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自分らしく異世界を謳歌する転生者は狂気的~ゲームの世界?いいえ、もはや異世界です。  作者: 黒白のアレ。
第2章 転生者はある程度で満足するもの
23/28

20話目 一雫の好奇心、小さき世界で幾多の惨劇。後編




 ……………………………。

 ……………………。

 ……………。



 武器を持ち、相手に振りかざし、攻防を繰り広げる、こんな想像をしたことがあるだろうか。

 あるいは、実際にやった経験があるだろうか。


 それが起こるまでの経緯などはどうでも良い。


 それが復讐によるものだったり、一方的な恨みであったり、自身の命を守るためであったり、闘争本能によるものであったり、愛憎であったり……果てには、ただの好奇心から、なんて珍妙な理由からであったり。


 考えてみてほしい。相手は人であろうが獣であろうがなんでも良いが、自分と、相手による戦い。


 手にしている武器は片手剣なんかでいいかな。


 理由はなんであれ、目の前の相手と、戦わなければならない。


 ゲームや、ごっこ遊びの遊戯なんかでではなく、実際に、命と命がぶつかり合う、争い、殺し合い。


 無論、相手も攻撃をしてくるだろう。


 殺し合いをするって言うのに、攻撃をしようとせずにただじっと、サンドバッグのように突っ立っているや木偶の坊なんかいない。



 考えろ。

 


 その手に持つ剣が、相手の腕に切り傷をつけて、その傷から血が流れ、相手は悲痛の表情を浮かべていた。


 その傷口からは、赤黒い血が流れ出て、周りは炎症を起こしている。



 考えろ。



 相手は焦ったように剣を、もしくは爪を振りかぶり、それに呼応するかの如く、私自身もまた、剣を振る。


 相手があれだけ痛そうにしていた原因《剣》が、すぐ横を通り過ぎる。

 

 ブン、と空気が擦れる音が聞こえた。


 負けじと剣を振るって、相手も剣を振って、剣同士が合わさって、互いは命の危機に顔を強ばらせ、互いに、危険物を押し付け合うかのように。



 考えろ。



 最初に相手の腕を切り裂いた時、私自身はどんな表情をしていた?


 相手は、どんな風にしていた?


 日常生活では追うとこのない、作為的な切り傷。想像もしたことのないような痛みに、瞳からは涙が溢れるようになっていたかもしれない。



 考えろ。



 ゲームのように、ただ剣を振るい、ダメージの表記と、ダメージ数が表記される、だけでは終わらない。


 相手と戦っている間にも、気温、湿度、匂い、音、景色、表情、感触、唾の味。


 剣の重み、握る手の摩擦、流れ出る汗、匂える血の香り、焦り恐怖し鼓動する心拍、震える手元、相手に刻まれた、見るだけでも痛々しい傷の跡。


 多くの情報が羅列し、そのどれもが鮮明に感じられた。



 己が命のため、剣戟を繰り返そうとする。



 そうすると、あの誰もを傷つける刃物が私自身にも、相手にも近ずく。



 考えろ、考えろ。



 想像しろ、その光景を。



 実際に、自分自身がそれをやる像を。


 



……考えれたかい?


 ならばどうだろうか、君にそれが、《《できる》》だろうか




 戦いには、恐れがあって然るべきだ。



 剣を握り、刃先を視認し、恐れる。



 あぁ、相手に振り下ろしてしまった……怖い。


 あんなに痛そうな顔をして……恐怖する。



 腕から血が出て……痛そう。


 



 嫌だっ! 怖い怖い怖いっ、握る手が、剣の重さが怖いぃっ!赤色が塗られた鉄の刃がぁぁっっ!見る度にあの痛々しい情景をぉぉぉ……

 いやだぁっ剣に切られたくないぃっ! 傷つけられたくないぃ! 死にたくないっ! 殺されたくないっ! 殺したくないっ!





