第四十六話 クロエ狂騒曲
俺は十文字武尊。
今売り出し中の新人俳優だ。
主役ではないが、現在放送中の連ドラではそれなりに重要な役をもらっているし、イケメン俳優のエリート街道である仮装ライダー新シリーズの主役オーディションにも最終選考まで残っている。
事務所の社長からも来年は飛躍の年になると期待されているし、俺自身手応えは十分、スターダムへまっしぐらというところだ。
――――なのにおかしい。
高等部初日、久しぶりの登校でおそらく大勢に囲まれると思っていた。
自惚れるわけではないが、次に来る芸能人ランキングにも新人としては異例のランクインをしたんだ。それなりに認知されているはずだし、出演中の連ドラは記録的な視聴率で注目度も高いからな。
もちろん数人からはすごいね、と言葉をかけられたが、囲まれて質問攻めになるということにはならなかった。もちろんその方が面倒ごとにならずに助かるのだが、何というか少しだけ拍子抜けしてしまう。
たしかに俺が通っている星彩学園はエリートが集まる場所だ。一般の生徒といっても普通じゃない。俺が所属している芸能科には、現役のアイドルやモデルが揃っているし、俺と同じような俳優の卵が何人もいる。
だからかな、と思っていたのだが――――違った。
今年、芸能科に異例の中途入学してきた生徒がいたのだ。
黒崎クロエ――――当然知っている。
今一番注目されているモデル。今や若い女性のカリスマ的な存在でその人気は計り知れない。それなのに事務所にも所属せず出版社の専属契約のみで露出は極めて限られているから、彼女が載っているファッション誌はすべてプレミアがついて高額取引されている。
かくいう俺も業界の伝手で何とか手に入れた。たとえ幾ら積まれても手放す気は無い。
正直に言えばファンだ。もちろん売り出し中の身で公言できるはずはないが、何とか会えないかマネージャーに泣きついたこともあるほどには。
まさか……同じ学校、しかも同じクラスに彼女が入ってくるなんて!!!
俺が注目されなかったことなんてどうでも良い。気持ちは痛いほどわかる。俺だってクロエの方に行くからな!!
ふふふ、これはもう運命だろう。
やはり俺はスターになるために生まれて来たのかもしれない。そして彼女は俺の隣に相応しい女性だ。
善は急げというしな、早速お近づきに――――
駄目だった……。女子どものガードが固すぎる。会話どころか接近することすら出来ないじゃないか!! まあ……他の男どもも同じだからその点は安心なのだが。
とはいえ、このまま手をこまねいているというのも性に合わない。
ただでさえ仕事が忙しくて学校に来れる日が少ないのだ。不利ではあるが、打つ手はある。
「どうしたの? 珍しいじゃん、武尊が私に相談なんて」
同じ芸能科に所属しているクラスメイトで幼馴染のモデル四葉。彼女を通じて紹介してもらえば良い。
最近はお互い仕事が忙しくなってあまり会話する時間も無かった。久し振りの会話で他の女を紹介してくれ、なんて言ったら普通の女ならぶん殴られそうなものだが、幸い四葉はさっぱりした性格でお互いに恋愛感情は持っていないのでそこは問題にならない。
「え? クロエを紹介して欲しい?」
四葉は、同じモデルということもあって、クロエとはクラスでも結構仲がいい方だと思うし、実際に一緒に居る時間も長い。
「ほら、話をしたくてもこんな状況だろ? クラスメイトなのにいまだに自己紹介すら出来てないんだ」
「あはは、たしかにね。ここだけの話、同じ相談されたの武尊で十人目だよ? 基本的には全部断ってるけど、武尊だったら紹介するだけなら構わないかな」
「ほ、本当か!!」
持つべきものはコミュ力高い幼馴染だな!! しかし十人目って……どんだけ必死なんだよお前ら!! クラスの男どもに叫びたい衝動に駆られたが、紹介を許されたのは俺だけだ。ふふふ、主人公補正ということで許して欲しい。
「でもさ――――もし武尊がクロエに異性として好意を持っているんなら悪いこと言わないから諦めた方が良いとは友人として先に言っておく」
な、ま、まさか……すでに彼氏がいるのか? ま、まあ……それはそうか、あれだけ魅力的な女性を放っておくわけがない。だが――――
「はは、それじゃあまるで俺には可能性が無いみたいな言い方だな? 自惚れるわけじゃないが、相手がどんな奴だって負ける気はしない!!」
「まあ……武尊ならそう言うだろうとは思った。でもさ、他の子はともかくクロエは無理だよ、一パーセントでも可能性があるなら応援するけど、そうじゃないから――――私もさ、武尊が玉砕してボロボロになる姿を楽しめるほど薄情でも悪趣味でもないし」
いくら四葉でもその言葉は受け入れられない。この俺が戦う前から負けるなどあってたまるか!!
