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第七話 話題の転校生


 長い夏休みが終わり、新学期が始まる。


 本来であれば受験を控えた三年生たちの話題は進学や進路のこと一色になるはずであったが――――


 生徒たちの話題は別のことに集中していた。


 それは――――転校生。


 卒業まで残り数か月というこの時期に転校してきた一人の生徒が学校中の話題を集めていたのだ。



「おい、聞いたか克生、転校生が来るんだってよ!!」

「あ、ああ……うん、知ってる」


 知ってるというか、それ俺の妹なんだけどな、克生は苦笑いする。


「なんだよあまり興味無さそうだな? 見た奴の話だとめちゃくちゃ美少女らしいぞ」

「そ、そうなんだ、すごいね」


 どう反応すべきか悩む克生。


「これはチャンスだ!! 中学生活最後に神さまがくれたイベントだろ!!」


 男連中がめちゃくちゃ盛り上がっているのを女子たちが冷ややかな視線で見ている。


 克生としては色々不安しかないのだが、クロエも卒業するためには学校に行かないわけにはいかない。元々通っていた学校に通えないこともなかったが、克生の家からだと片道電車で二時間以上かかってしまいモデルの仕事に支障が出てしまう。そして何よりもクロエ自身が克生と同じ学校に通いたいと強く希望したこともあって転校することになったのだ。


 短期間しか着ない制服や学用品については、紗恋が経費として処理してくれたのでその点も問題にはならなかった。



「はい、みんな席について~!! もう噂になっているみたいだけど転校生を紹介するわね、卒業まで残り少ないけど仲良くしてあげてね。それじゃあ黒崎さん入ってきなさい」


 ガラリと教室に入って来た転校生は、黒板に大きく名前を書いてクラスメイト達の前に向き直る。


「初めまして、家庭の事情で本日よりこちらの学校に通うことになりました、黒崎クロエと申します。卒業まで短い期間ですがよろしくお願いします」


 大いにざわついていた教室内が静まり返る。男子も女子も関係ない、全員が見惚れてしまっていたのだ。その類まれな整った容姿、輝くアッシュグレーの髪、そして神秘的なバイオレットの瞳は思春期の生徒たちには刺激が強すぎた。


 そして――――特に女子たちが男子以上に反応していた理由、それは――――


「ね、ねえ……あれってもしかして……クロエじゃない?」

「だ、だよね? バイオレットの瞳なんて滅多にいないし、名前も同じなんだから絶対に本人だよ」

「マジで本物だよ……どうしよう私めっちゃファンなんだけど……」


 クロエが専属契約したファッション誌『スプラッシュ』は、発売と同時にSNSを中心に話題沸騰した。その話題の中心にあったのは創刊号の表紙を飾ったクロエ、そして謎のモデルKATSUKIの二人だった。


 彗星のごとく突然現れた二人の人気は凄まじく、創刊号はあっという間に完売、ネット上でプレミア価格が天井知らずになったという伝説をいきなり残したのだ。


 ちなみに謎のモデルKATSUKIはもちろん克生である。


 いきなり表紙とか話が違うと抵抗した克生だったが――――


『大丈夫だって。髪色と髪型変えて名前もKATSUKIにすればバレないから』


 そんなわけないだろ、名前なんてそのままだし!! と思った克生だったが――――


 クラスメイトにまったく気づかれず、逆にショックを受けた克生だったりする。



 とまあ克生のことはともかく、当然ながらクロエはクラス中から質問攻めにあっていた。


「黒崎さん、彼氏いるの?」

「こら男子ども失礼なこと聞くな!!」


 男子と女子がにらみ合うが――――


「彼氏というか、婚約者ならいますよ?」


 にこやかに答えるクロエ。


「ええええっ!?」

「こ、婚約者っ!? そ、そんな……」  


 色んな意味で騒然となる中――――


「はい、一緒に暮らしてます」


 良い笑顔で追い打ちをかけるクロエ。


 男子たちは文字通り膝から崩れ落ち、女子たちは黄色い悲鳴を上げる。


「黒崎さん、その婚約者ってどんな人なの?」


 灰になっている男子たちを置き去りに女子たちは興味津々で尋ねる。


「どんな人かって? こんな人ですよ」


 そう言ってクロエは――――


 教室の隅で気配を消していた克生の背後から両腕を回して抱きついた。



「クロエ……何してんだ」

「え? 大事な婚約者が盗られないようにマーキングしてます」


 少しだけ嫌な予感がしていた克生だったが、まさかここまで露骨にやらかすとは思いもせずに現実逃避の旅に出る。


 クラスメイトたちといえば――――口をパクパクさせながら固まっていた。 


「どうすんだ……これ?」

「最初だけですよ、すぐに慣れますって」


 そういって目を閉じるクロエ。


「しないぞ、キス」

「何でですか?」

「逆になんで教室でキスできると思ったんだ?」



 結果的にだが、クロエの言う通り騒ぎはわりとすぐに落ち着いた。皆、衝撃を受け止めきれず受験勉強に逃避したこともあるが、克生とクロエが誰の目にもお似合いだったからという要素も大きい。 


 ただし、克生の隠れファンクラブである見守る会会員たちのショックは計り知れないものがあったが、克生は知る由もない。



「な、なあクロエ……なんで俺がKATSUKIだって誰も気付かないんだ? べ、別に気付いて欲しいわけじゃないんだけどさ、なんというか……モヤモヤするというか悔しいというか」


 学校では目立たず気配を消していた今までならまだ理解できるが、クロエの婚約者であることが公になった今でも気付かれないのは克生にとって地味にショックであったのだ。


「そうですね……でも私はKATSUKIのお兄さまも好きですけど、やっぱりそのままの克生お兄さまが一番大好きです!! だから――――何の問題も無いのでは?」


 真っすぐな瞳でそう言い切るクロエを見れば、つまらないことにこだわっていた自分が恥ずかしくなってくる。


「クロエ……なんか吹っ切れたよ、ありがとな」


(そうだよな、クロエが知っていてくれればいい、わかっていてくれるならそれで十分だ)


 残りの中学生活、クロエと共に大切に過ごそうと強く思う克生であった。

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