……当たり前だ。



 痛みを感じるんだ、相手の顔が見えてしまうんだ、感情が存在するんだ。


 いつの日か……その攻撃が喉元へ突き刺さり、己が心の臓を切り開き、脳髄を突き破り、苦悶の表情を浮かべ、苦しみと痛みと恐怖に悶えながら死ぬ。


 そんな未来すらも、然も実際に起こった出来事のように、変えようのない、現実のように見えてしまう。


 戦いとは、命を賭して行う殺し合いとは、そんなものだろう。






──だが、彼はちがった。



 思えば、これも彼の異常性を示すひとつの事例になるのだろうか。



 アテルビアは、前例とは異なっている。



 痛みを知り、恐怖を感じ、命の重さを見いだし、相手の思いも理解し、苦痛も痛みも恐れすらも満遍なく感じるはずなのに、多少常識と考えがズレていようとも、恐れ慄くはずなのに……日本と言う、平和な国で育ち、命の削り合いなど知っているはずもないのに。



 彼が恐れを感じることはない。




 故に、アテルビアは………とうの昔から狂いに狂い、狂いきっている。



 ただ一つ言うのであれば、アテルビアは決っして、初めから天才などという存在ではなかった。


 それでいてチートじみた何かを持っている訳ではない。


 特別な環境が整えられていた訳でもない。

 

【特別】というものを持って生まれてきた訳では無い、ということだろうか。







▽▽▽《森の魔物達視点》



 …………。


 多くが死んだ。


 今も尚、着々と。


 周りには、沢山の仲間達が倒れ伏せている。


 念仏の音などは聞こえず、音を立てるは戦いのものばかり。


 死体のほとんどが、まるで故意的にやったかのように、綺麗な状態で。

 まるで眠ってしまっているかのように、死んでいる。



 魔力の供給源は既に壊された。


 空から攻撃出来る中で最も強かったであろうフクロウも殺された。


 度重なる戦いの余波で、少なからずの傷を負わされた……。




 噎せ返るほどに、強烈な鉄と臓物の臭いがするのにも関わらず。

 多くの戦闘音が聞こえるにも関わらず、周囲にいるはずの魔物達は姿を現さない。


 私達は見捨てられたのだろうか、この広い森の中に住まう、干渉こそほとんどしていなかったものの、共に生きていた森の魔物たちに。


 そんな考えが頭の隅を這い回る。


 ただ、助けは来ないのだろう……と、そんなことだけは、漠然と理解できた。




 残りは僅か十数匹といったぐらい。


 されど、倒れ伏せた仲間の体内に残る、月の光によって集められた多大な魔力を、体躯に生える植手を地中から伸ばし吸収し、過剰分を生き残っていた仲間に分けることで、魔力だけは十全と有る。



 まだ、可能だ。



 過剰なまでに溢れゆる魔の力が、溢れんばかりの殺意が、忘れ去ろうとする恐怖が。


 私達の、狂えるほどに煮えたぎった殺意と、自信に拍車をかけ、後押しをする。



 これならば、これだけあれば、これほどの力があれば……いける!


 目の奥から、憎悪の焚べられた赤黒い灯火が灯るように、光明が見えた。



 心が《《共鳴する》》かのように、残り少ない仲間達が顔を見合せ、意を同じくした。


 最早、こうしている今も、殺戮を繰り返すあの悪魔を殺せるのならば、命を賭してでも、と。


 

 多くの時を共にした、植を使い、地を中を這う自然の根を使い、魔力を用いた10匹そこらの、一点特化の最大魔法。



「「「ガァァ!!『《|絶え間なき植の鞭で惨殺する魔法サン・パレ・スプラウト》』」」」


 

 その瞬間、魔物たちから溢れる大量の魔力が、ただ一点を集中し、集い……塗り固まり、ヘドロのように心の奥底にへばりついた、狂える殺意が───共鳴を起こした。


 