「四葉はクロエの相手を知っているのか?」
「うん」
「俺とどっちがカッコイイ?」
「……それ、私に聞いて恥ずかしくない?」
「は、恥ずかしいに決まってるだろ!! この際なりふり構ってられないんだよ!!」
「はあ……仕方ないなあ、幼馴染補正を加味しても向こうの圧勝だよ、別に武尊が悪いわけじゃないけどね」
なっ!? 話題のイケメンランキング常連の俺が負ける……だと!?
くっ、だが――――俺はただイケメンというだけじゃないんだぜ?
「イケメンなんて三日で飽きる、大事なのは大切な女性を守れる強さと甲斐性だ!! 俺にはそのどちらもある、中学までのおままごとみたいな恋愛とは違うんだよ!!」
俺はアクションも出来る俳優を目指して身体も鍛えているし、年収だって一千万を超えた、来年はもっと稼いでいずれは一億円男になる。見た目だけの奴に負けるかよ!!
クロエだってプロとして働いている以上、いつまでも過去の男にこだわるものか!!
「あのね……クロエの彼、あの悪名高い会長の親衛隊三十人相手にたった一人で勝った化け物だよ? しかも資産は数千億以上だってさ」
ば、馬鹿な……親衛隊を一人で……? し、資産……数千億以上!? そ、そんな……
「わかったでしょ? もう諦め――――」
「ま、まだだ!! イケメンでボンボンなのかもしれないが、馬鹿じゃ彼女の相手には相応しくないっ!! 俺は学力エリートが集まる星彩学園でも常に百位以内をキープしているんだ!!」
「……彼ね、全国模試一度も三位以下取ったことが無いんですって。しかも一度だけ三位だったけど、その時は人助けして遅れて試験時間が無い中でのこと。わかる? つまり中学三年間、その一度を除いてずっと一位だったの、私も嘘だと思って調べたけどマジだったわ」
…………。
「違う……結局大事なのはルックスでも強さでもなく、ましてや金や学力なんて薄っぺらいモノじゃあない。クロエがどう想っているか!! そうだろ? 違うか四葉!!」
「……クロエは彼にべた惚れしてるんだけど? っていうかすでに婚約して同棲しているんだけど?」
……………………。
「……四葉」
「なあに?」
「俺……振られたみたい」
「まあ……告白もしてないからノーカンということで」
ははは……正直ヤバすぎてわけがわからない。そんな奴が現実に存在するのかよ。
「あ、ちなみに武尊がオーディション頑張ってる仮装ライダーの主役、彼に真っ先にオファーして断られたらしいわよ?」
「傷に塩を擦り付けるのやめてっ!!」
「あはは、こういう経験を糧に出来てこその俳優だよ、武尊」
わかってるよ――――畜生!!
武尊「傷心の俺を慰めてくれないのかよ?」
四葉「仕方ないなあ、クロエと一緒に撮った写真送ってあげよっか?」
武尊「マジでっ!!」
四葉「あはは、冗談に決まってるでしょ? クロエの彼に嫌われたくないから駄目~!!」
武尊「お、お前……まさか!?」
四葉「もちろん狙ってるわよ? 彼、ハーレムに抵抗ないみたいだしね」
クロエ「え? 私の台詞ゼロ? 最近出番無いんですけど……」




