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変わらない日々

作者: スロア

晴れて中学校を卒業し、高校入学に向けての準備に取り掛かっている時。

プルルルル。

「もしもしー」

「もしもし。彰、なんか用?」

「なぁ、千隼、花見行こうぜ。もうすぐ桜祭りがあるだろ?」

「別にいいけど、桜が咲くのはまだ先でしょ?」

「いいんだよ。花見なんて遊ぶための理由だけなんだから。」

「まぁいいけど。で他に誰誘うの?」

「幸太はもう誘った」

「おっけー。でいつ行くの?」

「明後日空いてる?空いてるならそこで」

「空いてるよ」

「じゃあ、また。金とゲーム機忘れんなよ」

「はいはい」

まったく、花ぐらいちゃんと見ればいいのに。と一人ごちる。もっとも千隼自身も花を愛でる感性などは持ち合わせていないのだが。

「さて、予定もできたことだし、久々に外に出るか」



もうじき太陽が空を昇り切ろうかという頃。千隼は集合場所へと自転車を走らせる。

(やっぱまだ、全然咲いてないな。せっかく行くならちょっとくらい見たかったけど)

道に植えられた桜の木を見上げながら思う。

駐輪場に自転車を止め、集合場所へ歩いていると彰と幸太の姿が見えてきた。幸太は人懐っこい笑みを浮かべ手を振っている。

「千隼ー。おはようさん」

「この時間はおはようなの?」

「だってこんにちはってなんかよそよそしくない?」

「まぁ言いたいことは分かる」

「おはようでもこんにちはでもいいから、早く花を見に行こうぜ」

「彰は花を見る気なんてないでしょ。」

呆れたようなため息を吐きながら返す。

「それに桜もまだ咲いてないしねー」

「そんなことはいいだろ。はい、行くぞ」

「「はーい」」

三人で連れ立って、歩いていく。

「にしてもなんで突然花見?」

幸太が、彰に問いかける。

「春休みに入ってから、千隼がずっと家から出たくない、って言ってあんま遊べてなかっただろ?高校に入ったら忙しくなるだろうし、ここで遊んでおかないとって思ってよ」

「あー確かに」

彰がこちらを見ながら答える。

「その節はどうも」

長期休みの前半は気力が削げ落ちて、何もしなくなる。それが千隼の長期休みである。


そんなこんな話していると花見会場に着いた。

幸太が辺りを見回す。

「やっぱあんまり人いないね」

「まぁ、人はいないほうが好都合だけどね」

「そんな千隼くんのためにこの時期を選んであげたのだよ」

彰が胸を張って言う。

「嘘つけ。自分が遊びたかっただけでしょ」

「そういう理由もあるかもしれない」

やれやれといった様子で、千隼が肩をすくめる。

「あ!」

幸太が遠くのほうを指さしている。

「あそこ屋台あるよ。行こ!」

「幸太はほんと、食べるの好きだよな」

幸太と彰が屋台を目指して走っていく。

「待って、二人ともなんで走ってくの。おーい」


「いやぁ、遊んだ遊んだ」

「ひ、久々にこんなに動いた」

「千隼はもっと動けよ」

「こんだけ動けば十分でしょ」

千隼は肩で息をしながら言い返す。なんせ気づけばもう夜である。春休みに入ってから怠惰を極めていた千隼にとってはそれなりの重労働だ。

「でも三人でこんなに遊んだのも久々だよね」

「まぁ、受験もあったしね」

「なぁ、三人とも別の高校行くんだよな」

彰が唐突に不安そうに言う。

「高校に行ったら、一緒にいる時間も減るよな」

春の風に髪がなびく。見れば、桜のつぼみも揺れている。

「なに、彰。心配してんの?」

「悪いかよ」

少しからかってやると、そっぽを向いて口をとがらせた。

「彰がこんな素直になるなんて珍しいね」

幸太が感心したように言った。

「なんか不安になってきてさ。遊ぶこともなくなって、自然消滅みたいになるんじゃないかって」

二人で顔を見合わせて、こらえていた笑いを吐き出す。

「な、なんだよ」

「彰、それ小学校の時も言ってたよ。二人と離れるの嫌だーって、泣き出してさ」

「結局一年の時は同じクラスだったし、クラス数がちょっと増えるくらいだから、何の心配もいらなかったけどね」

「そ、そうだったか?」

彰が顔を赤らめる。

「で、でもさ。今回はそれと違ってちゃんと離れちゃうだろ?」

彰の言葉に幸太が笑いながら返す。

「そうだけど、またこうやって誘って遊べばいいんだよ。今の世の中はスマホってものがあるんだから」

「それは確かに。なんか大丈夫な気がしてきた」

彰の単純さに笑いながら、昔のことを思い出す。

「ははっ、三年前もこんな感じだったよね。幸太が彰を諭してさ」

「懐かしいねー。彰もこんなに大きくなって」

「なんで二人に親戚みたいなこと言われるんだよ。あと幸太は俺より年下だろ」

彰が口をとがらせ、気恥ずかしそうにする。

三人で笑い合い、他愛のない会話をしている間に時間が過ぎていく。空が暗くなってきたあたりで、よっこいしょ、と立ち上がる。

「そろそろ帰ろっか」

「そうだね。高校に行っても遊べるしね」

「幸太うるさい」

「でもさ、大人になってもこうやって話せたらいいよね」

「そうだね。あ、あそこ見て。桜咲いてる」

幸太の指さすほうを見ると、桜が一つ、程よい春の風に揺られながら精一杯咲いている。

「お、ほんとだ。せっかくだから写真撮ってこうぜ」

三人で桜の前に立ち、彰がスマホのカメラを構える。

「撮るぞー。はいチーズ」



「おっ、懐かしー。これ中三の時のだよな」

「どれどれ?あっ、ほんとだ」

「彰は変わらないねー。今もまだ泣き虫なまんま」」

「うっせ。そういう千隼も出不精なのは変わんないな」

「二人とももう成人でしょ。くだらない言い合いしないの。子供っぽいのはどっちもだから」

「ごめんごめん。まだ19の幸太に配慮ができてなかったね」

「未成年の幸太はまだ子供っぽくていいんだぞ?」

「はぁ、二人ともねぇ」

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