 寸分違わぬ殺意が、魔力の共鳴反応を起こす。


 魔が増幅し、自然の鞭は、所要魔力分の効力を大きく上回り、その総合的な威力は、ドラゴンのネコパンチ☆にも匹敵する程であろうか。


……されど、されども、蔓の鞭が振り下ろされる直前に見えた、悪魔の見透かすようなそれでいて嘲笑するかのような眼に、僅かばかりの不安と、煮詰まった殺意を感じた。



 そして、そしてそして、自然の大魔法が解け、地が割れ沈没したその先に、あ……悪魔は…無傷でっ……立っていた。


 無傷で、なんの外傷もなく立っていた。



 防いだ形跡は見られない。


 だから……だから、あの絶え間なく続く植物魔法を、避けきった、という訳なのだろうか。








「もう魔力は枯渇寸前、といったところかな。ほら、隠し種があるのなら早く出さないと、もうそろそろ終わらせるよ?」

 

 

 惜しくも、遊戯の時間が終わってしまうかのような言動で、無表情に、アテルビアは言う。


 自分たちが本気で、全力を注いで尚、奇跡と呼べるモノ(共鳴)まで引き起こした魔法攻撃を無傷で受け切り、ムカつくまでに色を変えないその表情。


 なんだその表情。


 お前のせいで自分たちがどれだけ……。



「「「ガ…ガァ"ァ"」」」「「「グルァ"ァ"!」」」「「「「グ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」」」」

「「グギャ"ァ"ァ"!!」」

「ギャ"グア"ア"ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」


 

 耐えきれぬ苛立ちが、今にも破裂しそうになるほどの恐怖が、不満が、殺意が、恨みが。

 傷つけられた喉の事など知らんと言わんばかりに、憤怒の色を漏らし、決壊する。


 その瞬間、少しだけ目の色を変えていた悪魔のことなど気付かずに……。





 耐え難い理不尽。絶え間なく襲いかかる現状への不満と、濁り、狂いきった悍ましい殺意。


 今すぐにでも殺してしまいたいのに、魔力は底を尽き、単純な爪と牙による肉弾戦も、望み薄だろう。

 そんなことは、幾度となく、理由もなしに殺されていった仲間たちを見て、理解できている。



 理解《《は》》できているのだ。



 でも、けれども、殺したい。


 殺さなければ収まりきらぬ激情が、理屈では到底収まりきらない苛立ちが、渦巻き、塗り固まり、赤黒く。


 多大なストレスは、脳髄を掻きむしるようで。



 殺したいけど殺せない。


 延々とループする思考のジレンマが、異常なまでの殺意が、何もかもを染め上げてゆく。


 思考を、衝動を、欲求を、精神を、肉体を……魂すらも。



『もう……いい。何でもいい。』

『只々目の前の悪魔を殺す力が欲しい……!』

『痛みも……恐怖もいらない』

『許しきれない……殺意がぁ"ぁ"』

『殺す!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!』

『殺す…こいつは殺さなきゃダメだ』

『噛み殺す、それだけの力を』



 激情が、不満が、殺意が、最骨頂に達するその時、目に見える変化が起こる。


 絶え間なく蓄積され続けた膨大な殺意が、魂を侵食し、根源からの殺す意思が、魂を、精神を、存在そのものを『殺』へと変貌する。


 莫大な『殺』の意が、精神を、魂すらも削りすり減らし、存在を蝕み、形容しがたい痛みが襲うにも関わらず、途切れることのない殺意。


 己の存在すらも捨て起こる変貌。

 本来、意思のみで起こり得るはずのないそれは、流石にアテルビアでも予測する事が出来ず……アテルビアの顔には喜の色が浮かぶ。



 濃密な殺意は目に見えるほどに赤黒い流体はやがて収束していき、森の魔物たち……殺意に狂える獣たちには、最早知性の欠けらも無いようで、おどろおどろしい姿への変貌を……否、進化と呼べるほどのモノを起こしていた。


