22話目 大股スキップ影薄高速移動。
王都に着いてからというもの、謎の白いヤツと目が合ったり、抜け出した先でクリーム色の神と対話したり、魔が差して魔物と少し遊んで死にかけたり、二日間くらいのうちに何とも濃い時間を過ごした訳だけど、やっと本命の観光に移れる。
何で観光したいのかって?
そんなのそうしたいと私の心がそう思うからだよ。
きょーみ。
なんの意味もないのに動画サイトで無駄に時間を潰したりするような感じさ。
今の私は事実上存在しない人物だからね。
誰にも縛られず、自由に行動できる。
かと言って、周りのことを考えず好き勝手する気は今のところないけど。
そもそも、それができるだけの実力なんてまだ無いしね。
◇
「来週末はダンジョン実習あるらしいぜ。」
「げっ、まじかよダリー」
「そう? 私は楽しみだけれど」
「ダンジョン……場所はあそこですかー。あそこたまに『酒浸りの浮浪者』が居るから、あまり行きたくないんですよねー」
下校中であろう男女四人組の学生達は、いつも通りの日常を過ごすように。
これが俗に言うリア充、と言うヤツだろうか。
「これ、査定してもらっていいっすか(鼻をピクピクさせながら)」
「はいっ、かしこま……えぇ!? なんですかこの巨大な魔物は!?」
「なっ、あいつは討伐難度『とっても強いよ』級のブラッドキンググリズリーじゃぁねぇか!?」
「なっ、なんだって!? あいつ一体どんな実力してやがるんだ!?(モブA)」
「なっ、なんだって!? おいおいこのグリズリーほとんど傷がねぇじゃねえか……(モブB)」
「なっ、なんだって!? この傷痕、まさか一撃で倒したってのかよ!?(しれっと混じったモブCの変装アテルビア)」
「あれっ、俺またなんかやっちゃいました?(嬉しそうに頬をピクピクさせて)」
なろう系主人公みたいな人が周りからヨイショされていて。
「モテル様っ、大好きですっ(ハート目)」
「アタシの方が何倍も好きよっ(ツンツン系)」
「わ、私もモテル様のことが好きです……(恥ずかしそうに)」
「妾もお主の事が好きなのじゃ(ロリのじゃエルフ)」
「僕もみんなのことが好きだよ(やれやれ被害者ムーブ)」
眉目秀麗に囲まれたハーレム主人公みたいなのも居て。
この国では基本的に法律で重婚は許されないのだけど、どうするのだろうか。
「今日付けでお前を『蒼月の牙』から追放する」
「なっ、なんで!?」
「お前のチッとも効かねぇ補助魔法なんかに無駄金を払いたくねぇんだよ。だよなァ? お前ら!」
「ったく、ほんといい迷惑だぜ」
「そうよ、この金食い虫が」
「私達は上のランクを目指しているのです。あなたのような無能は必要ありません」
「そんな……確かに補助魔法は効かなかったかもだけど、それでも今までパーティに貢献してきたじゃないか!」
「あんま言い訳ばっか言ってんじゃねぇぞ!! さっさと出てけよ、無能」
何度も見たことのあるようなテンプレ追放系があったり。
実は本当に無能だったりしてね。
他にも、俗に言う聖剣みたいなのを持って魔法陣から突然現れた勇者みたいな人や、体中に銃器を纏い裏路地に入っていく眼帯をした隻腕の人。
軍服におびただしい数の勲章を着飾り、魔道具を起動し空へ飛んでいく多様な種族が入り交じった軍隊さんに、突然人が入れ替わったかのように、彼の3歩後ろを付き従う従者に心からの謝罪をする悪徳貴族と名高い青年だったりと、多種多様が過ぎる程には濃いキャラ達がいた。
その他にも色々居たけれど、すこーし歩いているだけで、物語の冒頭を何種類も読んでいるような、そんな気分になってしまうね。
一言で表すのなら……そうだね、此処には数多くの物語が乱立している。そう感じる。
私は物語を観るのが好きな存在なんだ♪
だから、やっぱり変装しといて良かったよ。
◇
観光と言う行為には、移動が伴う。
一日で多くの場合を見漁りたいのなら、それは顕著に現れるだろう。
かく言う私も、前世では色んな場所を観光していきたいがために、靴を改造したり、サポートタイプの薄い布のようなもので出来たスーツを使いまくったりと、"移動"と言う行為には何かと苦労を強いられてきた。
この世界には、前世世界とは違い『魔力』といった、摩訶不思議な力が存在し、この世界の存在達は、この力を至極普通で普遍的なものとして扱っている。
『魔力』は、今確認できている中では、エネルギーであれ、物質であれど、ある程度の魔力量や魔力の操作・制御技術があれば変換することが出来る。
要は、前世の世界で憧れた『魔法』と言うモノを扱う事が出来るという訳だ。
さて、ここで私は考えた。
魔力を操り、魔法を最大限に利用すれば、どれ程までに、移動を楽に出来るのだろうか、と。
……何故今までやらなかったのだろうか。
まぁ、良い。
クハハハッ。こう言う探求は、嫌いじゃあない。
◇
この様な試行に大事なのは、《《明確な条件を兼ね備えた目的》》だと私は考える。
なんでも、そのようにした方が物事が上手くいったらしい。
体験談だ。私のね。
条件は……
1、周囲に対する破壊的な効果が無いこと。
2、音を立てないこと。
3、移動速度や方向を緻密に制御出来ること。
4、簡単に発動や解除が可能なこと。
5、そして周囲に魔法の使用がバレないこと。
この計五つの条件の下、魔法を作ってみる。
勿論、この王都を観光しながらね。
あくまでも私の目的は王都の観光をすることなのだから。
◇
「クハハハッ クハハハハ 気分はまるで、母親から瞬足の靴を買って貰った時の小学生のように晴れやかだよ!」
私は今、王都の大通りを大股でスキップしながら音を立てずに爆走している。
風が心地よい。
《想造模倣・旅人の靴下》。
並びに、《追従型防護結界》。
モデルは神話。
森の中で練習した歩法と併用する事により、己の存在感を極限まで薄め、結界と併用する事により空気抵抗を今出来る極限まで減らし、そして周囲の人にとって私の声は殆ど風に掻き消され、聞こえることはない。
思考能力の向上に伴い引き伸ばされた時間の中、ただ黙々と鍛えぬいた魔力操作・制御技術によって魔力消費量は抑えられ、緻密な構造の元造られた魔法は効果以上の効果を発揮し、それがあればあの森に居た魔物達ですら容易に倒すことができたのであろう。
なんて、こんなにも爽快だと、少し調子に乗ってしまいそうだ。
魔力が、もっと好きになってしまいそうだよ。
こんな事まで出来てしまうのだから。
ただ、個人的な考えを言うのであれば、異世界ラノベの主人公達もそのチート能力を、戦いのためだけに利用しない方が楽しそうなのになぁ、と。
そう思った所存である。
◇
▽▽▽【備考】
・《想造模倣・旅人の靴下》
ギリシャ神話に登場するオリュンポス十二神の一柱で、ゼウスとマイアの息子であり、俊敏と知恵の神と言われる"ヘルメス"と言う存在が元ネタ。
まるで風が吹くかのように移動する魔法。




