第十八話 覚醒
「それで克生くんの覚醒の件なんだけど――――ああ、そんな怖がる必要は無いわよ? 覚醒っていっても隠された別人格が――――とかじゃなくて単にスキル取得とレベルアップによる強化が出来るようになるだけだから」
「そ、そうなんですね、少し安心しました」
わざわざ父が手紙で知らせてくるのだからと不安になっていた克生だったが、ホッと小さく息を吐く。
「必要以上に怖がらなくてもいいけど、知らずにスキルを使って大惨事になる可能性だってあるからね。あとクロエちゃんと焔、それに聖もちゃんと聞いておきなさいよ? 他人事じゃないんだから」
「え? それってどういう意味ですか?」
「まさか……?」
「っていうか聖って誰ですか?」
「……私の名前です克生さま」
清川が恥ずかしそうに目を伏せる。
「へえ……清川さん、聖って言うんですね」
「私も知らなかったわ」
「克生さま、クロエさまはともかく、お嬢さまが知らないわけないでしょう」
「冗談よ。それより紗恋さん、話の続きだけど、まさか――――」
「そう、そのまさかよ。貴女たちも異世界人の血を受け継いでいる。だから――――十六歳の誕生日が来れば覚醒することになるわ」
「わ、私が異世界人の血を……?」
「秘めた力来たわ!! ふふふ、我が禁断の力に平伏せ世界よ!!」
「お仕事に役立つ力だと良いのですが……」
信じられないと自分の手を見ているクロエと早速テンション爆上がりの焔。清川はいつも通りマイペースで動じた様子はない。
「えっと……今のところ何も変わった感じしないんだけど?」
「克生くんが生まれたのは丁度正午だったわね……なら、そろそろ来るわよ!!」
紗恋の言葉と共に時計が正午を指したその瞬間――――
「うわっ!? なんだこれ……」
突然、克生の身体が淡い光に包まれる。
「これが女神の祝福よ。さあ今こそ目覚めよ!!」
ノリノリな紗恋だが、別に必要な儀式ではない。
「う、うおおおおお……ち、力が湧き出てくる……す、凄い……」
「カッコイイです克生お兄さま!!」
「お兄さま素敵!!!」
克生を褒めたたえる義妹二人と違い、清川は冷静に観察している。
「あの……紗恋さま? コレ……ちょっとマズいのでは?」
「え? あ……たしかにヤバいわね……まさか、これほどだとは――――」
「皆、今すぐ服を脱いで!! 克生くんの力が暴走してるの、人肌で温めるのよ!!」
人肌で温めるのは冬山とかで遭難した時じゃないのかと内心思いつつ他にどうしたらいいのかわからないので、とりあえず紗恋の言う通りにする三人。
「克生お兄さま、お願い正気に戻って!!」
「お兄さま……信じていますわ!!」
「克生くん……私を好きにして良いのよ!! その有り余る暴力を私に全てぶつけなさい!!」
「えーっと……克生さま、正気に戻ってらっしゃいますよね?」
清川が耳元でささやく。
「あはは……なんか言い出せない雰囲気で……」
実際に意識が飛んだのは数秒で、すぐに正気に戻っていた克生。当然紗恋もわかっていたのだが、悪ノリしただけである。
「何はともあれ覚醒おめでとう克生くん。私も色々な覚醒を見て来たけど、これほどの力――――見たことが無いわ。どんなスキルを得たのか楽しみね」
覚醒と言っても見た目に変化があるわけではない。
「えっと……どうやって確認すればいいんですか?」
「頭の中でステータスオープンと念じるだけよ」
「本当にゲームみたいですね」
「違うわよ? 私たちの世界を参考にしたのがゲームでのステータスシステムなのだから似ているのは当然」
なるほど、と克生は「ステータスオープン」と頭の中で念じる。言葉に出すのは恥ずかしかったので念じるだけで済むのは助かるなと思いながら。
ステータス
名前 鳳凰院 克生
年齢 十六歳
性別 男
種族 人族