 存在そのものを代償にした、本来起こり得るはずのない強化《狂化》。


 歪な進化は、やがては自壊が始まり時が経てば魂ごと、存在ごと消滅してしまうもの。


 だから、アテルビアはただ逃げるだけで勝利が確定する最大の好機。

 幾ら進化によりステータスが跳ね上がろうと、魔法を解禁すれば逃走を図るくらい容易なものだろう。


 だから逃げ………否。



───逃走の姿勢を一向に見せず、口端が裂けんばかりの笑みを浮かべ、愉しそうに、悪魔はただ構えていた。








▽▽▽《アテルビア視点》



 兆候はあった。


 起こそうと試行錯誤もしていた。


 されど起こるはずもないと大して期待していなかった事象は……今、目の前で起きた。


「【狂転禍化きょうてんかが】……まさかここで見ることが叶うなんて……」



 狂うように、災禍へと、存在そのものを転化してまで進化する。



 故に、狂転禍化。


 そう呼ばれるらしい。



 


───自然を体現するかのような新緑の毛並みは狂える殺意にそそのかされ、赤黒く、流体のように可視化した殺意がオーラのように体表をゆらゆらと覆っている。


 爪牙は鋭く、そして強靭に。


 身体から生えている植物の蔓からは、枝分かれして食虫植物のようなものまで生えている。


……それが10匹ちょっとも。



 相手は明らかなまでの超強化。


 相対する私の身体は少し疲れが出てきている。


 強いて言えば、今の魔物たちからは知性を感じられないくらい───いや、痛みを感じてもそのまま突撃してきそうだな。


 余計不利になったかもしれない。


 つまりだね……何が言いたいのかと問われれば、これは流石に死ぬかもしれない。


 という事かな。

 



 狂転禍化を起こした森の魔物達は、体表から醸し出すその赤黒い圧だけで、力量の差を知らしめる。


 私からしたら、の主語が付くのかもしれないけれど、強大な力をその身に宿し、知性を失った獣達は、先程とは比べ物にならない、暴風のような速度で、魂の自壊を進めながら向かってくる、


 ここに着くまで、約0.3秒と言ったところか。



 命の危機が、時の感覚を鈍らせ、膨大な思考の渦に呑まれてゆく。



──0.3秒前


 流石に魔法禁止のままだと死んでしまうだろうか?

 そもそも彼彼女らのタイムリミットはいつまで?

 魔力すらも使わないのは流石に縛りがキツすぎたか?

 かと言って外部干渉系の魔法はつまらないな。

 そもそも魔法禁止にしたのは、魔力の動きを阻害する魔物が居るから、それに当たっても死なないようにするためだしなぁ。

 よし、魔力の外部放出だけは抑えるか。

 それで内部完結型の魔法のみ使用可能としよう。



──0.2秒前


 使用する魔法は、身体強化……あとは魂視、魔力視、疲労回復、完全記憶なんかでいいかな。



──0.1秒前


 周囲環境の把握は出来ている。

 あの獣達はどう戦ってくるだろうか。

 魔法は……使えるほどの知能が欠落しているのか。

 遠距離からの魔法攻撃は懸念しなくていいかな。

 見る感じ満遍なく肉体の能力値が上がっている感じ。



……クフ、フフフハハァ! 異世界初の戦闘でこんなことが起きるだなんて、私はなんて幸運《凶運》なのだろうか!

 


 ぜ──


 ドンッ!! スシャァッッ!


 踏み込んだ地で土が舞い上がり、静止状態から最速の動きで目の前の魔物へ狙いを定め、首下まで移動し、踏み込み。


 強く地面を踏み締めた反発力、腰の捻り、力の流れを一点に、ただ一点のみに集め、逆手に持ったナイフを振り……切り裂き首を落とす。



──ろ。



 初撃だけの緩急をつけた不意打ちは、流れるように1匹の命を絶つ。



「「「グギャ"■ァ■■■ギ■■!!!!!」」」



 壊れ行く殺意の絶叫が、吹き荒れる。


 切り落とされた首が地に落ちる間もなく、爪が、鞭が、牙が、数秒と経たぬ内に幾度となく交差する。


 打ち払い、防ぎ、避け、擦り付け、傷をつけ、流体のようなオーラが当た────



「グッ!?!?!? ハハハッ!」


 咄嗟に、距離をとり、左腕を切り落とす。



 オーラに触れたところから、物凄い痛みがはしり、壊れるように黒く侵食していくのが見えた。


『毒? 菌? 腐食? 狂転禍化にはこんな特性が? それとも既存の特性からの変異? 何にしろ、アレに触れたらマズイのだけは理解できたね。それにしても侵食速度が早すぎる。魔力での治療もあの速度じゃ流石にやりようが無い。とりあえず今は切り落とすしか───』



