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第4話 印象のズレ

 一夜明けて翌日の昼。


 早速、私と鳴海先輩は行動を開始していた。


 私が、まずは松永さんから“本音”を引き出したい、と言ったら一策講じてくれる事になったのである。


「あっ! お~い、白崎さ~ん」


 お昼時で、寮に併設されている食堂が一番混雑する時間を狙って食事を摂りに来た私が、今日のメニューを乗せたトレイを持って予定通り(・・・・)ウロウロしていると、少し離れた窓際の席から声をかけられた。


「鳴海先輩、お疲れ様です」

「白崎さん、席探してるなら、ここ座ったら? 葉月(はづき)真歩(まほ)も別にいいよね?」


 そう言って、鳴海先輩は自分の前に座る二人に声をかける。


「構わねぇよ? こんなけ混んでんだし、遠慮すんな」

「うん。 私も、大丈夫だよ」


 鳴海先輩の問いに、ナハハと豪快に笑いながら答えたのが桂木葉月(かつらぎ  はづき)先輩。

 もう一人のおとなしそうな人が小阪真歩(こさか まほ)先輩だ。


 この二人は、昨日鳴海先輩に教えて貰った“主力”の人達であり――



 ――今日の予定(・・)の協力者でもある。



「そういや白崎ってさ、いろんな奴の相談事聞いて回ってるんだって?」

「え? いや、聞いて回ってるわけではないですよ。 何故か皆が相談に来るだけで」


 桂木先輩や小阪先輩とは、これまであまり関わりが無かったが、鳴海先輩と仲が良いだけあって、この二人もかなり面倒見が良いタイプのようだ。


 ターゲットが現れるまでの間、気まずい沈黙が流れるような事もなく、穏やかな時間が流れていく。



 そして――



「お? 松永~、今日一人なのか? ちょうど一個空いてっから、よかったらこっち来いよ」

「あ、お疲れ様です! ……えっと……はい、ありがとうございます! 失礼します!」


 桂木先輩に呼ばれて挨拶をしたあと、周りの状況を見て席探しに苦労しそうだと感じたのだろう、元気よく言ってから空いていた席に座った。


 位置的には、私から一番遠い席。


 私の前に座る小阪先輩から、桂木先輩を挟んで向こう側の席に着いた。



 さて、それじゃ、作戦開始。



「松永さん、お疲れさま~」

「え? 何で白崎さんが部長達と……」


 私が声をかけると、松永さんは明らかに警戒の色を見せた。


 まぁ、私が遥香と仲良いのは知ってるだろうから、当然とも言える。


「席探して困ってそうだったから、私が誘ったんだよ」

「困ってそうな奴見つけるとすぐ声かけるんだもんな~。 このお人好し~」

「は、葉月ちゃん! 悪い事じゃないんだから、そんな言い方はよくないよ……」


 そんな警戒も、先輩達がすぐさま入れたフォローで緩和されたようだ。


 そのまま、最初の内は先輩達がさっきまでと同じく雑談をしていたのだが、食事が終わりに近付いてきたところで、まずは桂木先輩が斬り込んでいく。


「そういや松永、昨日えれぇ動き悪かったけど、何かあったのか?」

「……え?」


 何気ない空気でサラッと差し込まれた話題に、松永さんの動きが止まった。


「ほら、昨日お前が各務――」

「あ、あの! 大丈夫です! ちょっと……ボーッとしてただけで」


 先輩の口から遥香の名前が出た瞬間、松永さんはその言葉を遮るように慌てて口を開く。


「そうか? 大会前だし、悩みとかあるんなら早めに解決しろよ? 誰かに聞いて貰うだけでも楽になったりするし、いつでも相談しに来いよ」

「葉月ちゃんに相談なんかしたら、とりあえず思いっきり喧嘩しろとか言いかねないから、やめた方がいいと思う」


 すごく男前にドンッと胸を叩いて言った桂木先輩をしり目に、小阪先輩がサラッと毒を吐いた。


「ちょっ、マホ! お前、人をなんだと――」

「確かに葉月に相談事は荷が重いよね~」

「カナまで!?」


 そりゃねぇよ……と項垂れる桂木先輩を見て、みんなでクスクス笑っていると、突然バッと頭を上げた桂木先輩がまっすぐにこちらを見つめてくる。


「そう言えば、ちょうど適任がいるじゃん! なぁ“女子寮の相談屋”さん?」

「あ~確かに、白崎さんなら学年も一緒だし、相談しやすいんじゃない?」


 そんな感じで、あれよあれよと言う内に、放課後松永さんが私に“悩み”を相談する事になった。


 一応、桂木先輩からの『後輩の悩みを聞いてやって欲しい』と言う“依頼”って形になっている。


 これで私は、依頼主である先輩に対して相談内容自体は秘匿したとしても、『ちゃんと悩み相談を受けました or 相談して貰えませんでした』と言う報告を入れる必要が出てくるのだ。


 なので、それを聞いていた松永さんとしては、せっかくの先輩達の好意を無駄にしないためにも、核心に迫るような相談をして来るかどうかはさておき、何かしらひねり出して来るんじゃないだろうか。


「そんじゃ、しっかり話聞いて貰えよ~」

「モヤモヤしながらだと練習にも身が入らないだろうし、話聞いて貰ってスッキリしてから、まだ時間あったら部活に顔出してね」


 じゃーねー、と手をヒラヒラさせながら、先輩達は片付けを済まして食堂を出て行った。


 時計を見れば昼休みも後半分を切っている。


 あれだけ人が一杯でガヤガヤしていた食堂も、今はまだらに十数人残っている程度で静かなものだ。


「桂木先輩達っていつもあんな感じなの?」

「え? あ……うん、まぁ、だいたいあんな感じ、かな」


 どことなく、居心地が悪そうにはしているが、さっきのように警戒はされていないようで、普通に会話してくれるらしい。


「周りを巻き込んで行くみたいなパワーがあると言うか、頼れる姐御感すごいよね」

「うん! 桂木先輩だけじゃなくて、鳴海部長も私達の事しっかり見てくれて的確にアドバイスくれるし、小阪先輩もさりげなく全体のフォローをしてくれて……私も、先輩達みたいに、後輩に頼られるように――って、ごめん、急にめっちゃ喋っちゃって……」


 先輩達の事を嬉しそうに話す松永さんを見て思ったのは――


「いいよいいよ~。 あ、でも、そろそろお昼食べないとだよ? 待ってるから途中まで一緒に行こうよ。 もっと先輩達の事聞かせて欲しいし」

「ぇ……うん、わかった! 急いで食べるから――」

「いやいや、ごゆっくり~」


 ――周りの話を聞いて想像していた人物像と、ずいぶん印象が違うなぁと言う事だった。

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