第七十話 ミッションインポッシブル
大勢のタイプの違う美女との混浴――――ある意味で男の夢、憧れかもしれない。
だが――――生粋な真面目男である克生にとっては出来ることなら避けたい状況であっただろう。
優秀な彼は理解してしまっている。
ただ一緒に入浴するだけでは駄目なのだと。
混浴には大きく二つの目的がある。
一つは英雄スキルによる強化だ。これは彼女たちを守るためには絶対に必要なことであって手は抜けない。抜けないのだが、発動条件はイチャイチャすることだ。つまり――――強化するという名目で感情や欲望を誤魔化すことが出来ない。克生自身も愛情を持って楽しまなければならず、それを全員と同時並行してこなさなければならない。普通に考えて至難のミッションといえよう。
さらに言えば、克生と女性たちの関係性も考慮しなければならない。克生自身にはその認識は薄いが、やはり女性同士の間には明確な順位というか格付けが存在するからだ。
出会った順番、共に過ごした時間や質が全員異なる上、性格や価値観も異なる。それをきめ細かく把握したうえで現時点での最適なイチャイチャを選択し実行に移すという緻密な作業を愛情を保ちつつ楽しまなければならない。克生以外に出来るかと言われれば、否と言う他ないだろう。
たとえばクロエなどは口では色々言うものの、実は意外とさっぱりしているところがある。その逆に、聖は冷静で割り切っているように見えて、実は甘えたがりで嫉妬深いところがある、など。
まあ……妹たちに関してはある程度勝手に行動してくれる分手間はかからないのだが、新参組はそうはいかない。かといってあまりにも構い過ぎると今度は妹たちが拗ねるというハードモードだ。
楽しんでいる余裕など微塵も無い状況で楽しまなければならないという過酷なミッションを爽やかな笑顔を浮かべながらこなしてゆくその姿は――――感動すら覚えるほどの神の御業と言えよう。
「克生くんって本当に凄いわよね……」
紗恋は、畏怖と尊敬と好奇心、そして何より愛情を持って愛しい彼の姿を眺めている。
「こんなところで何してるんです? 紗恋さんも一緒に入りましょう」
そして――――そんな紗恋に気付いて手を差し伸べる克生。
「ふふ、そうね、出来ればお姫様抱っこしてほしいのだけれど?」
「あはは、喜んでお姫様」
この後お姫様抱っこループが始まってしまうとわかっているのに嫌な顔一つぜずに微笑む克生。紗恋も頬を染めてうっとりと胸に顔を埋めるのであった。
「そういえばお兄さま、最近メイドたちの強化もしてくださっていると聞きましたわ」
「あ、ああ……どうしてもって土下座されたら断れなくてさ」
「ふふ、お兄さまらしいですわね。でもお屋敷もそうですし、鳳凰院家の戦力が底上げされるのは良いことですから私からも感謝させてくださいませ。それに――――メイドたちだけでなく、鬼塚たち使用人にもお兄さま謹製の武器や防具を提供されているとか?」
「ああ、この間の殺し屋騒ぎとかあったからな。攻撃力はそこまでじゃないけど、防御力は目一杯強くしてある。とにかく死ななければなんとかなるからな」
たとえばシャツ一枚とっても、至近距離からショットガンを撃たれても大丈夫なほどの過剰性能だ。それをあらゆる身に着けるもので重ね掛けしているのだからやり過ぎである。
「そ、そうですか……それで……あの……」
雑談はきっかけに過ぎず、焔は恥ずかしそうに本題を切り出そうとする。
「何を気にしているんだ? 前も言っただろ、俺は焔のその身体が好きなんだって」
「お、お兄さま!!!」
