第百二話 究極の力
「はい? 五人で融合ですか?」
克生の説明に驚くクロエ。
『ああ、多分出来ると思うんだ、俺たちなら』
深い信頼と愛情で繋がっている五人なら可能だという克生だが――――妹たちは微妙な表情を浮かべる。たしかに克生に対する信頼と愛情は限界突破している自負はあるものの、他の姉妹同士は同じようにはいかない。世間一般の姉妹とは違い、四人には血の繋がりは無いし、深く関わってから日も浅い。
もちろん共に克生を支える家族として信頼もしているし敬意は持っているが、融合できるほどかと言われればはてなマークが浮かぶ。
そんな妹たちを見て、克生は言葉を続ける。
『俺さ、四人と融合したからわかるんだ。クロエ、焔、聖、魔璃華、全員世界一の妹たちだって思ってる。もちろん俺だって悪いところはいくらでもあるしお前たちにだってあるかもしれない。でも――――それを含めて愛してる。一つになりたいって思ってるんだ。頼む、力を貸してくれないか』
克生と融合する前だったら無理だったかもしれない。
だが――――彼女たちは全員克生と融合したことで間接的に他の姉妹のことも無意識に受け入れていたのだ。だからもう迷いは無かった。
「はい、わかりました。私は覚悟を決めます!!」
「仕方ないですわね、少なくともクロエ姉さまと融合できるのは楽しみではあります」
「私はとっくに受け入れてますので問題ありません」
『ありがとう……クロエ、焔、聖』
モフモフの克生に抱きしめられて恍惚の表情を浮かべる妹たち。どさくさに紛れて耳や尻尾を触っているのはご愛敬だ。
「はあ……私も妹になりたかったわ……」
紗恋が深いため息をつくと
「ですよね~……」
「激しく同意」
ミルキーナとハクアも悔しそうに拳を握る。
「せめて私たちもモフらせてもらうわよ!!」
「賛成です!!」
「サレン天才!!」
『うおっ!? ど、どうしたんだ?』
突然襲い掛かってきた三人に焦る克生だったが、なぜかモフモフし始めたので黙って身を任せるしかなかった。
『くっ……私だけモフモフ出来ないではないか!!』
融合している魔璃華は、強引に身体を動かして自分で自分の身体をモフる。自分の身体といっても、見た目は克生そのものなので実に奇妙な感覚だ。克生は内心苦笑いしつつも抵抗はしない。
『理解不能……』
その様子を見て『世界喰い』が何かつぶやいていたが、誰も気にしていなかった。その間も攻撃は続けられていたが、どうやら無駄だと理解したらしく今は攻撃してこない。少しでも早く成長することを生存本能としているだけに無駄なことは極力しないのだろう。消費したエネルギーを補填すべく食事モードへ移行した『世界喰い』は、こうしている分には普通の大樹のようにしか見えない。
『さて、実験開始と行くか』
「克生お兄さま、でもどうやって融合するんですか? キスは一人としか出来ませんよね?」
クロエの言う通り、同時に複数人の融合は物理的に無理がある。
『順番に融合していくんだ。今は俺と魔璃華が融合している状態、ここからさらにクロエを融合する。成功したら次は焔という風にやってみよう』
「なるほど、わかりました」
クロエはキスをする準備を完了する。魔璃華ともキスすることになるのは微妙な気分だが、幸い見た目は克生がベースなので忌避感は感じない。むしろ克生と融合している魔璃華の方がその感覚は強いはずだが、そこは克生の持っているクロエに対する愛情が融合しているので不思議なほど嫌ではなかった。むしろドキドキしてしまうくらいには受け入れることが出来た。
『……よし、成功だ!!』
克生、魔璃華、クロエの三人が融合したその姿は――――女性が二人になった影響もあってやや中性的な印象に変化している。髪色は三人のものが混ざって実にカラフルだ。
「さしずめ幻想形態マリエといったところですわね」
興味深そうに融合した三人を見る焔。
「融合は成功したようですが、能力的にはどうですか?」
『ああ、二人の時とは比較にならないほどパワーアップしている。ただし思ったより消耗が激しいな……長時間戦うのは難しいかもしれない』
もともと融合は肉体的精神的な負担が大きい。維持するのもそうだが、融合解除した時のダメージが一番大きいため注意が必要になる。それが三人ともなれば当然負担も相応に増えるのは予想していたが、予想以上に燃費が悪そうだ。
「そうですか……とにかくどこまで融合できるか確認しておきましょう。お嬢さま、さあどうぞ」
「そ、そうね、頑張るわ」
聖に促されてマリエとキスをする焔。難しいことや複雑なことは考えない彼女なので、あっさりと融合は成功する。
一番の問題は――――幻想形態の名前をどうするかという一点のみ。
「……マリエラで良いのでは?」
散々揉めたが、最後は待たされてキレかけた聖の案に落ち着いた。
「さて、最後は私ですね」
聖はじっとマリエラを見つめる。克生の面影は残ってはいるものの、もはや完全に別人だ。男か女かで言えば間違いなく女だろう。
最後は損ですね……聖は内心ため息をつきながらも、それだけ克生から信頼されているのだと切り替える。融合は人数が増えれば当然リスクも増える。最後が聖となったのは間違いなく信頼されているからに他ならない。
『行くぞ聖』
「はい」
二人の唇が重なった瞬間――――これまで以上に爆発的な光があふれ出す。光は辺り一帯を埋め尽くし紗恋たちの視界を完全に奪う。
「せ、成功したのかしら?」
ようやく視界が戻って来たとき――――そこには完全に女体化した克生が立っていた。先ほどまでの別人ではなく、そのまま克生が女性化した姿となっているのは、聖が融合したことで安定化したからかもしれない。
その姿は現実とは思えないほど美しく神々しくすらあった。
髪がなびくたびに金色の光粉がキラキラと舞い散るのだ。
紗恋、ミルキーナ、ハクアは呼吸をするのも忘れて見惚れることしか出来ない。
『幻想形態マリジエラ、爆誕!!』
少し時間がかかったのは、名前をどうするかで揉めたからだろう。
その神々しい見た目だけでなく、もはや神に届いたのではないかとすら思える圧倒的な存在感と立っているだけで震えるような力を感じる。
「す、すごい……」
「もはや神の領域……」
ミルキーナとハクアは平伏さんばかりの勢いで賞賛する。
「そうね……力だけなら。でも――――あの様子だと長くは持たないわね」
紗恋の言う通り、幻想形態マリジエラはすでに崩壊の兆候が出始めている。融合が不完全というよりも、その規格外の力故に地上では長く維持できないと言った方が正確かもしれない。
『残り十秒……一気にケリを付ける!!』
次の瞬間、幻想形態マリジエラは紗恋たちの視界から消えていた。
次回更新は週末を予定しております<(_ _)>