「グブグゥ"■■ァ■■■ッ■!!!」



「攻撃が苛烈すぎて考える暇すらっ、ないねぇ!」



 片腕を失った圧倒的不利な状態。


 侵食による痛み、自ら腕を切り落とす痛みと喪失感。


 どれだけ傷を付けても、身体が壊れても死ぬまで特攻してくる格上の獣。


 

「クハハァッ!ハハハハハハハハハハハハ!」



───されども悪魔アテルビアは、余りにも楽しそうで、自由の狂笑を謳う。






 斬る、避ける、穿つ、去なす、防ぐ、切られる、刺突、振り下ろし、横薙ぎ、穿ち往なし、足を掛け崩し、流れを抑えて防ぎ、動作の始まりを破壊し防ぎ、切られ、避け、防ぎ往なし防ぎ防ぎ防ぎ防ぎ防ぎ抉り防ぎ防ぎ防ぎ防ぎ切り落とし、防ぎ防ぎ防ぎ防ぎ防ぎ防ぎ防ぎ………。



 猛攻。この一言に尽きる。



───ポタポタ。



 数多くの攻防の末、多数の切り傷に侵食部を落とした数多の穴。

 牙により脚は抉れ、凶暴化した植物により毒が流れ、所々に痣ができ、狂転禍化の特異な侵食を塞き止めることにより出来た身体中の穴。


 思考のリソースが多種多様な毒と菌糸の治療、侵食の最小化と魔法維持にほとんど持っていかれ、更にそこから周囲環境の変化と適応にリソースを回さなければならず、余裕はない。


 傷口の治療に血液の補充も並行してはいるものの、失血多量で今すぐにでも倒れてしまいそうだ……。



 攻防は続く。


 魔物が死ぬか、魔物と悪魔の両方が死ぬまで。


 悪魔の動きは、驚く程に小さい。


 彼の膨大な、有り得ない程に膨大な思考能力は、恐ろしいまでの適応力を持ち、加速させ、変化に適応し、この戦いの中で、技巧を鍛え上げた。


 血が減り、毒に侵された結果、失血の量を限りなく減らし、毒の巡りを鈍化させる戦い方へと適応する。


 

 だが……彼は突然、それをやめた。


 己の命を守る戦闘方法を。


 

 何故かって? それはつまらないからだ。


 もうこの戦い方は覚えた。無論、これ以上の技術があるのは分かっているし、この戦いの中で型どられた術が最上のモノだと驕るつもりは無い。



 ただ私の目標はあくまで、『《《自由にこの異世界を、二度目の生を謳歌する》》』ことであって、『強くなりたい』『最強になりたい』と言うモノでは無いんだ。



 だから───


 

 見開いたその《《眼》》は、ドス黒い渦をまくようで……黒く、黒く澄み切った星光が垣間見える。



───愉悦と悦楽、それが赴くままに。





 ボロボロの身体、穴だらけの欠陥品は、軋む音を挙げて。

 

 あと二匹、それも傷だらけの個体のみ。


 無理やりにでも、魔力で引っ張ってでも危篤状態に踏み込んだ身体を動かし、血肉で塗り固められたナイフを振りかざし、避けられる。



「グフォッ、ハァ、ハ、ァ」


 

 血管に流れた毒とともに、血塊を吐き出し、肩で息をする。


 思考が限界に近づき、視野が霞んだその時目の前には、凶悪な牙を覗かせ、食い殺そうとする獣がこちらへ飛び込むようにしていて、霞んだ視野の隅、右下半身には、私の右脚を丸ごと食らいつかんとする獰猛な魔物が見えた。


