閑話 そのあと、のお話。2
草木は、風に吹かれて軽く揺れる。
水面は、その表情に波紋を靡かせ、月明かりは、暗くなった夜を照らす。
そんな、自然の気配達の中、不自然なまでに、生物の気配だけが、抜け落ちている。
───満身創痍の彼は、使用している魔法のせいか、自然が起こす動作の一つ一つにさえ、敏感にその気配を感じ取っていた。
《探知》《探査》《解析》。
これらの魔法は、“練度こそ違えど”、一般的な魔法だ。
転生者の一人、アテルビア・リベルスタは、前世では扱えなかった、そもそも存在すらしなかった魔力と言う、この世界に数多と存在する摩訶不思議な力の一つに、酔いしれていた。
転生直後から有り得ない程の速度で魔力という存在を見つけ出し、その時から片時も離れず、まるで、気に入った玩具を遊び倒す子供の様に、今の今まで魔力の使用を繰り返し続けている。
……そんな彼と、普通と称される者達とでは、一般的な魔法ですら、魔法の練度に天と地ほどの差がある。
繊細で精密な魔力運用技術は、使用する魔法の真価を発揮させ、それにより得られる情報量は膨大なものであり、“準備”を完了させるには十分であった。
「《喰らえ》」
そう、小さな声で彼は唱える。
──瞬間、子供の身体中から黒い液体が溢れ出る。
黒色をした液体は大量に流れ出て、地面を彩り、やがて結界内の、地面の全てを埋め尽くす。
墨汁のような黒き液体は結界の縁に辿り着くと、数瞬赤く光る魔力の光が、禍々しい口と牙の紋章を象り、その魔力に呼応するかの如く、黒液は渦を巻き始めた。
獣達の、毛皮、血肉、臓物、爪牙、植手、脳髄、──そして魔石。
その全てを呑み込むように、黒は絡み付き、底の見えない黒液が引き込んでいく。
──凪。
黒き湖は、やがて結界内の全ての遺体を取り込み、その場は静まり返った。
小さな身体の、穴という穴から流れ出た墨汁が如き黒の液体は、子供の背面に吸い込まれていくように、段々とその姿を縮めていき──包み込む。
球状。
まるで卵の様な形に、死体のような身体の子供を黒の液体は包み込んだ。
ゆらゆら、と。表面が波打つように揺れては黒き触手が生え、先程呑み込んだ獣達の身体を素材にする為、切り裂き、抉り出し、また卵へと取り込んでいく。
中身は、相変わらず見ることが出来ない、一切のムラもない漆黒。
数分が過ぎた時、突如としてここら周辺の魔力濃度が、急激に低下する。
黒き卵は足りない、と言わんばかりに、その表面に渦を巻き、全体は捻れ、結界内にある全ての魔力を喰らう様にして、貪り尽くす。
恐らく、最終段階に入ったのであろう。
黒卵には無数の亀裂が入り、そこからは禍々しくも静かで、整えられた紅き閃光が。
周辺魔力濃度は限りなくゼロに近づき、静まり返ったこの場に、息を吹き返す様に、黒卵から緩やかな鼓動が発される。
そして──“孵る”。
勢いよく割れ、破片が飛び散り、黒い子供は孵った。
……僅かながらに成長して、真新しい衣服を纏った姿で。
▽▽▽【備考】
・【《喰らえ》と言う魔法について】
私達生命体が何かを食べて、その食べ物を噛み砕き、飲み込み、消化分解し栄養として取り込むのと同じで、この魔法の効果はただそれだけである。
黒き液体はこの魔法によって生成されたものではなく、この魔法はあくまで上記の効果しか持たない。
・【黒き液体】
特にこれと言った名称は無く、アテルビアはこれを、『タール、黒い水、汚水』などと度々呼び名を変えながら称している。
この液体は、魔力操作での形状変化が可能な物理攻撃の手段として、アテルビアが構想し、生成ていた武具の一つで、残念ながら武具として扱えるだけの強度を得ることが出来ず見送りとなった、《《武具として》》の失敗作。
普段は体内に圧縮されながらに貯蓄してあり、全て出し切ると今回のように、結界内の地面全てが見えなくなるレベルには量のある、魔法触媒用の“体液”。
色が黒なのは性質上の問題では無く、隠密時や夜間での運用を目的としているためであり、やろうと思えば何色にでもできる。
分類上は魔導具に分類され、アテルビアが所持する、【シークレット・トイ】の中の一つ。
・【魔力濃度】
一定空間内にある魔力量・魔素量が占める割合の事。
魔素濃度とも言うが、今回の場合は魔力濃度に該当する。
・【シークレット・トイとは?】
ひ・み・つ☆
▼▼▼《作者視点──あとがき──》
【そのあと、のお話。】はこれで終わりです。
あと1回は閑話入れるので、お待ちください。
そして、閑話の後は先ず改良を終えた後になりますので、少々時間がかかるとは思いますが、よろしくー。




