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第7話 みんなと一緒に

「お疲れさまです! 遅くなりました!」

「おっ? 松永~、白崎にしっかり話聞いて貰ったか?」


 “相談”が一段落着いたところで、まだ時間があるから部活に顔を出す、と言った松永さんに同行する形で、体育館にやって来た私達の元に、丁度休憩中だった先輩達が歩み寄って来た。


「いやぁ、松永さんの愛が止まらなくて、嬉し恥ずかしでしたよ~」

「何お前、悩みって恋愛事かよ。 青春してんなぁ」

「なっ!? 違っ! ちょ……白崎さん!!?」


 暖かい目で松永さんを見つつも、口元のニヤニヤが抑えきれていない桂木先輩。


 これは間違いなく、後で吐かされるヤツだ。


 でもそれで松永さんが先輩達への愛を語りまくった場合……本人達に向かって語る羞恥に松永さんが撃沈して、そんな彼女の言葉や様子を見聞きしたら、先輩達もキュン死するんじゃなかろうか。



 ――ヤバイな。



 ――想像したら、なんか尊いんだが。



 ――私もその場に呼んでいただけませんかね?



 松永さんによって、余計な扉を開かれてしまった感覚に苛まれながら、必死に平静を装いつつ鳴海先輩に合図を送った。


「――ねぇ白崎さん。 この後、最後に試合形式で練習する予定なんだけど、せっかくだし、見学していかない?」

「いいんですか? あ、だったら――」


 そう言って鳴海先輩の方に顔を寄せ、耳打ちする。


「(チーム分けなんですけど――)」

「(――なるほど、いいよ)」

「(あと、チームメンバーの運用で――)」

「(――へぇ、その動きは試した事ないね。 面白そう)」

「(すみません、急に)」

「(いいのいいの、何か意味があるんでしょ?)」

「(何もないのが一番なんですけ――ど!?)」


 鳴海先輩と、作戦の打ち合わせをしていると、不意に突き刺すような鋭い視線を感じた。


 バレない様にこっそりと視線を向けると、休憩中で談笑しているグループから少し離れて座っている数人の内の1人――俯いてスマホを弄ってるように見える部員から向けられた視線らしい。


 どうやら、遅れてきた松永さんと一緒に現れた部外者が、わずかな時間とは言え部長と内緒話してる状況は、“彼女”に疑念を持たせるに充分だったようだ。


「……オッケー、いいよ。 行き方は知ってるよね?」

「え? あ、はい! 大丈夫です。 ありがとうございます」


 不穏な空気を感じ取ったのか、鳴海先輩が努めて明るい声で、体育館の二階部分――バスケットゴールの少し上を通るようにぐるりと設置された回廊を指差してくれる。


 先輩も気づいた?


 いや……空気読んでくれた感じかな?


 なんにせよ助かった。


 そんな先輩にお礼を告げて、舞台袖の階段から二階へ上がり、女子バスケ部が練習してるコートのゴールそばへと向かう。



 先輩の機転でこっちに上がったけど、全体を見渡せるここから見学できるのはありがたかった。



 そして、そうこうしてる間にも、私が先輩にお願いした“最後の一手”が着々と進んでく。


 私が見下ろす先では、今まさにチーム分けが発表されていた。


「今回は、次の大会も想定したチーム分けで試合するよ。 まず私が白チームで、赤チームは各務さんに指揮を取って貰う」

「わ、私がですか!?」


 鳴海先輩の言葉に、遥香が驚きの声を上げるが、鳴海先輩は遥香を優しく見つめながら小さく頷く。


「うん。 前にも言ったけど、私は各務さんに次の部長になって欲しい。 だからその予行演習だと思って、しっかり皆を指揮してね」

「そ……そんな……」

「心配すんな。 アタシとマホでフォローしてやっから」


 自身なさげに俯いた遥香の肩をバシバシと叩きながら、赤のゼッケンを持った桂木先輩が声を上げ、小阪先輩もウンウンと頷いた。


「うん。 今日部活に出てる3年は私達だけだから、相手チームの3年は香菜(かな)ちゃん1人、勝てるよ」

「私達もそんな簡単には負けないよ? とりあえず赤チームは各務さん、葉月と真歩、松永さんと田中さんね」


 2年生三人に3年生二人のチームで攻守のバランスもかなり良い。

 ちなみに、田中さんは背が高くてシュートのブロックやリバウンドが得意な子だ。


「白チームは、私と残りの2年生、あとは1年から誰か立候補を――」


 一方の白チームの方もバランスはいい。


 手を上げて選ばれた1年生の子は分からないけど、指揮をする鳴海先輩の他に、ドリブルが得意な子、シュートが得意な子、パスカットが上手い子が揃ってるのだ。


「それじゃ、第2までのハーフでやるよ」


 そして、鳴海先輩のその掛け声を合図に、いよいよ練習試合が始まる。





 前半の10分は、遥香達赤チームが優勢で試合が進んでいた。


 遥香の方にまだ少し遠慮があるようだが、その都度桂木先輩達がフォローして行く。


 小阪先輩がボールを奪ったり、田中さんがブロックして、松永さんが切り込み、桂木先輩がシュート。

 遥香も、こぼれ球のケアやパスの中継等、全員のフォローをしっかりこなしていた。



 流れが変わったのは、休憩を挟んで後半に入ってすぐ。



 まず最初に、それまでは難なくボールを奪えていた小阪先輩が、ボールに触れられなくなった。


「――くっ! また!」

「真歩の動きはお見通しだよ!」


 鳴海先輩の言葉通り、小阪先輩が居ない方居ない方へと次々パスが回されていく。


 さらに――


「くっそっ! 全然フリーになれねぇ!」

「葉月はマークが付いてる時のシュート精度は良くて7割、前半みたいには打たせないよ!」


 前半で点を稼いでいた桂木先輩に、1年生がピッタリとマークに付くようになった。


 もちろん、抜かれる事も多いが、ボールを奪う必要はない。


 とにかく桂木先輩に、フリーでシュートさせなければいいのだ。



 そして――



「またパスコースが変わった!?」

「パスカットが活きるのは、ディフェンスだけじゃないんだよ」


 ドリブルが上手い子が切り込んで、相手ディフェンスをある程度引き付けたところで出したパスを、パスカットが上手い子が割り込んで強引にコースを曲げる事でノーマークになった人にパスを出す。


 そうやって、シュートが得意な子と鳴海先輩が次々点を重ねていくのだ。


 この戦法の(かなめ)は、ある程度のディフェンスを抜けるドリブル技術と、“速い”パスを出せる腕力。

 そして、そんなパスの速度を殺さずに軌道変更させるインターセプト技術だ。



 松永さんから部員達の話を聞いて、突貫で立てた戦法だったけど……


 ここまで上手くハマるとは正直思ってなかった。


 これも(ひとえ)に、鳴海先輩の指揮能力の高さ故だろうか。


 これで残った課題は、遥香がこの戦法の穴に気づいて対策を打てるかどうかだけだ……。


 それができれば、大団円への前提条件はクリア。



 あとは、あんた次第だよ、遥香。



 あんたの『このみんな(・・・)で勝ちたい』って気持ちの強さ――証明してみせてよ。

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