 突如として現れた生命の危機に、またも、時が鈍るような、そんな感覚がする。



『………。回避は、無理かな。麻痺毒のせいで下半身が上手く動かない。右脚も捨てるしかないか……今更右脚だけ動かそうとしても、動かしている内にはもう食われるだろうね。頭は、流石にマズイな。上半身を捻るくらいなら行けるかな? いいや、右腕を捨てて目の前の獣を殺すことにしよう。侵食は……解析が完了していて良かった。魔力による中和は可能、問題は無いかな』



 刹那、身体の上半分を器用に動かし捻り、麻痺毒の効きが浅かった、ナイフを持った右腕を、ずらりと並ぶおどろおどろしい牙の巣窟へ放り込み、捻り避けた反動すらも右腕に流し、口内から脳髄を一突き。


 無論、死後直ぐに、身体の動きが無くなる訳もなく、そのまま閉ざされた牙により右腕が食いちぎられ、胴から離れた。


 右脚は抵抗も虚しく、麻痺毒のよってほとんど動かずに喰われた。



 四肢は残り左脚のみ。


 これではカカシにすらなれない。


 そしてそんな左脚すらも、侵食と鋭爪、麻痺毒によってズタボロにされており、見掛け倒しみたいなものだ。



 恐らく次の攻防がラストだ。


 最後となるのか、それとも最期となるのか、其れは誰にも分からない。



 最後の1匹。あちらも私ほどでは無いにしろ、大量の傷が見られる。


 仲間達が惨殺され、共に狂転禍化というひとつの境地へと至った仲間までもを殺された、悲劇の魔物。


 尚も変わりなく有り続ける濃密な殺意に、私は───



「クハハハハハハハハハハ! あァ何故だろうな、何故だかとてもいい気分だ♪」


 穴ぼこだらけの身体。傷だらけの体表。自傷した傷。毒に犯された体内。


 絶え間なく続く激痛で、四肢のほとんどを失い知覚する不自由で、されどもそれらは私からしてみれば…… 繋がれていた鎖が解かれたように自由的で。

 


──喜びを感じてしまう。






 世界の彩りが、濁るように見える。


 自然の音色が、霞のようにボヤけて聴こえる。



──ゴシャッ



 今の今まで絶妙なバランスを保っていたのだろうと思われる魔物の遺体が、重力に呑まれ、音を鳴らす。



───刹那、血だらけで、満身創痍の身体を乱暴に、引きずるかのように、獰猛な獣の、何倍、何十倍もの差がある殺意の獣が、血に塗れた凶悪な牙を剥き出しにして、猪突猛進。


 麻痺毒は下半身を鈍らせ、その姿を見た獣は、目の前餌を出された飢える獣のように、ただその一点アテルビアだけを見て、猛進する。



「スゥ─────、スゥ─────」



 か細い、死の気配を濃密に感じさせる、そんな呼吸の音が、色褪せた世界の中に、木霊する。


 毒に、失血、四肢の損傷。


 最早思考に余裕は無く、されど己の心すらも偽り騙す様に、余裕を演じる。



『一度でも、やると断言したものは、例え命の危機が訪れようとも、やり遂げる。私は、そう言う存在なん



 無い力を振り絞り、身体を捻り、倒れるように、己の命を狙う牙を、回避する。



───ドゴォォ!



 良かった、賭けには勝った。


 私が回避したその先には、周囲に生える樹木とは一回りも二回りもサイズの違う巨木。


 失った知性、攻防の最中での誘導、視野の固定……私は知性を持った人類種だからね。

 相手には無い、大事な大事な知性を、使わない他無いという訳さ。


 位置誘導への思考リソースを身体強化に回し、獣の最期に相応しい技を使う。


 無論、少量の思考リソースだけで、それでいてこんな短時間で治せるほど、身体は甘くない。


 しかし、この獣を殺すには、巨木への衝突によって生じた、硬直時間の今しかない。



 なので、この戦いで学び、観て、理解したそれらを使い、四肢のほとんどを失った身体に残る、最後の武器でトドメを刺す。


観写演法かんしゃえんぽう、《月喰つきばみ》」


 月白のうさぎによる、月光からの魔力変化。

 狂転禍化へ至り、獲得した侵食の特性、牙の形状。


 模倣し、観察して演じるは獣の牙。


 そう、最後の武器とは『口』である。



 片方の、傷だらけの左脚しか残していなかった、齢僅か5歳ばかりの、自らが悪魔と呼称された事になど全く気づかなかった少年は、侵食のオーラごと首元から、殺意に狂える狂転禍化の、獣の脊髄を噛み砕いた。


