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第10話 新しい友達

「……重ぃ……」


 お菓子が詰まった袋をサンタのように担ぎながら、自分の部屋へと向かっていた私は、廊下の奥にある自分の部屋の前に座り込んでいる人影を見つけて足を止めた。


 誰だろ――遥香、ではなさそうだけど……


 そのままゆっくりと近づいて行くと、廊下の窓から差し込む月明かりに照らされた人物の横顔がしっかり確認できた。



 それは――



「……あれ? 篠山さん?」

「――っ!?」


 私が声をかけると、篠山さんはビクッと肩を揺らした後、ゆっくりと立ち上がる。


「どしたの? こんなとこで」

「あ――えっと……白崎に、話があって……」

「そっか。 ちょっと待ってて……重いから、先に下ろさせて」


 ソワソワと視線を泳がせる篠山さんに断りをいれてから部屋の鍵を開けると、担いでいたお菓子一杯の袋を部屋の奥に下ろした。


 チラッと同部屋の子のベッドを見るが、空なので誰かの部屋にでも遊びに行ってるんだろう。


「お待たせ~。 同部屋の子居ないみたいだから、入って」

「あ、うん……先輩のとこ行くって、言ってた。 中で待ってていいって言われたんだけど、さすがに気が引けて……。 お邪魔します」


 なるほど、あの子がまだいる間に来てたのか。


 まぁ確かに、主が誰も居ない部屋で、1人ポツンと待ってるのは気まずいよね。


「そ……それにしても……凄い量のお菓子だね」

「あ~、みんなして、お礼にって私にお菓子くれるもんだから、食べきれなくてさ。 篠山さんも好きなのあったら持ってっていいよ。 できるだけゴソッと貰ってくれたりしたら、めっちゃ嬉しい」


 あいたた……と肩を回しながら言うと「あ~、相談の依頼料なんだ……」とひきつった顔で呟かれた。


 ()せぬ――なぜ私が引かれるのか。


 釈然としないが、とりあえずデスク下のミニ冷蔵庫からパック麦茶を出して、篠山さんに差し出してみると「冷蔵庫まで!?」と、何故かドン引きされた気がするが、「ほら、はよ飲め」と言わんばかりに突き付けてると、卒業証書でも受けとるのか?と言いたいくらい恭しく両手で受けとると、ストローを刺してゆっくり飲み始めた。


「…………」

「…………」


 そのまま、お互いに無言でお茶をちびちび飲むこと数分。


 私の紙パックが、中身はもう無いと言う事を主張するために、ズズッと鳴った音を合図にしたかのように、篠山さんが静かに口を開いた。


「……部長達に、聞いた。 部長から相談されて、白崎がいろいろしてくれてたって……。 迷惑かけて、ごめん」

「ん~、別に迷惑はかけられてないんだけどね。 遥香達も困惑はしてても、実害はないって言ってたし」


 そう。


 篠山さんは、いろんな所で噂話をしただけで、直接的な嫌がらせをしていたわけではない。


 噂話に関しても、さっちゃんが遥香にキツく当たるのを見ていて、“嫌ってる”と思ったのだそうだ。


「私さ、昔から体が丈夫で、下手な男子よりガタイよかったから、『男女(おとこおんな)』とか『メスゴリラ』とか言われてイジメられてたせいで、ほとんど友達いなくて……」

「…………」

 

 篠山さんが語り始めたのは、知らなかった事であると同時に、“予想”していた事でもある。


 見た目の雰囲気や立ち振舞いとは裏腹に、ずいぶん内気と言うか……人付き合いが苦手そうな印象を受けていたのだ。


「だから、各務が部長になって『松永がいるからお前はもう要らない』って言われたらどうしようって……そればっかり考えちゃって……怖くなって……でも、イジメられてたから、なるべく自分がされて嫌な事はしないようにって思ってたのに、結局みんなに迷惑かけて……私、バカだから――」

「……それは、違うんじゃないかな?」

「――え?」


 俯き涙ぐみながら話す篠山さんの言葉を遮った私の言葉に、彼女は顔を上げてこちらを見る。


「だって、自分の望む結果を得るために頭を捻って、行動を起こす、なんて当たり前の事だし。 そうやって得た結果が、他の誰かにとって望まないモノだなんて事はザラにある」

「――白崎?」


 いろんな相談を受けてたら、嫌でも思い知るのだ。


 相容れない相談を、同時にされる事だってある。


 恋愛相談なんて最たるモノだ。


 同じ人を好きになった2人から、別々に相談なんか受けた日には、一晩中頭を抱える羽目になったりもする。


「それでも篠山さんは、なるべく他者を傷付けないように考えながら、その中で自分の望みを叶えようとした。 そんなの、中々出来ないよ? 誰だってまずは自分が一番大事だもん」

