第二十五話 女たちの戦い
「あ、兄上……その……近いのだが……」
克生に見つめられて魔璃華の心臓は爆発寸前――――顔が触れるほど接近すれば意識が飛びそうになる。
「ごめん、嫌だったかな、魔璃華?」
「ば、馬鹿なことを、嫌なわけない!! ただ――――びっくりしただけだ」
真っ赤な顔で慌てる妹に克生は安堵の息を吐く。
「良かった……魔璃華に嫌われたんじゃないかと思って気が気じゃなかったから」
「か、可愛い……兄上が……尊い……」
愛おしさが限界点を超えて魔璃華の理性が崩壊――――全力で愛しい兄の胸に飛び込んで――――渾身の力で抱きしめる。
克生でなければ、全身複雑骨折で病院送りになっていたことだろう。
「兄上えええええ!!! 好きだあああ!! 大好きいいいい!!」
泣きわめく魔璃華の涙をそっと指で拭いながら――――克生は優しく唇を重ねる。
「私の初めてが――――兄上で良かった――――」
「嬉しいよ……魔璃華」
『英雄スキルの発動条件確認――――レベルアップします』
ステータス
名前 鳳凰院 克生
年齢 十六歳
性別 男
種族 人族
レベル 14
体力 1444
魔力 1444
筋力 1444
スキル 英雄 ゲート 創造 女神の加護
当然、魔璃華のステータスも上昇する。
ステータス
名前 鳳凰院 魔璃華
年齢 十六歳
性別 女
種族 魔族
レベル 1
体力 107
魔力 127
筋力 117
スキル 暗黒魔法 転移 女神の加護
「ちょ、ちょっと待ってください克生お兄さま!! 私も初めてだったのですよ!!」
嬉しそうな克生の様子を見て、慌ててクロエが叫ぶ。
「わ、私だってお兄さまが初めてだったのですわ!!」
「私も当然お兄ちゃんとのキスが初めてです」
「克生くん……か、勘違いしないでよね!! 私も初めてなんだからね!!」
若干ツンデレ風味な紗恋の告白に皆驚く。
「あはは……あ、ありがとう皆、とっても嬉しいよ」
余計なことを言うと藪蛇になりそうだったので素直に喜ぶに留める克生であった。
◇ ◇ ◇
「それにしても……まさか妹全員、女神の加護を持っているとはねえ……これは偶然というよりも必然……なんでしょうね……おそらくは――――女神さまのご意思が関わっている」
スキルとは女神から与えられるものだと知られている。そうであるならば、たとえば勇者や聖女のように例を持ち出すまでもなく、特別なスキルには女神の意思が間違いなく存在すると紗恋は確信していた。特に女神の加護というスキルなのだからそうでない方がおかしい。それが一体なんなのか――――それはまさに神のみぞ知るのだろうけれど。
「紗恋さん、無事ゲートを使えるようになったんですから、今度こそ異世界へ――――」
紗恋が真剣に考えこんでいる隣で、克生はゲートが使えるようになったことで浮かれていた。
「克生くん……貴方は異世界を舐めているのかしら? ピクニックにでも行くつもり?」
ギロリと睨む紗恋。
「……え? あ、いや……そういうつもりでは……」
シュンとしてしまった克生を見て表情を緩めながらも、紗恋は厳しい言葉を続ける。
「あのね、異世界には危険な――――めっちゃ危険な魔物で埋め尽くされているの!! 熟練の冒険者だっていざ町を出る時にはそのたびに死を覚悟するほどなのよ? ましてや今、向こうの世界は異常事態となっている可能性が高いときている。私はともかく、ろくに実戦経験もない、駆け出しどころか覚醒したばかりの妹たちを危険に晒すつもりなのかしら?」
「そ、それは――――」
紗恋の言うことは何も間違っていない。克生は気持ちだけが空回りしていたことを強く自覚せざるを得ない。
「焦る気持ちはよくわかるわ。私だって同じだもの。私も最初はすぐにでも向こうへ飛んで危険覚悟でレベルアップするしかないと思った。でもね――――今の克生くんには強くなる方法があるでしょ――――危険が一切無い――――強いて言えば貞操の危機ではあるけれどね、あはは」
最強のメンバーである冬人たちが帰って来れない――――無事なのかもわからない。
冷静に考えればそんな危険な世界へ大切な妹たちを連れて行くことになるのだ。どれだけ無謀なことをしようとしていたのか気付いて克生は背筋が寒くなる。
もっと強くならなければ駄目だ。自分だけが強くなればいいわけじゃない。妹たちはレベルアップ出来ないけれど、克生には彼女たちのステータスを強化するスキルがある。
ならば――――使うしかない。
家族を救うため――――可愛い妹たちを守るために。
「紗恋さん……俺が間違ってました」
「ふふ、わかってもらえたようで嬉しいわ。それじゃあ――――思う存分イチャイチャしましょうか。か、勘違いしないでね!! べ、別に貴方のことが好きなんじゃなくて、つ、強くなるためなんだからね!!」
「紗恋姉さん、そこでツンデレぶっこんでくる意味がわからないのですが……?」
呆れるクロエ。
「まあ……たしかにこのメンバーにツンデレ居ないですわね……強いて言えば私の役目な気がしますが、お兄さま相手だとデレデレになってしまうのですわ……」
焔的には納得している。
「なるほど……克生さまはツンデレがお好き……参考になります」
何やら熱心にメモをとっている清川。
「まあ……強くならなければ何事も始まらないだろう。そのためなら私は兄上に全てを捧げる覚悟は出来ている」
魔璃華の言葉に全員が強く頷く。気持ちは一つ――――やることは明確だ。
「「「「というわけで――――まずはじゃんけんで順番を決める!!!」」」」
女たちの熱い戦いが始まるのであった。




