第四十二話 自業自得です
だ、駄目だ……このわずかな時間で一気に老け込んだような気がする。
あれ? そういえば皆に紹介するって――――
「お兄さま!!! お待たせしましたわ!!」
うわあああああ!!!!! ほ、ほほほ、鳳凰院焔っ!? な、なぜボスキャラがここに? ヤバい、今度こそ逃げないと――――
いや、清川さまが居る時点でもはや逃げることは出来ない。それよりお兄さまって……何?
え? 俺――――知らないうちに鳳凰院のお兄さまになってたとか? 逆玉成功?
そんなわけあるかああああ!!!
「あら? 清川、そちらの方は?」
「お兄ちゃんと同じクラスでお友だちの高槻隆道さまです」
「お兄さまのお友だち? 初めまして、鳳凰院焔ですわ」
「は、初めまして!! 一年Aクラスの高槻隆道と申します。以後お見知りおきを!!」
いや、知ってるよって言いたいけど、向こうからすれば初対面と同じか。中等部三年間で挨拶すらしたこと無いし。というか半径五メートル以内に入ったこともないからな。
それにしても――――めっちゃ綺麗だな鳳凰院……なんていうか気品が違う、お嬢さまオーラが凄くてキラキラしてて直視出来ん。恐ろしい清川の後だからか、なんか守ってあげたくなる可愛い妹オーラが――――
な、何でもありません!! ええ、清川さまが恐ろしいなんて欠片も思ってませんよ? ははは。清川さまだって妹オーラ出まくりですよ!! もはや存在そのものが妹!! 守りたいその笑顔――――すいません調子に乗りました!!!
駄目だ……考えたら心を読まれる、無の境地に至るんだ。現実逃避しても何も変わらない。誰も助けてはくれない。そ、そうだ!! 心のオアシス克生成分を摂取して――――
「な、なあ克生、その……鳳凰院、さまとはどういう関係なんだ?」
「ああ、焔も俺の妹なんだよ。これからよろしく頼む」
「なんだ、そうだったのか了解だ」
ええええええ……? どういうこと? 意味がわからないんですけど!? もっと詳しく!! あ……いえ、踏み込み過ぎは良くないですよね、清川さまも鳳凰院さまも克生の妹、了解です!!! 完全に理解しました!!! 疑問を持つなどあるまじき行為、はい、当然弁えております!!
「おいおい、二人とも学校であんまりくっつくなよ」
先程から……克生の両脇から清川と鳳凰院が腕を組んで離さない。
ははは……兄妹仲が良くてなにより――――ってナニコレ……?
マズい……これ、状況知らない奴らが見たら戦争になるヤツ!!!
さっきから周囲の視線が凄まじいことになってるし!!!
ちょっ!! いくら二人に直接言えないからって睨むのやめてくださいよ!?
お、俺、無関係ですから!! ええ、ただのモブです、どうかお気になさらず!!!
え? う、嘘……だろ!?
うわあああああ!!!!! や、ヤバい!!! 麻生魔璃華がこっちへ来る!!! 最悪だ。
二大ボスがまさかの急接近!!! ち、血が流れる、し、死にたくない!! だ、誰か助け――――
「兄上!!」
「遅かったな魔璃華」
「ははは、勝負を挑まれたのでな? まあ、瞬殺したが」
「あはは、それは災難だったな、あ……返り血が付いてるじゃないか」
「うわ、本当だ……落ちるかな……コレ。ごめん……兄上も嫌だよな? こんな汚れた妹なんて……」
「何言ってるんだ、たとえ全身血塗れだって魔璃華は可愛い俺の妹だ。お前に汚いところなんて無い」
「あ……兄上……!!」
「とにかく俺に任せろ、ほら、綺麗になったぞ」
「ありがとう兄上!! 大好き!!」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
俺の心臓がヤバい。け、消すんだ……俺の存在をこの空間から――――いや、この世界線から!!