「……で、でも! 私が間違った噂流したせいで――」


 あー、なるほど、“そこ”なのか……


 自分が“間違ったせい”で、誰かを傷付けた、と思っちゃってるんだ。


「ねぇ、篠山さん。 今回篠山さんが流した噂話さ、別に“嘘”はなかったんだよ?」

「――え? でも……」


 そう、少しだけ“勘違い”はあったけど“嘘”はなかったんだよね。


「さっちゃんが遥香にキツく当たってたのも本当だし、今は誤解が解けて仲良くなってるけど、遥香自身、さっちゃんに嫌われてると思ってたんだよ。 そんな様子を見てたから、さっちゃんの本心はみんな(・・・)が勘違いしてた。 だからこそ、篠山さんが流した噂の信憑性が増してしまった」

「でも、嘘は嘘だったし……」

「それは違う。 “嘘”と“勘違い”は別物だよ。 悪意の有無は別として、“嘘”は相手を騙すためにつくもの。 だけど勘違いは、少なくとも自分はそれが真実だと信じてたんだ。 だから“嘘”じゃない」


 もう一つの、遥香よりさっちゃんに部長になって欲しい、って話もそうだ。


 誰かを貶めるためではなく、篠山さん自身がそうなって欲しいと思っていた、願望を口にしただけ。


 それが、もう一つの噂と組合わさった事で、まるでさっちゃんが遥香を潰そうとしていると錯覚してしまったのだ。


「今回は、いろんな偶然が重なって、篠山さんの勘違いが現実味を帯びてしまった結果引き起こった……まぁ、事故みたいなものかな」

「――事故……」

「そ~そ~、不慮の事故。 しかも何と、奇跡的に不幸になった人(怪我人)ゼロ! それなら、『ごめんね』の一言で万事解決、ってなもんよ」


 ちょっと肩がぶつかったくらいで、それから何日も『あの時ぶつかっちゃったから』なんて言われ続けても困る。


 それを伝えたら、どうやら想像したらしい……ちょっと嫌そうな顔で『確かに、困るかも』と頷いてくれた。


「なんにせよ、今度からは思ってる事は誰かに話してみるといいんじゃない? ほら、さっちゃんとかさ、あれだけ本音をぶつけられたらもう親友でしょ」

「え? ……いや、でも――」


 急に変わるのって、難しいとは思う。


 でも、仲間を大事にできる篠山さんなら、ほんの少しのキッカケで変われるとも思うのだ。



 だから――



 ちょっとだけ、イタズラすることにした。


「部活の仲間には、最初は中々相談しにくいかも知れないけど、そんな時は、せっかく人の相談に乗り馴れた友達がここにいるんだから、今日みたいにいつでも来なよ」

「……友、達? 白崎と、私が……?」


 胸を張ってドヤ顔したら、めちゃくちゃ困惑された件について……


 あれ?


 なんか予想より驚かれたせいで、思ったより私へのダメージもでかいぞ?


「あれ? ……えっと、私は篠山さんとはもう友達のつもりだったんだけど……わ……私の、片想いだったって……事?」

「え、あ、いや、その、そう言う訳じゃ――」


 ワナワナと震えながら、絶望の表情を浮かべる渾身の演技に、篠山さんがちょっと泣きそうになりながら慌て始める。


 さすがにこれ以上は可哀想だし、ちゃっちゃと仕上げだ。


「さすがに片想いで友達面したのは恥ずかしすぎる……! ――だから、もしよかったら、正式に友達になってください」

「あ――えっと……その……」


 さぁ、どうかな?


 イジメに遭ってた子は、他人との距離感を掴むのが苦手な子が多い。


 だから、こちらの方から一歩踏み出してあげた方がいい時もあるのだ。


 告白した時の『付き合ってください!』ばりに深々と頭を下げながら右手を差し出していると、おっかなびっくりと言った感じで、両手でそっと包むように握られる。


「私の方こそ……友達に、なってください」

「…………よろこんで!」


 この時を境に、私には仲良しの友達がまた1人増える事になった。


 不器用で、人付き合いが少し苦手で――


 頑張り屋で、周りの人を大切にする――


 そんな、とっても心の優しい友達が――

これにてこのお話は一旦完結となります。

白崎さんにまた別の“相談事”がくれば、加筆もしくはシリーズ化していきたいと思います。

その際はまたよろしくお願いいたします(* ´ ▽ ` *)


今後の励みになりますので、少しでも面白いなって思っていただけたら、感想や☆での応援を頂けると、とっても嬉しいです(*´▽`*)ノ


最後までお付き合いいただき、ありがとうございましたm(_ _)m


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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)とっても楽しんで読まさせて頂きました。この作品って「あらすじ」のエンタメ感がすごいあるんですよね。ここが凄く魅力的。本編はそこをさらに具体的に掘り起こしているというかね……まぁ白崎さ…
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