんだあいつ?まさか・・・浮気されていたのか?」
「大丈夫ですか?」
美希は屈んで奴をいたんでいる。俺はそいつへの怒りでいつの間にか燃えていた。
そして動いていた。
「ちょっと隆之!!待って!!」
もう遅い。俺はその男の襟をつかみ上げ、起こし、思いっきり拳を握った。
一人前に革ジャンを着てやがる、似合わないヘルメットしやがって。
「隆之!!その人はあなたのお父さんよ!!」
俺は息を呑んだ。
「こいつが・・・俺の親父!?」
よく見ると、俺がつかみあげているのは白バイ隊員だった。証拠にバッジやワッペンがついている。制服マニアじゃない限り本物だ。
「久しぶりだな・・・隆之・・・」
今まで俯いていた顔が上を向いてのと同時に、気を失いそうになった。目の前にいるのは紛れもなく、死んだはずの親父だった。