焔は年齢の割に成長していない自分の身体、特に胸の発育に関してはコンプレックスを抱えているのだが、克生によってそれはだいぶ緩和されていた。しかし周囲にこれでもかと見事なスタイルの女性が揃ってしまえば気にするなと言う方が酷な話だ。なにせ一目で比較出来てしまうのだから。
だが、そんな焔の気持ちを見逃す克生ではない。愛おしそうに焔の身体を褒め続ければ、彼女は蕩けそうな笑みを浮かべて安堵の涙を流す。
「むう……兄上は大きいのは嫌いか?」
だが、今度は魔璃華が拗ねたように腕を組んで押し付けてくる。
「大きさで好き嫌いは無いけど、魔璃華の身体は大好きだよ」
「そ、そうか……ま、まあ……知ってるけど」
大好きな克生にストレートに言われれば照れるしかない。
「克生お兄さまはクロエの柔らかいのがお好きなんですよねえ」
クロエが背中から覆いかぶさるように抱きついてくる。
「……お兄ちゃんは私の雪のように白い肌を褒めてくださいます」
今度は聖が克生の首にキスの雨を落とす。
「ちょ、ちょっと聖、そこ私の場所なんですけどっ!?」
「はあ……仕方ないですね、半分譲りますので我慢してくださいお嬢さま」
「ねえサラ……あの中に入って行くの難しくないですか?」
「くっ、たしかに隙が無い……恐るべし妹軍団」
さすがに新参者のサラとミルキーナではこの状況はハードルが高すぎる。
「はあはあ……もう駄目……我慢できない!!!」
だが――――ハクアはもう我慢の限界を突破していた。
「お、おいハクア!?」
「ハクア? 大丈夫ですか!?」
「いただきまーす!!!」
二人が止めるより一瞬早くハクアは良い感じに温まっている魔力の塊に突っ込んでゆく。
「ちょ、ちょっとハクア!? そこ舐めちゃ駄目ええ!!」
「ひゃうっ!? かじったらダメだって!!」
「うは!! くすぐったいからやめてくれえ!!」
ハクアが魔力を貪る姿は控えめに言ってもけしからん光景を醸し出している。初心なサラやミルキーナは鼻血を出してすでにダウンしている。
「危なかったですねカツキ」
「ああ、ありがとうサクラ、助かったよ」
間一髪克生を助け出したサクラを労わるように抱きしめる。
「私も頑張ったんですが……」
「ミサキもありがとな。大丈夫、お前のことだって俺はちゃんと見てる」
真剣な表情でそう言われてしまえば、ミサキもふにゃりと克生に寄りかかって耳まで真っ赤になる。
「う……うう……あれ? 私……一体……?」
「えっと……たしかハクアが――――って、カツキさまっ!? にゃ、にゃにをなさっているので――――」
「あ、二人とも大丈夫か? あはは、鼻血出して少し頭打ってたみたいだから――――治療だよ」
どう考えても治療行為には視えないのだが、カツキがそう言うのならそうなのかもしれないと羞恥に耐えるサラとミルキーナ。
「ごめん、たんにイチャイチャしたかっただけ」
「か、カツキさまっ!?」
「か、カツキッ!! 戯れが過ぎるぞ!!」
真っ赤になって抗議する二人に表情を緩める克生。一応これでも慣れない場所で心細い思いをしないように気を遣っているのだ。
「……お戻りになったと聞いて駆け付けたのですが」
「千鶴!! わざわざ来てくれたのか!!」
「と、当然です……私は……貴方が大好き……なのですから。ですが……さすがにこの状況は恥ずかしいですね……」
一緒に住んでいるわけではないので、一歩遅れた形になってしまった千鶴。露天風呂にやって来たは良いものの、後からこのテンションに混ざるのは難しい。
「そうだ、良かったら個室風呂に一緒に入らないか?」
「は、はい!! 喜んで!!」
埋め合わせるためにそう提案する克生であった。
焔「もういっそのこと一緒に住む?」
聖「私もその方が良いと思いますよ? 通学時間ゼロですし」
千鶴「良いんですか!! ぜひ!!」
部屋はいくらでもあるから(金持ち感)




