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義妹ハーレム  作者: ひだまりのねこ


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第九十五話 幸せのカタチ


 私には人の心が見える、考えていることがわかる。


 母様のように読みにくい人もいるけれど、あれは同じ能力を持っているからであって例外中の例外だ。 


 克生さまは今まで出会った人間の中で一番わかりやすい人だった。


 そして――――ある意味一番わかりにくい人でもあった。


 その心の世界は――――ひだまりのような温かな太陽と――――心安らぐ月のような優しさと――――すべてを包み込む大海のようなおおらかさと――――雲一つない青空のような公正さと――――満天の星空のような煌めく美しさを持っていた。


 初めてだった、大抵の――――少なくとも私が出会った人々は、多かれ少なかれ心に鍵をかけている。でも克生さまには――――そもそも鍵が存在していなかった。


 彼の側に居るだけで、彼の心を覗いている時だけ――――私の心は穏やかで救われるような気持ちになった。だから――――一生側に居ると決めた。絶対に離れない、何があってもこの方を守ると決めた。


 私は誰よりも克生さまのことを知っていると思っていた。


 他の妹たちや紗恋さんよりも、もしかしたら本人よりも彼のことを理解している――――そう思っていた。


 勘違いだった。


 克生さまと融合した瞬間、私は聖であると同時に克生さまになった。


 正直怖かった。


 私は克生さまのことを知っているけれど、克生さまは私のことを知らない。


 冷酷で打算的で世界のことなんてどうなっても良いと思っている。


 ある意味克生さまとは正反対の最低の人間だ。いや……人間と言えるのかも怪しい。


 そんな私の本性を知られてしまったら――――嫌われてしまったら――――私はもう生きてはいけない。地位も名誉もお金も何もいらない、私はただ貴方の側に――――いたいだけなのだ。


 でも抗えなかった。恐怖よりも克生さまと一つになれるというチャンスを逃すことが出来なかった。



「聖、行くぞ」

「はい、心から愛しています」

「俺もだよ聖」 


 私にはそれしか言えなかった。およそ人間性というものを持たない私に芽生えた――――ただ一つ心から誇ることが出来る想い。そして――――克生さまの言葉が本物であることも私は知っている。


 だからこそ失うことが怖かった。これが最後かもしれない。震える身体を必死で律する。この恐怖に比べれば、『世界喰い』など何ほどのものだろう。



『聖……大丈夫だ。俺はお前のすべてを愛しているし、死ぬまで――――いや、死んだって離さない、俺たちはずっと一緒だ。だからさ――――もう泣かなくて良いんだよ』


 私は何もわかっていなかった。


 克生さまの強さも優しさも大きさも深さも――――何もわかっていなかった。


 私の闇も過去も恐怖も狂気とも言える愛も――――全部受け止めてくれた。


 涙が止まらない――――この焦がれるような熱は克生さまの想いだ。私に対する震えるほどの愛だ。私のすべてを知ってなお――――山のように微塵も揺るがない、海のように深い愛で包み込んで離さない。


 私は知った。本当の温かさを――――本当の自由というものを――――光も闇も全部まとめて肯定され赦されたとき――――人は本当の意味で自分自身を受け入れることが出来るのだと――――幸せになれるのだと知った。


 克生さまという大海にはクロエたちもいる。


 でも全然嫌じゃない。たくさんの愛と笑顔に包まれて自然と笑顔になる。


 こんな風に笑える日が来るなんて思ってもいなかった。


 たとえ歪んでいても狂っているとしても――――これが私の――――幸せのカタチなんだ。


 


『ねえお兄ちゃん、私、女神さまに謝らないと。実はちょっとポンコツじゃないかと疑っていたので』

『うん……まあ……感謝さえ伝われば良いんじゃないかな』


 ……なるほど、やはりポンコツでしたか。


『こらこら、私はポンコツじゃないもん!!』


 女神さま……私たちの会話を盗み聞きしたうえにわざわざ下界まで干渉してくるなんて……もしかして暇なんですか?


『そんなわけないでしょ!! 聖ちゃんの意地悪!!』


 冗談です。ですが、克生さまを相手に選んだこと、素晴らしいスキルを授けてくださったことには最大限の敬意と感謝を贈りたいです。


『むふん、わかれば良いのよ、わかればね。ほら、さっさと戦いなさいよ、皆、心配してるわよ?』


 そうでしたね……私としたことが本来の目的を見失うところでした。


『お兄ちゃん』

『ああ、俺たちの力を見せてやろうぜ』


 はい、愛は無敵ですから。


『それ私のセリフ!!』





 克生は両手に漆黒のナイフを握ると一気に『世界喰い』の本体へと接近する。幻想形態『聖』その圧倒的な速度から繰り出される斬撃は斬られたことすら自覚させず、気付いた時にはすべてが終わっている。不可視にして必殺。


『世界喰い』が声にならない悲鳴を上げる。枝葉がすべて斬り落とされ本体が丸裸になったのだ。


『殺しはしない。まだ続きがあるからな』


 しかし――――それでも『世界喰い』は止まらない、前後左右の地中から根が串刺しにせんと襲い掛かる。逃げ場はない――――はずだったが、


 そこにはすでに克生の姿は無かった。


『ふふ……私のユニークスキル『影潜り』です。この場所は異空間ですから攻撃は無意味』


 克生と聖はあっさりと戦線を離脱すると、焔のところへ戻ってくる。


「お嬢さま、残念ながら交代の時間です。溺れないようにお気を付けて」

「心配してたけど杞憂でしたわね聖。え……ちょっと待って、融合ってそんなに危険なんですの!?」


 クロエや聖の様子を見て焦る焔。


「ふふ……そうですね、お嬢さまには少々刺激が強すぎる――――かもしれません――――お嬢さま? どうかしましたか?」

「いえ……聖がそんな風に笑うなんて見たことなかったから――――」


 見惚れるように顔を赤くする焔。


「そう……ですか、私ちゃんと笑えているんですね……ふふ」


「聖が可愛い……」

「くっ……何という可憐さだ……」


 クロエと魔璃華も聖の変わりように目を丸くする。


「聖ちゃん!! いやーん可愛い!!」

「さ、紗恋さん!?」

 

 普段、わりと距離を取っている紗恋が抱きついてきて珍しく動揺する聖。


「ね? 何があったの……?」


 興味津々で尋ねる紗恋。


「究極の――――愛のカタチですよ、紗恋さん」

「くはああっ!! やっぱり私も融合したーい!!」


 頬を染め焔と飛び出していった克生を見送る聖とめちゃめちゃ悔しがる紗恋であった。

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― 新着の感想 ―
とあるマンガじゃ、幸せ空間すぎて融合先で自我を失いかけるなんて事があったからなぁ。 こっちでもちゃんと意識を保たんともしくは――。
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