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第6話

ベラとカルロに会い、仮名を与えられたことを伝えると、リロイは微妙な顔をした。


「だめでしたか?」

「いや—―」

「ぱんぱかぱーん、ベラ姉登場! って何リロイあんたもいたの」

「私の拾い子だ」

「よく言うわよ。10年何も食べないで餓死しかけたくせして」

「あれはたまたまだ」

「たまたまで次期王が死んでたまるか! ていうかあんた今、メーティス様の」


大きな声に、エリスは肩を震わせた。とたん、ベラは口をつぐむ。


「ごめん。怖がらせるつもりはなかった」

「だいじょうぶ、です」

「無理しないでいいのよ、いやなら嫌って言って」

「......はい」


沈黙が落ちると、次に口を開いたのはリロイだった。


「――ヴェローナ。私は王のことでエリスに頼みをしようと思ってきたのだ」

「は? エリスに頼み?......あんたまさか」

「エリス。我らが王と、会ってはもらえぬか」

「リロイっ!」

「王、さまは、街を、消した方ですか」

「そうだ。王はそなたの住処を奪った。そしておそらくは、そなたの色をも」

「......会います」

「エリス!?」


自分でも、なぜそういったのか、よくわからなかった。それでも、会おうと思った。


「おうさまに、会わせてください」




エリスはリロイに連れられ部屋を出た。白を基調とした空間は広いのに、人の気配がしなかった。


「......だれも、いないんですか」

「王が皆を傷つけたくないと、暇を出した。私とヴェローナとカルロしか残っておらぬ」


しばし待て、と告げられた部屋で待つこと暫く、リロイに手招きされ、続きの部屋へ入った。そこには女性がひとり、短い髪を乱し、うつろなまなざしで地面に座っていた。


「......おうさま?」


女性はこちらを向かない。


「おうさま」


エリスはしゃがみ込む。


「王さま。どうして、そんなにさびしいの」


その声で、初めて女性が反応した。


「さび、しい」

「目が」

「目」

「さびし、そうだった」


ぱちぱちと、女性は瞬く。瞳が焦点を結んだ。


「さびしい、のか。妾は」


ふいに、女性が大きく息を吐いた。


「......そうか」


再びうつろな目に戻ったことを確認すると、リロイはエリスを連れて部屋を出た。


「しばらく、頼めるか」

「はい」


エリスはその日から王のもとへ通った。王は反応する日もあれば、反応しない日もあった。反応する日は、きわめてまれだった。

王は滅びかけているのだと、ベラは寂しそうに語った。


「――王さま」

「......」


その日も返答はなかった。


「――王さま、わたしの色は、還りますか」


だから、聞いた理由も、明確なものはない。

けれどその瞬間、王は反応した。


「色」

「わたしの世界」

「せかい」


おうむ返しに呟いていた王は、この時初めてエリスを見た。


「――ひとのこ」


頷くと、王の目が焦点を結ぶ。


「――そ、なた」

「......?」

「妾が、壊した.......また、千切った」


絶望がその瞳に見え隠れする。


「そなたからも、奪ったのか」


小さくうなずく。


「――人に嫌われ、疎まれ。妾もここまでかの」

「きらいって、なんですか」

「は?」

「ひとをきらいって、なんですか」


は、と言われたので言葉を繰り返す。食べ物の嫌いは、食べたくないことだと、ある時教えてもらった。でも、人を嫌うは、よくわからない。


「......見たくない、とか、会いたくない、とか」

「ないです」

「......消えてほしいとか」

「おうさまがきえたら、ベラお姉さんたちが悲しみます」


おうさまは無言だった。


「そなたは、妾を恨まぬのか」

「うらむがわかりません」

「憎らしい.....ええとだな」


ううん、と女性は唸る。そこで、ぐううううううううと盛大におなかが鳴った。


「......わたしじゃないです」

「......そうだな。妾だ」

「おなかすいてるんですか?」

「のようだ」

「りんごたべますか」

「りんごか」

「リロイ、さん、皮むき、すごいうまい」

「......そうか」


ふ、とおうさまは笑った。きれいな笑みだった。


「食べたいな」




「エリス。ありがとう」


その日の夜、りんごを部屋で食べていると、リロイがやってきてそう言った。先程もベラお姉さんとカルロお兄さんが涙ながらにお礼を言いに来たけ。錯乱した王と、また話せる日が来るとは思わなかったと。元気か尋ねると微妙な顔をしていたけれど。


「王は私の養い親なのだ。また、言葉を交わせたこと—―そなたのおかげだ。感謝する」

「おうさまと、りんご食べましたか」

「.....ああ」

「よかったです」

「また、王と話してくれるか」

「はいーーりんご、食べますか?」

「いい。そなたが食べろ」

「おなかすきませんか」

「特に」

「そうですか」


しゃくり、とエリスはりんごをほおばった。


「そなたは林檎が好きか」

「好きになりました」

「そうか」

「お姉さんがいろいろくれるけど、一番りんごがすきです」


一切れいいか、と問われ、食べるのだと思って頷いたら、りんごはかわいくなって帰ってきた。


「かわいい」

「好きか」

「かわいくて食べられないです」

「食べないと腐る」

「それはもっとだめです」


エリスはさんざんかわいいりんごを眺めてから、名残惜しそうに口に運んだ。


「かわいくしたら、おうさまもよろこびます」

「......そうだろうか」

「きっと」


そうか、とリロイはつぶやく。その横顔が、なぜかさびしそうだった。



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