生徒会長の麻生魔璃華――――美しき破壊の女神、コイツは鳳凰院とは違う、派閥の長だからヤバいんじゃない、単体でSSSランクの危険生物、文字通り物理的に破壊された生徒は数知れず。
たしかに美少女だ。しかも圧倒的に、もはや生物としての格が違うんじゃないかと思うほどに。
だから彼女と付き合いたいと憧れる男は後を絶たない。
馬鹿なのか? こいつは――――どうこう出来るような可愛らしい玉じゃあない。たしかに戦って勝てば付き合えるのかもしれない。ワンチャンに賭ける気持ちは痛いほどわかるさ、俺だってもう少しマッチョだったら挑んでいたに違いないからな。
だが――――結果はどうだ? 空手全国大会優勝した鬼の青木ですら瞬殺されて病院送りになったんだぞ? しかも挑戦する前に一生手下として隷属する誓約書かかされているからな!!!
ま、まあ……本人たちは嬉しそうだから俺は何も言わないが……。
つまり――――麻生魔璃華は、一声で千を超す腕自慢の野郎どもの軍団を動員できるということ。
さらに言えば、星彩学園生徒会の権力は普通じゃない。小国の国家予算に匹敵する莫大な資金を自由に動かすことが出来るし、学園内で執り行う部活動を含めたすべての許認可権、人事承認権を持っているんだ。敵対するなんて論外、機嫌を損ねただけで人生が終わる可能性がある!!
「ところで兄上、その方は?」
ひいいいいっ!!! 見つかったああああ!!!?
「同じクラスで友だちの隆道だ。魔璃華も仲良くしてやってくれると嬉しい」
「兄上のご友人だったか、私は、知っているとは思うが、生徒会長の麻生魔璃華だ、よろしくな隆道!!」
バンバン両肩を叩かれた。あの魔璃華さまを間近に感じられてしかも触れられたなんて一生のご褒美――――なわけない、たぶんヒビが入ってる。めっちゃ痛いけどここは耐える場面、男を見せるんだ隆道!!
「こ、この隆道、い、命懸けで克生を守ります!!」
「あはは、面白い奴だな」
「だろ? 表情がころころ変わるんだよ」
つ、疲れた……一生分疲れた……学園トップがこの場に勢揃いしているという異常事態。
だが――――何とか生き残ったぞ!!
後は刺激しないように適当に話を合わせて――――
「あ、そういえば焔と魔璃華ってこの学園の二大ボスなんだってな? びっくりしたよ」
え――――?
「あはは……嫌ですわ、そんな大それたものではありませんのよ?」
「まあ、生徒会長は生徒の頂点だからな。ところで……あくまで興味本位なんだが、誰に聞いたんだその話?」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
克生さんっ!! その優秀な頭脳で空気読んでください!! お願いします!!
「隆道に聞いたんだ。他にも色々と学園のこと教えてもらって助かったし、すごい詳しくてビックリするぞ? うん――――知ってたらいけないことまで知ってるんだ」
あ……克生、もしかして俺が調子に乗って妹たちのスリーサイズを教えた件、怒ってます? うわあああああ!!!!! ごめんなさい!!! 悪気は無かったんだああああああ!!!
「なるほど……隆道さまにはじっくり聞きたいことがありますわ。この後お時間よろしいかしら? よろしいですわね?」
「そうか、それなら生徒会長として聞きたいことがたくさんある。悪いけどこの後生徒会室に来てくれ。ああ、お願いじゃなくて会長命令な? 焔も一緒で構わないぞ」
…………駄目だ、こ、殺される。た、助けてくれ克生……
「か、克生も一緒に来てくれ……!!」
「ああ、悪い、この後先生に呼ばれているんだ。生徒会室興味あったんだけどな」
「兄上でしたらいつでも大歓迎だ」
き、清川さま!! お、お助け下さい!!!
『……自業自得です』
「ん? 何か言ったか聖?」
「何でもないです。それより教員室の場所わからないでしょう? 私が一緒に行きます」
「助かる」
俺は隆道――――生きていられたら、また会おう。
焔「あれ? クロエ姉さまは?」
清川「すごい人気なので当分は無理です」
魔璃華「克生お兄さまに逢いたいって泣いてたぞ」




