第二十二話 兄妹対決とスキル発動
「初めまして兄上、私は麻生魔璃華、貴方の義妹だ。ずっと会いたかった」
問答無用ですぐにでも殴りかかりたい衝動に襲われるが、さすがにそんなことをすれば嫌われてしまうだろうという理性は残っている。まずは挨拶大事。
でも――――きっと私、血に飢えた獣みたいな顔してるんだろうなあ……紗恋さんめっちゃ引き攣った苦笑いしてるし。
「俺は克生、他にも義妹がいたなんて驚いたけど、会えて嬉しいよ魔璃華」
ああ……なんて素敵な笑顔――――滅茶苦茶にしてやりたい。ううん、貴方が嫌いだからじゃない、むしろ逆、狂おしいほど貴方に惹かれる……こうしているだけでわかる。兄上からは私を超える力を感じる。鼓動が早くなる――――全身が沸騰したみたいに熱くなる――――
「魔璃華、妹たちを紹介――――」
駄目だ――――もう我慢できない!!
「兄上――――話は――――拳で語り合おう」
最後に残った理性を総動員して、辛うじて言葉に出来たことは褒めて欲しい。
完全に脳筋の戦闘狂だと思われるだろうと薄っすら自覚しながら、私は狂おしい衝動に身を委ねる。
「ちょ、ちょっと魔璃華!?」
慌てた顔も素敵……でも避けないと死んじゃいますよ兄上?
これまで一度も出したことのない本気を開放する。
そう――――これは甘えだ。かわいい妹が兄に胸を借りる的な?
全力でぶつかっても大丈夫だという信頼、安心感、そして――――私のすべてを受け止めて欲しいという純粋な愛情表現。
すべての想いを己の拳に乗せて放つ必殺の一撃――――
「魔璃華インパクト!!!」
うん――――わかってる、やり過ぎた。
お願い避けて兄上、死んじゃうから!! 避けてえええええ!!!!!
「ずっと知らなくてごめん」
え……? 受け止めた? 私の全力を――――?
「寂しかったよな? これからはずっと一緒だから」
あ……駄目……抱きしめたりされたら――――私――――
「う……うわああああああああん!!! あ、兄上えええええええ!!!」
駄目だ……涙腺崩壊――――感情の防波堤が決壊した。
私を抱きしめる力強い両腕、その温もりが、私の心の奥まで温めてくれる。
頭を撫でるその優しい手触りが、甘く切なくすべてを溶かしてゆく。
もう――――破壊衝動なんてどこにもない。
あるのはきゅっとする胸の痛みと狂おしいほどに燃え上がる想い。
好き 好き 大好き ううん そんなんじゃ足りない 愛 してる? 兄上を私――――
良かった……血が繋がってなくて。
ようやく出逢えた……私の運命の人に。
「ああ……兄上、今すぐ私を貴方のものにして」
「ええっ!? う、うん……よくわからないけど頑張ってみるよ」
ふふ、わからないのにどうやって頑張るのかわからないけど、その言葉だけで嬉しい。
一方で妹たちは困惑していた。
初対面の克生にいきなり殴りかかって――――かと思えばいきなり熱烈に愛の告白を始めたのだ。事情を知っている紗恋以外にはさぞ意味不明に映ったことだろう。
「ねえ焔、あれってツンデレって言うのでしょうか?」
「うーん、どうかしら? 魔璃華ってばある意味最初から全力でデレていたような……?」
「あれ……喧嘩上等、最凶の生徒会長魔璃華ですよね? あんなデレキャラでしたっけ……?」
魔璃華は学園の超有名人なので当然焔と清川も知っている。というより学園生で知らないものなどいない。ただ――――まさか彼女も義妹だとは思ってもいなかったが。クロエはあまりのことに若干現実逃避気味である。
「あ、兄上……? 御身体が光って――――!?」
魔璃華が驚きの声を上げる。突然克生の身体が淡い光に包まれたのだ。
「な、なんだコレ……!?」
さすがの克生もこれには大いに慌てる。
「か、克生お兄さまっ!?」
「お兄さまっ!?」
クロエと焔は叫びながら克生の元へと駆け寄ってゆく。
「あれって……覚醒した時に似てる……?」
そんな中、清川だけは冷静に克生の変化を観察していた。
「皆、大丈夫よ!! あれは……でも……なんで……なんで――――レベルアップが!?」
紗恋は落ち着くようになだめるものの、なぜこの状況になっているのかわからず困惑している。
『英雄スキルの発動条件確認――――レベルアップします』
克生の脳内に音声が流れる。
英雄スキルの発動条件? レベルアップ? 克生は訳が分からず混乱する。
克生の全身を包む淡い光が徐々に吸い込まれてゆくように消えていった。
「うっ!? こ、これは……!?」
克生は自分の身体に起きた変化に驚きを隠せない。
漲る力――――先ほどまでの自分とは明らかに違うとわかる。
「す、ステータスオープン!!」
ステータス
名前 鳳凰院 克生
年齢 十六歳
性別 男
種族 人族
レベル 2
体力 222
魔力 222
筋力 222
スキル 英雄 ゲート 創造 女神の加護
「うわっ!? 本当にレベルが上がってる!!」
驚きの声を上げる克生。本当に驚くべきはそのステータスの上昇幅なのであるが、今の克生にそれを気付けというのはさすがに無理がある。
「克生くん、何が起きたのかわかる?」
「あ、はい……なんか英雄スキルの発動条件を確認したからレベルアップするって聞こえました」
「なるほど……英雄スキルは詳しいことがわかっていない伝説級だから――――そういうこともあるのかしら……克生くん、その発動条件とやら確認してくれる?」
「あ、はい――――って、大丈夫か魔璃華!!」
「あ、兄上……こ、これは……一体っ!?」
今度は魔璃華の身体が淡い光に包まれる。
「こ、今度は何がっ!?」
「な、何なのよっ!?」
「これは……まさか……覚醒!?」
「嘘でしょ……魔璃華の誕生日はまだなのに……」
『女神の加護の発動条件を確認しました――――対象を強制覚醒します』




