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義妹ハーレム  作者: ひだまりのねこ


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第十六話 お仕事 のち デート


「はうう……クロエ姉さま……素敵ですわ」


 焔は瞳を輝かせながら感嘆のため息を漏らす。


 今日はクロエの撮影を少しだけ見学させてもらっているのだ。


「すいません紗恋さん、無理言ってしまって」

「良いのよ別に。皆家族みたいなものだし。それより克生くん、悪いんだけどワンカットで良いからちょっとお願い出来るかな?」

「わかりました、良いですけどこの後、焔と出かけるので時間厳守でお願いします」

「助かる!! じゃあ焔ちゃん、悪いけど克生くん少しだけ借りるわね」


 紗恋とともに席を立つ克生。


「え? お兄さまどこへ行かれるのですか?」

「ちょっとだけ撮影、すぐ戻るからごめんね」

「は、はあ……?」


 困惑する焔の前で撮影が進んでゆく。


「KATSUKI入ります!!」


「ええっ!?」


 スタッフの声に心臓が跳ね上がる焔。


「そ、そんな……まさかあのKATSUKIが来るなんて……!! ど、どうしよう心の準備が……」


「よろしくお願いします!!」


 慌てる焔をよそにKATSUKIが現場に入ってくる。


 そして――――焔に向かって手を振った。


「はうっ!! い、今、KATSUKIが私に手を……!? ど、どうしよう……私にはお兄さまがいるのにドキドキが止まらない」


 興奮と罪悪感の板挟みで悶える焔だったが、千載一遇のチャンスを見逃すわけがない。


「ああ……やっぱりカッコイイ……生KATSUKI最高……!!」


 そうよ、夫を愛しながらアイドルに夢中になるのと何も変わらない。そこに矛盾は無いわ!! 焔は自らに言い聞かせながら夢のような時間を過ごす。


「はあ……KATSUKIとクロエ、やっぱり絵になるわ……これは間違いなく表紙用ね。次号もプレミア必至だわ。あ……KATSUKIはここで終わりみたいね。あれ? そういえばお兄さま結局どこへ行ったのかしら? 撮影って言ってたから次作のインタビュー取材とか? でもお兄さま顔出ししないって言ってたのに……」


 克生を探してキョロキョロ辺りを見回していると――――


「焔、待たせてごめん、今着替えてくるから!!」


 先ほどまで撮影していたKATSUKIが焔の目の前に申し訳なさそうに立っていた。


「へ……? あ、あの……それはどういう――――」


 このタイミング、この距離、さすがの焔も気付いてしまった。


「あ……も、もしかして……お兄さま……なのですか?」

「うん? 当たり前じゃないか。変な焔だな」


 克生がKATSUKI……なるほど……言われてみればそのままだけど……


「き、聞いてないですわああああ!!!」


 焔がオーバーヒートで倒れた。


「お、おい焔!! だ、大丈夫か?」






「…………」

「まだ怒ってるのか? ごめんって、まさか知らないとは思わなくて」


 無言で隣を歩く焔にひたすら謝り続ける克生。


「べ、別に……お、怒ってなどいませんわ……」

「でもさっきからずっと無言だったから」

 

「……ち、違います。その……恥ずかしくて」

「恥ずかしい? 俺と一緒に居るのがってこと?」


 妹に嫌われてしまったのかと地味にダメージを受ける克生。そういえば二人っきりになるのは初めてだし……そうか、存在が恥ずかしい兄ですまない、と焔から少し距離を取る。 


「ち、違いますわ!! わ、私はお兄さまのことが大好きで……KATSUKIが大好きで……だから大好きが重なり過ぎて――――眩しすぎて――――私なんかが一緒に居て良いのかって――――それで」

「焔……そ、そうか、なんかありがとう。俺こそお前の隣に居て良いのかって思ってるよ、だから――――きっとお互い様だよ」

「お、お兄さま……!!」


 愛おしさが抑えきれなくなった焔が克生の腕にこれでもかと抱きつく。

 

「お、おい、そんなにくっついたら色々当たって――――」

「良いのです、当てているのですから!!」


 クロエや清川と違って多少当てに行かなければならない焔だが、今更そんなことはハンデだとは思っていない。むしろやってみたいこと上位のシチュエーションをこうして現実にすることが出来て大満足である。


