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第3話 部長の相談事

 遥香と話をした日の夜。


 私は、女子バスケ部の部長である鳴海香菜(なるみ かな)先輩にメッセージを送っていた。


 そして、消灯時間が過ぎて暫くした頃、私のスマホがメッセージの着信を知らせる。


「――お? 来たかな?」


 すぐに確認すると、やはりメッセージの送り主は鳴海先輩だった。


 そこには短く『今からなら大丈夫』と書かれている。


 それを確認した私は、スマホと飲み物だけ持って先輩の部屋へと向かった。


 私達が暮らす寮は1年と2年は二人部屋で、3年から個室になる。


 だからこそ、内緒の話をするのなら、3年生である先輩の部屋に行く方が、いろいろと都合が良いのだ。


 私の部屋は4階建ての3階左奥、先輩の部屋は2階の右側手前の方なので、それほど時間を掛けずに部屋までたどり着く。


「どうぞ~、鍵開けてあるよ」

「お邪魔しま~す」


 コンコンと小さくノックすると、すぐに室内から声が聞こえて、入るように促された。


 そのままそっとドアを開けて中に入ると、しっかりと鍵を掛けておく。


「ごめんね、わざわざ来て貰っちゃって。 相談してる立場だから、ホントなら私が出向くべきなんだけど……」

「大丈夫です。 メッセでも言いましたが、個室の方が話しやすいですしね。 あ、オレンジより、リンゴの方が好きでしたよね? ――どうぞ」


 そう言って、紙パックのりんごジュースを先輩に差し出し、自分はオレンジジュースのパックにストローを差した。


「あれ? 言った事あったっけ……って言うかよく覚えてるね」

「こないだ相談に来てくれた時に言ってましたよ。 覚えてるのは……まぁ、クセみたいなものですかね」


 笑顔を貼り付けながら答えるが……これは半分ウソ――前回相談を受けた時に、そんな会話はしていない。


 でも、こう言うのも大事な“顧客情報”だからね。


 相談があるって言われた時点で、依頼主の事も“どんな人か”ある程度調べた、と言うだけだ。


「クセか……でもすごいと思う。 ……と、ところで、進展があったって言うのは?」

「はい。 鳴海先輩からの依頼である、部内トラブルの原因に(あた)りが付きました」



 そう。



 私は遥香から話を聞くより前に、鳴海先輩から『部内の空気が何となくギスギスしてるように感じる。 できるなら大会までに解決したいから、原因を見つけたい』と相談されていたのである。


 だからこそ、遥香の怪我や、その後の話ですぐにピンと来たわけだ。


「……ほ、ホントに?」

「はい。 主な原因はおそらく、2年生の部員である、各務遥香(かがみはるか)さんに対する松永彩月(まつながさつき)さんの嫉妬と対抗意識ですかね」


 私の口から出た名前に、先輩は驚いたように目を見開いたが、それも一瞬。


 すぐに神妙な顔になって「なるほど……やっぱり」と小さく呟いた。


「ある程度、予想できてました?」

「確信はなかったけどね。 各務さんに対して、敵愾心というか……やたらと張り合ってるように見えたから……」


 対抗意識を持つこと自体は、上達するのには必要だし、そこまで深く考えてなかったんだろう。


 だがそれが余計に、周りが口出ししにくい環境を作り出してしまい、結果的に部内の空気の悪さに繋がった。


「とりあえず、先輩からの依頼はこれで完了ですが……私から1つご提案があります」

「提案?」


 そう、いつも通りの“相談依頼”としてなら、相談された部分が解消されたここまでで終わるんだけど。


 今回は、遥香からの相談もあるのだ。


 すっごく聞こえが悪いけど、先輩にはここから、私の“駒”になって貰いたい。


「遥香とは親友なので、なるべく穏便に、彼女が悲しまなくて済むように解決したいんです。 だから、もう少し私に、協力させてくれませんか?」

「う~ん……そりゃ、白崎さんの知恵を借りれるなら願ったり叶ったりだけど……いいの?」


 先輩的には、部内の事はなるべく部内で何とかしたいのだろうか?

 少し迷う様子はあったものの、最終的には了承をしてくれた。


「これは、うまく行った時に依頼料大変な事になりそうだね」

「こっちから言い出したんですし、アフターサービスって事にしときます」


 そう言って右手を差し出すと、先輩も釣られるように出してくれ、そのまま握手を交わす。


「よろしくね、白崎さん。 でも、どうやって解決するの?」

「ん~、一応いくつか案はあるんですが……。 ねぇ鳴海先輩、今の主力メンバーってどんな選手なんですか?」


 私がした突然の質問に首をかしげつつも、一人一人丁寧に、所感も交えて教えてくれた。


 例えば、ある先輩はスリーポイントシュートに執着してひたすら練習していて、現在成功率6割程。

 でも、その代わり、ペイントエリア付近からフリーで打つシュートは、ほぼ外す事がないらしい。


 他にも、あの子はボールを奪うのが上手い、この子は全体的に上手いんだけどピッタリマークされるのが苦手、などなど、どれだけこの人が部員達の事をしっかり見ているかがよくわかる内容だった。



 そして――



「松永さんは、とにかくドリブルが上手い。 スリーマンセルでも3割抜かれちゃうくらいの技術が一番の売り。 ただ、シュートの精度が低いから、斬り込んでもなかなかポイントゲッターになれてない」

「ふむふむ……」

「んで、最後に各務さん。 彼女は全体的になんでもできるオールラウンダータイプ。 どのポジションでも一定以上は活躍してくれるんだけど、一番の売りは視野が広い事。 私が指示を出す前に、居て欲しい所に居てくれたり、相手のディフェンスの穴を突くような位置取りをしたり、とにかくコート全体をしっかり見てる――」


 そこまで言うと、鳴海先輩は一度深く息を吐いてから、僅かに後悔を滲ませる表情で続きを口にする。


「――だから、私が引退したら、次は各務さんに部長になって欲しい……って言っちゃったんだ」

「……それは、勢いで言っちゃった感じで、例えば松永さんでも良かった、とかなんですか?」


 もしそうなら、比較的簡単に解決しそうな気もするんだけど……


 しかし、そんな私の思いも空しく、鳴海先輩は力なく首を横に振った。


「うちの部では、代々ポイントガード――って言ってもわかんないか……えっと、司令塔になるポジションに着く子が部長になってるんだ」

「あー、なるほど。 つまり敵陣深くまで斬り込む事を最も得意とする松永さんは、全体を見ながらメンバーに指示を出すことが難しいのか」


 仮に部長になったからと、無理やりそのポジションに立ったとしても、せっかくの持ち味を殺すことになってしまう。


「そう。 だから私は、ある程度何でも出来て、全体の把握が上手い各務さんに部長になって貰えれば、連携も上手く行くんじゃないかって思ったん、だけど……」

「技術が高く、抜きん出た一芸を持ってる松永さんからすれば、自分ではなく器用貧乏な遥香が次期部長って言われて持て囃されるのが気に食わない、と」


 そしてやっぱりこの状況じゃ、先輩達が何か言う度に、状況が悪化しかねない。


 だからこそ、他の先輩達も口を出せずに居るんだろうけど……


「たぶん、そう言う事だよね……。 あの二人、良いコンビになれそうなのに……」


 大きなため息と共に、今にも消え入りそうな声で呟かれたその言葉は、それを聞いた私に1つの閃きを与えてくれるたのだった。

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