 口内で発されるグロテスクで不愉快な音色、喉を流れようとする獣の血肉は……





 無論、不味い。



 



▽▽▽《アテルビア──ステータス──》



名前:アテルビア・リベルスタ

年齢:もう直ぐ5歳

種族:ほぼ人工人間

状態:もう直ぐ死ぬ

性格:マイペース

身長:約115cm

地位:リベルスタ子爵家三男



能力値比較対象:『王都ユグドラ在住20代男性十万人の平均値』


 基礎身体能力:やや弱い

   基礎体力:健康優良児レベル

体内魔力許容量:4倍くらい

 魔力操作精度:怖い

 魔力制御技術:恐ろしい

    知識量:物凄い(異世界の記憶有り)

   思考能力:■■■■■(測りしれない)

     財力:論外 ホームレスの方がマシ

    精神力:人生何周目?



【技能・技術】

『観察(前世)』『肉体操作』『改造』

『ナイフ術(前世)』『銃術(前世)』『魔力基礎』『魔法作成』『観写演法《月喰》』

『歩法』『流れ』『真似(前世)』

『モーニングスター取り扱い(前世)』

『喧嘩術(前世)』『多言語理解(前世)』

『ロードローラー取り扱い(前世)』

『速読』『速筆』『落書き(前世)』

『サボり(前世)』『演技(前世)』『共感(前世)』

『理解(前世)』『ペン回し(前世)』

『総合格闘技(前世)』『お散歩(前世)』

『創作(前世)』『モノ作り(前世)』

『飛び降り自殺(前世)』『人殺し(前世)』

『土下座(前世)』『土下寝(前世)』

『整理整頓(前世)』『運転(前世)』『鼻歌』………etc。

『転生』



【習得魔法・魔術】

『糸電話』『魂視・魔力視』『改造』『天蓋』『ザ・ライブラリ』『物質生成』………etc。



【称号】

『浪費癖のある気分屋(前世)』

『サボり魔常習犯(前世)』

『優等生を偽る者(前世)』

『マイペースな旅人(前世)』

『現代の冒険者(前世)』

『クーデターの首謀者(前世)』

『殺人鬼(前世)』『厨二病患者(前世)』

『倫理観一欠片(前世)』

『高度5000mから落下(前世)』

『恐怖を克服した者(前世)』

『虚無に在りし耐えた者』『精神異常者』

『自ら魂を自壊させた者』『子爵家三男坊』

『常識の通用しない男』『改造人間』

『神の友人』

『難度超ハードコアモードクリア』

 


【特殊・特異】

『精神構造』『前世の記憶』





▼▼▼《作者視点──あとがき──》



 という訳で、前編、中編、後編の三編構成でした。

 次からは同タイトルの場合、末尾に数字だけ付け加えとくことにします。

 作者自身に上手く分けられる実力がないので。


 次回からは少しばかり閑話を出して、その後王都観光が始まる予定です。

 今回は予定より物凄く文字数が多くなってしまい、投稿が遅れてしまったので、次回からは1話毎の、本文の最大文字数を約3000字前後、備考含め計4000字前後になるように、調整しようと言う所存です。


 今回、文字数がただでさえ多いのに、備考まで入れたら大変なことになってしまうので備考は入れませんが、次の閑話で【狂転禍化】については触れるので、気になる方は是非、期待してお待ちください。


 あと、ステータスについては区切りが良い地点で今回の物よりは短いものを入れようと考えています。

【技能・技術】や【称号】、特に【称号】なんかは面白半分に入れている節があるので、あまり間に受けなくていいです。

  主人公と周りの実力差が現時点でどれ程のものなのか、という疑問を解消するために入れさせて頂きました。



(*_ _)コメントモヨロシクゥ



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