第十三話 進路決定
「お兄さま、クロエお姉さま、春から通う高校ですが、私と同じ星彩学園で良いですよね?」
焔は朝食の席で高校の話を切り出す。ちなみに焔は星彩学園中等部からそのまま高等部へ進学することになっている。
「星彩学園ってあの有名な名門学校のことか?」
政財界から芸能界まで幅広い人材を輩出している超名門校。良家の子女や次世代を担う才能が綺羅星のごとく集う場所――――当然偏差値は上限突破するほど高止まりしている。
「さすがお嬢様ですね……でもたしか星彩学園って高等部から入るのめちゃくちゃ難しいって聞いたことあります。そもそも私の成績じゃ無理だと思いますけど……」
クロエは決して頭が悪いわけではないのだが、モデル業が忙しくて出席もギリギリ、成績も補習を受けてなんとか卒業することが出来る程度だ。県内トップで全国有数の名門校――――しかも外部入試は極めて狭き門、普通に考えて入学することは不可能――――ちなみに克生の成績は全国模試常に三位以内、何の問題も無かったりする。
「大丈夫ですわ。星彩学園は一芸推薦制度がありますから、プロの作家でイラストレーターのお兄さま、人気モデルのクロエお姉さまでしたら間違いなく学費免除で推薦を受けられます」
「そうなのか、そんな推薦制度があるなんて知らなかった」
克生はクロエのために県内の高校、特に学費が免除になる推薦制度については調べていたので疑問に思う。
「まあ……外部には公表していない推薦制度ですから。もっとも、仮に一芸が無かったとしても、理事長に言えば無理やり捻じ込むくらいわけないですけれど、ふふふ」
鳳凰院家は星彩学園の筆頭理事でもある。つまりはそういうことだ。
「お嬢様の戯言はさておき、星彩学園は素晴らしい環境ですし、この屋敷からも近いです。何より一芸推薦で入学した場合、学業よりも本業を優先することが認められておりますのでお二人の進学先としては最適だと思いますよ、ちなみに私も星彩学園の生徒です」
にっこり微笑むメイド長の清川。
「え? 清川さんって……学生だったの?」
「嘘……でしょ?」
衝撃の事実に驚きを隠せない克生とクロエ。
「二人とも何言ってるの? 清川は私の同級生よ?」
ということは中学三年生? 高校生ですらなかった……。ショックのあまり崩れ落ちる克生とクロエであった。
「焔と清川さんもいるし、環境面も申し分ないみたいだし……星彩学園悪くない気がする……クロエはどう思う?」
「はい、私も星彩学園に通ってみたいです!!」
「それなら決まりだな、焔、清川さん、そういうことなのでお願いしても良いかな?」
「大歓迎よ、ようこそ星彩学園へ!! ああ……高等部が始まるのが待ちきれないわ!!」
期待で頬をバラ色に染める焔。
「実は、すでにお二人の推薦入学手続きは完了しております。後はご本人の承諾だけでしたので」
「そ、そうなんだ……さすが清川さん仕事が早い」
「いえ、手続きをしたのは執事の鬼塚です」
「ああ……あの強面の――――」
「見た目はアレですが、仕事は丁寧で繊細な気遣いの出来る人間なんですよ」
清川がそこまで言い切る人間であれば間違いないのだろうと克生は鬼塚の評価を改める。もっとも初日の送迎で少し接しただけなのでほとんど知らないに等しいのだが。
「克生さま、クロエさま、早速ですが制服のサイズを採寸しますのでこの後ご協力願います」
「わかった、よろしくお願いします」
「はい、清川さん」
「清川、私は? 私も採寸する!!」
「お嬢様は肉体的にも精神的にもまったく成長しておりませんので必要ありません」
「し、してるわよ失礼ね!! っていうか精神面は制服に関係ないでしょうが!! まったく……私だって……少しくらいは成長してるわよ……たぶん」
自分の身体、特に胸回りを見てため息を漏らす焔。たしかに小柄な焔なら中等部のままでも特に問題なさそうではある。中等部と高等部の違いは、リボンの色だけなので、焔に限らず四月の段階で必ずしも制服を新調する必要はないのだ。
「はあ……仕方ないですね、それではお嬢様も一緒に採寸しましょう」
「やった!! 私の伸びしろを見せつけてやるわ!!」
伸びしろじゃ駄目じゃないのか? と内心思う克生とクロエだったが、あえてツッコまない優しさは持っている。意気揚々と採寸に臨んだ焔であったが――――
「身長は一ミリ伸びてますが……誤差の範囲でしょう。胸回りは逆に一ミリ縮んでます。良かったですね胸元スッキリ快適ですよ? ですが……体重だけ増えているのはどういうわけなんでしょうね……」
「くっ……なんで胸が縮んでるのよ……こんなのおかしいわ。それに体重は誤差よ!! ほら昨日二人の歓迎パーティーで食べ過ぎただけだから!!」
悔しさで打ち震える焔だったが――――
「そんなに気にすることないぞ焔、理想的な体型は人それぞれ違うんだし比べることに意味なんて無い」
「お、お兄さま……!!」
克生の言葉ですぐに復活する。
「たしかにそうかもしれませんが――――物事には限度というものがあります。お嬢様の場合、常習的な夜更かしと不規則な生活習慣に問題があるのではないですか? せっかくの成長期なのですからもう少し御自覚いただけると」
「く……たしかに……」
清川のぐうの音も出ないほどの正論にがっくりと膝をつく焔。
「あはは……ドンマイですよ焔。あ!! そうだ、良いこと教えてあげます。手っ取り早く胸が大きくなる方法――――興味ありますよね?」
クロエはスレンダーなモデル体型だが、胸はしっかりと存在感がありバランスもとれている。ある意味で焔が――――いや、多くの女性の理想を体現しているといえる。
「く、クロエお姉さま、是非!! 是非私めにご教授くださいっ!!」
「わかりました、ここではなんですので……女同士あちらで話しましょうか」
焔を連れて部屋を出るクロエ。
「何話すつもりなんだ……あの二人?」
清川から同級生なのですからと言われたので、克生は先ほどから口調を改めている。
「さあ? それより克生さま、少しお願いがあるのですが――――」
焔「くっ、私は大器晩成型だから!!」
清川「はいはい、大器晩成大器晩成」




