第二十七話 ゲート発動
「紗恋さん、そろそろ一度ゲートを試してみませんか?」
「たしかにそうね。いきなりぶっつけ本番じゃ危ないもの」
ゲートの最大の問題点、それは行ったことがある場所でないと行けないということ。一瞬絶望しかけたが、克生は母のお腹の中とはいえ、異世界で生を授かっているのでスキル的にはセーフ判定だとわかった。
なぜわかったかと言えば、ゲートを使用しようとすると――――たとえば克生が行ったことのない場所へ行こうとしてもゲートが出現しないのだ。だが――――異世界への扉は出現する。つまり行くことは出来るという判断。
問題は――――ゲートの先がどこなのか、ということ。母エリカの胎内で移動した場所の範囲だとしても広すぎる。
安全に指定場所へ移動するならば行く先を鮮明にイメージする必要があるらしいのだが――――いくら完全記憶を持っている克生であっても、母の胎内の記憶ではどうしようもない。まあ……大雑把に行くだけなら行けるとわかっただけで今は満足するしかない。
ただし――――その場所が安全な場所である保証はない。火山の中、海の中、空の上、はたまた地中深くのダンジョンの中かもしれない。完全に運任せになってしまうのだ。
もっとも、身重のエリカがそんな危険な場所を移動したのかと克生を始め妹たちも思ったのだが、紗恋は一言――――
「いや、あの人たち全員化け物なんでそんなこと気にしてないと思う」
そこで克生は紗恋から異世界のことを学んでいる。まずは彼女の国シルヴァニア公国のことを詳しく。
紗恋はゲートにおけるイメージというのは座標のようなもので実はそこまで正確なイメージを必要としないのではないかという仮説を持っている。そうでなければ克生のように完全記憶を持っていない人間には使えないはずだと。記憶やイメージからある程度絞り込んでいると仮定するならば、移動先のことはなるべく具体的に知っていた方が良いというのが彼女の持論で、それに関しては克生も同意している。少なくともイチかバチかに賭けるよりはだいぶマシだと言えるのかもしれない。
紗恋の仮説が正しければ、もし克生がシルヴァニア公国へ行ったことがある場合、疑似的なイメージでも行く先を指定できる可能性がある。
「じゃあ実験をする。行先は……あまり人目が無い方が良いよな……」
克生はかつて通っていた中学へ行くことに決める。クロエも短い間だが通った場所だ。下手な場所よりも、時間帯で行動が制限される学校は行き先にうってつけだ。
「この時間、使われていない旧校舎なら誰もいないはずだから――――誰か一緒に行くか?」
「当然行きます!!」
「もちろん行くに決まってるわ」
「ご一緒させていただきます」
「面白そうだから私も行く」
「じゃあ全員で行きましょうか。克生くん、よろしくね」
「わかりました――――スキル発動――――ゲートオープン!!」
実は克生もゲートを出現させることしかやっていないので、移動に使うのはこれが初めてだ。緊張しつつも興奮が抑えられない。
「わぁ……ゲートというか……扉ですね」
空間に出現した光る扉を見てクロエが感想を漏らす。
「へえ……冬人のゲートとは違うのね……もしかすると使用者のイメージに左右されてるのかも……?」
興味深そうにつぶやく紗恋。
「まずは俺がゲートをくぐって安全を確認するから、皆は後から付いて来てくれ」
「ちょっとお待ちください」
聖が制服に着替えてきた。
「旧校舎とくれば制服プレイが定番ですから」
「あ、あの……聖……さん?」
困惑する克生だが――――初めて見る聖の制服姿に目が釘付けになっている。
「え? もしかして……制服似合い……ませんか?」
「へ? あ、いや、めっちゃ似合ってる!! すごい可愛いよ聖」
聖に見つめられて顔を赤くする克生。
それを見た他の女性陣は急いで制服に着替えに行った。
「あの……ゲート出しっぱなしなんだけど……?」
克生の声が虚しく響く。
「先に行っちゃいましょうか……二人きり……ですよ?」
聖の甘い誘惑に鋼の意思で耐える克生であった。
「お待たせ、さあ行きましょうか!!」
「紗恋さん……さすがに制服は無理があるのでは?」
「大丈夫よ。本来の姿に戻るから」
ハイエルフ姿の紗恋の制服姿はたしかにヤバかった……もちろん良い意味で。
「大成功でしたね、克生お兄さま」
ゲートの実験は大成功。ついでに克生のレベルと全員のステータスも大幅に上昇した。具体的に何をしたのかは――――神のみぞ知る。
「異世界行きは今度の週末、そろそろ学校も始まるし一度向こうの様子を確認しにいくことが目的よ。可能であればみんなのレベルアップもしておきたいところだけど……まあ……それは状況次第ということで」
土曜の朝に出発して、遅くとも日曜日には戻ってくる一泊二日の日程。
最初は危険だからと、一番ステータスの高い克生と紗恋だけが行く予定だったのだが、妹たちからの猛烈な反対で結局全員で行くことになった。
万一戻ってこれなくなった場合のことを考えたら克生も強くは言えない。置き去りにされた辛さ、悲しさは彼自身が良く知っているのだから。
出発までは皆、普段通りの生活。もちろん克生のレベルアップと皆のステータス強化はギリギリまで続ける。
「鬼塚さん、留守中のことはよろしくお願いします」
「お任せください。皆さまのご武運お祈りしております」
万一の時は鬼塚がすべての処理をしてくれるようになっているので心置きなく出発することが出来る。
「それじゃあ行こうか」
克生はスキルを発動しゲートを開く。行先は――――紗恋の国シルヴァニア公国をイメージする。
もう後戻りは出来ない。
不安はあるが皆と一緒なら怖くない。
「ふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫よ。ちょっとした里帰りなんだからね」
さすがに知らない世界へ――――それも危険があるとわかっている場所へ行くとなれば固くなるものだが――――紗恋の言葉で皆少しだけ緊張が緩む。
果たして何が待ち受けているのか? 両親たちは無事なのか?
克生たちは期待と不安に揺れながら――――光あふれる扉をくぐるのであった。
クロエ「くっ……紗恋姉さん、私より制服が似合ってる……」
紗恋「うふふ~、私も学校行こうかしら~♪」
焔「紗恋姉さまでしたら大歓迎ですわ!!」
クロエ「調子に乗るからやめてください」