レベル 1
体力 111
魔力 111
筋力 111
スキル 英雄 ゲート 創造 女神の加護
「あ……ステータス見えました!!」
「良かった……どうやら成功ね。こちらの世界でも同じように覚醒するとは聞いていたけれど、実際に見るのは初めてでわからない部分があったから。ところでスキルは無事取得出来ているのかしら?」
「えっと……スキルは四つありますね、英雄、ゲート、創造、女神の加護とありますけど……って紗恋さん?」
口をポカーンと開けて固まってしまっている紗恋。
「ご、ごめんなさい、スキルが四つなんて聞いたことなかったから」
「そうなんですか?」
「普通は……というかごく一部の例外を除いて一つだけよ。例外というのは勇者や聖女だけど――――あれは女神から与えられた役職固有スキルだから個人としてはやっぱり一つと言えるの」
「さすが克生お兄さまです!!」
「まあ……お兄さまなら当然ですわね!!」
「いや、そういう問題じゃないんだけど……でもまあ実際に持っているんだから考えても仕方ないか。英雄スキルは伝説級スキル……そしてゲート……なんで? これって勇者の固有スキルじゃなかったの? いえ、それより問題は創造と女神の加護よ、そんなの聞いたことが無い」
うーん、と考え込んでしまった紗恋。
「ま、まあ……スキルについてはちょっとスケールが大きすぎてよくわからないんで、先にステータスについて教えて欲しいんですけど……」
「あ、そうだったわね。表示されるステータスは三つ、体力、魔力、筋力ね。体力はゲームでいうHPに近い概念で、ゼロになったら死ぬわ。魔力はそのままの意味、筋力はパワー、敏捷性などあらゆる身体的な能力の総合値だから、この数値が上昇すれば一番わかりやすく強くなる、どの数値も時間の経過とともに自然回復するし、薬や魔法によって回復を早めたり数値そのものを一時的に上昇させることも可能よ、そこまでは良いかしら?」
「なるほど、よくわかりました。あとレベルの項目がありましたけど、やはりレベルアップすることで数値の上限が上がると考えて良いんですよね?」
「その通りよ。ただし――――さっきも言ったけど、この世界には魔力が存在しないから魔物も存在しない、つまりレベルアップ出来ないの」
レベルアップとは魔物が持つ魔核を身体に取り入れることで限界を超えて強くなる方法。とはいえ、種族ごとにレベルには上限が定められており世界のバランスが保たれているのだと紗恋は説明する。
「たとえば私みたいなハイエルフは長生きするからといって無限に強くなれるわけではないの。もちろん時間がある分生き残れば例外なく強くなるけど数が少ない。逆に人族や獣人族は成長が早く子もたくさん産んで増やすけど短命だから強さの上限はそこそこね。もっともレベル上限まで辿り着ける者なんて伝説級に限られた人だけど」
興味深く話に耳を傾ける克生、クロエ、焔、清川。
「あの……紗恋さん、ところでステータスの数値、いまいち強さがわからないんですけど、普通の人はどれくらいなんですか?」
「そうね……種族によって多少違うけど、人族の成人男性平均ということなら5~10といったところかしら? ちなみに克生くんはどのくらいだったの?」
「……全部111ですけど……」
「……レベル1でその数値? 化け物ね……たしか勇者でもレベル1なら99くらいだったはず」
清川「克生さま、私のことも名前で呼んでください」
克生「わかったよ聖」
清川「ああ……なんという甘美な響き……録音して繰り返し聞きたいので――――聖、好きだ……聖、愛してると言ってもらえると」
克生「いや、録音とかさすがに恥ずかしいんだけど」
清川「仕方ないですね……ならば録音ナシなら良いですか?」
克生「うーん、まあそれなら何とか」
聖(ふふふ、作戦成功です)