「そ、そうか、それなら良いんだ」


 克生も紳士なだけで嫌なわけではない。本人が良いのなら問題ないというスタンスだ。



「……ところで焔、せっかくなのに本当にこんなところで良いのか?」


 焔の行きたいところに付き合うということだったのだが、行く先は――――牛丼チェーン、回転ずし、ゲームセンター……お世辞にもお洒落とは言えないところばかりだ。


「良いんです、以前から一度は行ってみたいと思っていた場所ばかりですの。それが――――大好きなお兄さまと一緒ならこれ以上望むことなどございませんわ」


 心から楽しんでいる焔を見て、克生もそれなら良かったと笑う。克生もあまり他人と出かけるタイプではないので、実は結構新鮮な気分で楽しめていたりする。


「お兄さま、デートのクライマックスといえばやはり映画館ですわね!!」

「おお……たしかにデートっぽいな。それで――――何を観るか決めているのか?」


「あはは……実は行き当たりばったりの思いつきで来たので何も考えていないのですわ。ホラー以外でしたら大丈夫ですのでお兄さまが決めてくださいませ」


 なるほど……それなら、と克生は上映しているラインナップを眺める。


「お……これは……そうか、そう言えば映画化するって言ってたよな」


 ある映画の前で目が留まる。


「焔、この映画を観ないか? 原作小説結構好きなんだ」

「え? あ……これってもしかして……真冬にタンクトップ先生の転生したらすあまだった、ですわね……」


 苦い表情をする焔。


 それもそのはず、そのペンネームからわかるように、真冬にタンクトップは明らかに克生を意識して付けられたもの。本人も真夏にセーター先生の大ファンだと公言しているので克生が知らないはずはない。


 ペンネームだけではなく、その作風も内容もよく似ており、パクリだと揶揄する声も根強く存在する。


「嫌だったら別のにするけど?」

「……嫌というか、お兄さまはなぜ平気なのですか? どう考えてもパクリじゃないですか、こんなの」


 熱狂的なファンだからこそ許せない気持ちが強いのだろう。焔は不快感を隠そうともしない。


「……焔は原作を読んだのか?」

「読んでません。タイトルとあらすじだけでお兄さまの作品の劣化コピーだとわかりますから」


 そんな作品に一円だって使いたくない、焔は唇を固く引き結ぶ。


「そうか、だったら観てみないか? この作品が俺のパクリや劣化コピーじゃないことがわかるはずだ。それとも――――俺の言うことは信用できないか?」


 克生は焔の頭に手を置いて優しく髪を撫でる。


「わかりましたわ……他でもないお兄さまがそう仰るのでしたら……」


 


「ごめんなさい……お兄さまの仰る通りでした。たしかに似ていますが、それはパクリというよりはお兄さまへのリスペクト――――いいえ、愛と言った方が正確ですわね……あくまで映画ですから原作はまた違うのかもしれませんが、少なくとも劣化コピーではありませんでした。これを機に原作小説も読んでみることにしますわ」


 素直に頭を下げる妹の頭を撫でる克生。


「そうか、わかってくれて良かった。俺の作品が好きならきっと焔も好きになると思う。俺と同じ出版社だから紗恋さんに言えば喜んで揃えてくれるんじゃないかな?」  

「株主割引させますわ!!」


「あはは……困らせない範囲でな、でも――――ありがとう焔」

「……え? あ、あの……お兄さま?」


 突然抱き寄せられて思考停止する焔。


「焔は俺のために怒ってくれたんだろ? もちろんきちんと自分の目で確かめずに決めつけたことは良くないことだけど……でもさ、その気持ちは嬉しかったんだ。だから――――ありがとう」

「お……兄……さ……ま」


 観客が退場して静かになったスクリーンの前で二人きり――――涙で潤んだ瞳が揺れて――――閉じた目元から零れ落ちる。


「お兄さま……お願い」 

「焔……」


 二人の唇が重なろうとした瞬間――――


「お取込み中すいませんね、清掃しなきゃいけないんで」


「「……ごめんなさい」」

焔「まったく……あの清掃員空気が読めないのかしら!!」

克生「あれでもギリギリまで待ってくれたみたいだよ? 感謝しないとね」 

焔「わ、わかりましたわ、感謝します」

克生「焔は偉いね、じゃあ続きをしようか」

焔「え? あ、あの……こ、心の準備が――――ぷしゅ~!!」

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