第2話 次期部長候補の苦悩
「――って、言う感じかな」
遥香が語った内容は、概ね私が予想していた通りのモノ。
ざっくり言えば、先輩達から“次期部長”等と言われて、チヤホヤされている(ように見える)のが気に食わないらしい、と言う事だった。
「……う~ん、なるほどねぇ」
「そんな大っぴらに嫌がらせされてるわけでもないんだけどね。 まぁ、それでも部長は、薄々気づいてそうだけど――」
「――立場的に下手に庇い立てすると、余計にヒートアップしかねないから、安易な手は打てないってところか」
口元に手を当てて、「う~む」と唸りながら私が発した言葉に、遥香は苦笑を浮かべながら頷きを返してくる。
「そうなんだよね。 だから私が――」
「まぁ、それはそれとしてさ。 遥香はどうしたいの?」
「――え?」
遥香の言葉を遮るように言った私のセリフに、遥香は目を丸くしながら動きを止めた。
「いやだからさ、どうしたいの? いろいろあるでしょ? ムカつくからぶっ飛ばしたいとか、同じような目に遭わせたいとか――」
私が次々上げていく“例”に「え? え? え?」とアワアワし始める遥香。
自分で言っててアレだけど、遥香の性格的にも、報復のような事は考えてすらいないと予想していた。
だからこそ――
「――仲良くしたいとか……“一緒に勝ちたい”――とかさ。 何とも思ってない、なんて事はないんでしょ?」
「――!? 真悠菜……なんで……」
ニヤリと笑いながら言った言葉に、遥香は焦ったような表情で絶句する。
「いやぁ、これでも情報収集は欠かさない方でして。 ……どうせ、あんたの事だから、『相手だってきっと苦しんでるから』とか『やるせなさを吐き出す先がないんだ』とか考えて、全体の和を維持するためなら自分が我慢すれば――とか考えてるでしょ?」
「うっ……でも、実際、私が我慢してれば済む話で――」
「ホントにそう思う?」
たしかに、遥香が我慢してれば、首謀者の気が済んだ時点で終息するかもしれないのだ。
時と場合によっては、それも選択肢としてアリなのかも知れない。
でも――
「ホントにそれで、みんなが納得できる結果になる?」
「それは……」
正直私は、今回に関してそのやり方では無理だと思ってるのだ。
だって――
「今の女子バスケ部部長、締める所はちゃんと締めるけど、仲間思いですっごく優しい先輩だよね」
――状況を感じ取ってしまい、苦しんでる人が居るって事を――私は知ってるから。
「…………」
「そんな人がさ、誰か一人を犠牲にするようなやり方で納得――」
「しょうがないじゃん!!」
小さなため息混じりに私が放った言葉に、それまでは俯き黙って聞いているだけだった遥香が、キッとこちらを睨み付けながら怒鳴り声を上げた。
「松永さん、ホント上手いんだよ! ドリブルさせたらツーマンセルでも止められないくらいに! 部長はいつもフォーメーションの指示が的確だし、他の先輩も連携バッチリで! せっかく歴代でも一番って言われるくらいのメンバーが揃ってるのに! 先輩達は今年で最後なのに! 今はチームワークもガタガタで……私は……このメンバーで……今のみんなでインターハイに行きたいんだよ!」
「……遥香――」
「――だから……私はベンチでも良い……私が我慢して、チームが纏まってくれるなら……」
まさに感情爆発ってところだろう。
目に涙を浮かべながら、心の内をさらけ出した遥香は、一息にそこまで言うと、再び力なく項垂れた。
痛いくらいに伝わってくる遥香の想いを受け止めるかのように、彼女に寄り添って座る。
そして、遥香の頭を撫でながら――
「…………ばぁぁぁか」
――思いっきり罵倒した。
「なっ!? 人が真面目に――」
「あんたの自己犠牲で全てが円満に片付くんなら、とっくの昔に解決してるでしょうが。 それに、今のあんたの発言、それ自体がチームメイトの想いを蔑ろにしてるって気付いてる?」
未だ涙で滲む目をこちらに向けて来るが、今は無視。
「さっきあんたが言った“このチームで勝ちたい”って想いが、先輩達には無いと? それとも、その“チーム”には自分は関係ないと? ふざけるのも大概にしなよ」
「じゃあどうしろって言うの!? どうしようもな――っ!?」
再び涙を流し始めた遥香をギュッと抱き締め、ポンポンとあやすように背中を叩いて落ち着かせながら、私はゆっくりと口を開いた。
「簡単だよ――ちょっとは“友達”に頼ってみな? みんなが納得できる結末になるように、私が知恵貸してあげるから」
「真悠菜……うん……ありがと。 ……お願いします」
か細い声でそう言った遥香の顔には、ほんの少しだけ、笑顔が戻ってきていた。
遥香に関しては、とりあえず今はこれで良いだろう。
後は、まずしっかり情報を収集し直して、その後精査をして……解決のための策を練るだけだ。
あ、松永さんにも話聞きたいなぁ。
それと、先輩にはキッチリ協力して貰わないとだし、早めに打診しとかなきゃ。
さぁて、大見得切っちゃったからには、全力でみんなが納得行く結末を目指そうか。