第二十六話 クロエ日記
「クロエちゃんお疲れさま~」
「ありがとうございました!!」
撮影が終わって伸びをする。だいぶ慣れて来たけれど、撮影は毎回が真剣勝負、やはり気が抜けないから疲れます。
「クロエちゃん、最近また綺麗になったんじゃない?」
「わかる!! なんというか凄味が増しましたよね!!」
カメラマンさんや衣装さんたちスタッフのみんなが口を揃えてそんな嬉しいことを言ってくれる。
たぶんステータスの上昇による効果なんだと思う。魔力が上がると魅力が増すとかなんとか紗恋さんや魔璃華が言ってたし。
それとも――――一番の原因はやっぱり克生お兄さまでしょうか? 大好きな人から愛してもらえれば当然綺麗にだってなるというものですし。ふふふ。
「ねえクロエちゃん、うちの事務所に来ない? 貴女なら今の何倍も稼げるわよ?」
今日の撮影は大手モデル事務所に所属しているトップモデルさんと一緒だった。見学に来ていた事務所の社長さんからそんなことを言われる。何度か面識がある程度だったから、ちょっとびっくりした。
「お誘いありがとうございます。光栄ですが今の環境に満足してますので。ごめんなさい」
「そう……残念だけどしつこく誘うと紗恋に怒られるからね。まあ……気が向いたらいつでも声かけて。うちはいつでも大歓迎だから」
評価してもらえたことは素直に嬉しいけれど、鳳凰院家の一員となった現在、お金には困っていない。だから――――もう生活のためにモデルを続ける必要はなくなったのだけれど、克生お兄さまのためにいつも綺麗でいたい。私をもっと見てもらいたいとは思うから。
ところで――――鳳凰院家といえば、仲間でありライバルでもある家族は本当にすごいメンバーだ。
焔は清楚で小柄で、いかにも女の子って感じで羨ましい。それに……克生お兄さまと趣味が一緒だから話も盛り上がってるし……。お金持ちのお嬢さまなのに全然嫌味が無いところもすごい。好きなものを好きと言える真っすぐさはとても眩しい。たまにやり過ぎたり突っ走ったりするけれど……本当に憎めないのですよね……私には真似出来ない天真爛漫な魅力の持ち主。私の大切な妹。
清川さんは本当に凄い。女子力お化けでめちゃくちゃ大人っぽくて美人。おまけに克生お兄さまの腹違いの妹。同じ血が半分流れているなんて羨ましすぎる。正直勝てる気がしない。完璧超人って創作の中だけだと思ってたんだけど、ね。義妹ハーレム計画を立案した張本人でもある。最初はどうかと思ったけど、今は感謝している。いつも冷静で頼りになる私のもうひとりの妹。姉の威厳? そんなものありません。
紗恋姉さんは……まあ……私情はさておき凄い人だ。注目すべき世界の女性100人にも選ばれたらしい。身近すぎてイマイチわからないけど。仕事に関してはお世話になりっぱなしで、私がモデルを続けることが出来ているのは間違いなく彼女のおかげ。隙あらば克生お兄さまとイチャイチャしようとするのはどうかと思いますけど……私も他人のことは言えないので、あはは……。本来のハイエルフ姿は可愛いのですよね……妹みたい。喋らなければ、ですけれど。
魔璃華は、最初怖かったんですけど……知ってみれば素直で優しい子でした。魔王の娘っていうからもっとヤバい人なのかと……。まあ……考えてみればこの世界で生まれ育ったわけですしね。誕生日の差で魔璃華は私の姉ということになります。長妹の地位が……。でも彼女は全然姉っぽくなくて、私にとっては可愛い妹みたいに感じるんですよね。猫とお話している姿を見てしまったからでしょうか? ふふふ、あれは可愛かったなあ……。
――――というわけで、すごい人たちに負けないように私も頑張らないと!!
次の撮影はKATSUKIと一緒だから楽しみなのです。
「それじゃあクロエちゃん、また次回の撮影で。あ……そういえば過激なファン連中がクロエちゃんを嗅ぎまわってるみたいだからくれぐれも気を付けて。撮影の時はともかく、プライベートも一人にならないように注意してね」
送迎のスタッフさんから注意を受ける。
「あはは、大丈夫ですよ、私、こう見えて強いんです。でも注意しますね」
「編集長も大丈夫だって言ってたけど……まあ用心してよ」
露出の多い仕事だからその分危険も多い。モデルを始めるとき、克生お兄さまが心配してくれたことの意味を最近身に染みて感じる。あの時は心配してくれるのが嬉しくて浮かれていましたけれど……正直意識が甘かったと反省しています。
でも克生お兄さまのおかげで私は強くなれました。今なら至近距離から銃弾を受けても大怪我はしないと紗恋姉さんから言われてるし。もう――――人間辞めてますよね……あはは……。それに竜人族というのは元々毒や状態異常に強い種族なのだそうです。さすがにこの世界で竜化を試すつもりはないですけれど……ね? 服も破れてしまうらしいですし、克生お兄さま以外の人に裸を見られるのは絶対に嫌です。
そういえば――――紗恋姉さんに聞いた話だと、私が父親だと思っていた人は冬人さんが用意した護衛兼この世界のことを教えてくれる指導係のひとだったそう。まあ……記憶も曖昧だし顔も思い出せないから今更どうでも良いんですけれど。
あ……ちなみにママが居なくなってお金に苦労した件……完全に私の見落としというか……思い込みというか……ちゃんと用意されていたのに私が気付かなかっただけでした。紗恋姉さんからめちゃめちゃ笑われた。いや、本当に危なかったんですから!! うっ……自業自得? 反省してます。
私の本当のパパは竜王で、魔神との戦いに勝利するため冬人さんと融合した――――らしい。だから、冬人さんも竜化出来るんだって。もう何でもアリかな?
つまり――――冬人さんは本当のパパで本当のパパじゃないわけで……。どんな顔して会ったら良いのかわからないです。もし無事に会えたら――――ですけれど。
でも今は一刻も早くパパやママ、冬人さんたちを助けに行きたい。焦りは禁物だと言われているけどやっぱり気持ちは焦る。それは――――きっと克生お兄さまも皆も同じなんだと思う。言葉にしなくてもわかる。
だから――――今は私に出来ることをしようと思う。異世界に行ったらどうなるかわからないし、戻って来れるかどうかもわからないのだから。
正直不安はある。
でも皆と一緒なら大丈夫。私には――――とっても強くて、優しくて――――愛すべき家族がいるのだから。
クロエ「紗恋姉さん、お仕事お休みして大丈夫なんですか?」
紗恋「ふふふ、こんなこともあろうかと有給を貯め込んでいるから大丈夫よ」
クロエ「あはは……。大人は大変ですよね……」
紗恋「なんの!! 向こうの世界に居た時のことを考えれば天国みたいなものよ……(遠い目)」
クロエ「……公女さまってそんなにハードワークなんですか!?」
紗恋「まあ……国の書類仕事、実質私が一人でこなしてたから……」
クロエ「……甘いものでも食べに行きましょうか、奢ります」




