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第5話 松永さんの相談

 食事を終えたあと、校舎に向かいながら先輩達のこう言う所が凄いとか、格好いいとかを聞かせて貰った私は、放課後になった今でも、まだ混乱している頭を必死に落ち着かせようとしていた。



 と言うのも――



 ――何て言うか、先輩達の事大好きすぎる気はしなくもないけど、話してると別に、気に入らない奴はぶっ潰す、みたいな子じゃない気がするんだよね。


 ただ、彼女と話す中で1つだけ気になったのは、良く言えば“一本筋が通ってる”ように感じたことだ。


 ――頑固、ともちょっと違うんだけど。


 自分の考え方や譲れないものを、上手く妥協するのが苦手な印象を受けたのだ。


 その辺りの事も、“相談”で上手く引き出せないだろうか……


 そんな風に考えていると、スマホがメッセージの受信を知らせる通知音を鳴らした。


「……よかった。 ちゃんと何かしら相談はしてくれるみたい」


 送り主はもちろん、お昼にメッセージアプリのIDを交換していた松永さんである。


 今日はもう使わないから、と生徒指導室の鍵を貸して貰っている事をメッセージで伝え、私も荷物を持って向かう――と言っても隣のクラスなので、教室を出た時点で合流する事になった。


「松永さん、お疲れさま~」

「お疲れさま」


 互いに軽く右手を上げながら挨拶した後、どちらからともなく並んで歩き始める。


 少々空気が重い無言の時間が流れるが、それも数分で終わり、私達は目的の部屋にたどり着いた。


 借りていた鍵を使って中に入ると、大きめの机と、向かい合う形で2脚ずつ置かれた椅子、奥の棚には大学や専門学校などの資料がずらりと並んでいる。


「お? 大学資料増えてるじゃん」

「え? 白崎さん、ここ入った事あるの?」


 中の様子を知ってそうな私の言葉に、松永さんは驚愕の表情を浮かべた。


「ん? あ~、大学の資料見せて貰いに何回か来てるし……ほら、今回みたいに相談事聞く時に使ったりもするから」

「あ、なるほど……」

 

 私の説明でとりあえず納得行ったらしい。


 部屋に入る時から、やたらと緊張して見える松永さんは、物珍しそうにキョロキョロしていた。


 ……まぁ、生徒指導室って聞くと、ヤンチャした生徒をシメ――指導する部屋ってイメージだろうし、字面的にも出来れば関わりたくない部屋の1つなんだろう。


 残念ながら、3年生になったら嫌でも全員が一度はお世話になる事になるんだけどねぇ……進路相談で。


「んじゃ、適当に座ってお話ししよっか」

「あ……うん……よろしく」


 私がそう言って近くの椅子に腰かけると、松永さんは「面接にでも来たのか?」と聞きたくなる程、緊張気味に向かいの椅子へと座った。


「………………」

「………………」


 チラチラとこちらを見たり逸らしたりと、視線を彷徨わせる松永さんを見つめる事しばし。


 意を決した様に顔を上げた松永さんが、ゆっくりと口を開いた。


「……何も、聞かないんだね。 各務さんの事……」

「――んぇ!? ……遥香がどうしたの?」


 あっぶない!


 いきなり右ストレートで来たから、声が上ずりそうだったよ!?


「いや、昨日ケガさせちゃったから……白崎さん、各務さんと仲良いし……ごめんなさい」 

「……あ~、練習中にぶつかった相手って松永さんだったんだね。 遥香は軽い捻挫って言ってたから、昨日は念のため包帯で固定してたけど、今日は普通に部活行ってると思うよ。 松永さんはケガ無かったの?」


 なんか、遥香の主観では、普段から毛嫌いされてるみたいでキツい事も言われる、って聞いてたから、故意っぽいのかと思ってたんだけど……


「私は、打ち身だけだった――」


 暗い顔をした松永さんの話によれば、ぶつかった事による怪我はお互いに打撲のみだそうだ。


 遥香の捻挫は、揃って体勢を崩した際に、松永さんの上に倒れ込まないようにと、変な体勢のまま踏ん張ったためらしい。


 言われてみれば昨日も、“松永さんのせいで怪我をした”と言うような事は一切言われてなかった。


 “敵視”されてるみたいと言う言葉と、勝手に繋いで考えてしまっていた事を、心の中で反省する。


「それなら、二人とも大した怪我が無くて良かったじゃん」

「……うん」



 これは、今日はここまでにした方がいいだろうか……



 項垂れる松永さんを見ながら、そんな事を考え始めた時――


「ねぇ、白崎さん……ここで話した事って、誰にも内緒にしてくれるの?」


 ――顔を上げた松永さんが、真っ直ぐにこちらを見ながら口を開いた。


「そりゃ、相談者も相談内容も、個人情報って事で完全秘密だよ」

「……だったら……ここからは先輩の依頼だからじゃなくて、私から相談依頼しても良いかな?」

「――っ!?」


 松永さんの言葉に、思わず姿勢を正す。


 そりゃそうだ。


 今の流れで、これからする話を秘密にしたい相手って言ったら、部の先輩達や遥香の事である可能性が高いだろう。


 つまり――


 私が一番聞きたかった、松永さんの“本音”を聞けるかもしれないのだ。


「私の中でも上手く纏まってないって言うか……ちゃんと話せるかは分かんないんだけど……。 先輩達も、誰かに話すだけで少しは楽になるって、言ってたし……。 だから、もしよかったら話、聞いて欲しい」

「……オッケー。 それじゃ――」


 それでも、松永さんが“依頼主”になるのなら――


「――その依頼、承りましょう」


 ここからは、他の依頼は一旦置いといて、目の前の“相談”に集中しようか。

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