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0章 2人の暁

Cl/o/ver 暁の起点編


0章 2人の暁


「あんたが、菊原由美か?」

紙切れを片手に、ヘリオス施設を歩く女を止めた。

(なんつーか。冷たい顔だな)

それが、岬が抱いた第一印象。

敵意はないことをいつもの調子で伝えると、由美はゆっくりと頷いた。

「俺は岬友章。…俺の事、聞いてる?」

「少し」

「そかー。これから、一緒にいることが多くなるから、よろしゅうな!」

フレンドリーにわらってみせるも、顔色一つかえやしないし、握手も交わそうともしない。

(なんやこいつ)

「ん?どうかしたか?」

「…睡眠は、もっと…。ちゃんととった方がいいですよ」

(なるほど)

睨んではいない。観察されていた。

そして、いとも簡単に正解(見抜かれていた)

「ちょっと話せんか?」

「…やめときます」

「釣れないなー。予定でもあるんか?」

「表門に、先輩を待ってる人がいるんで」

「先輩…。おれ?」

「はい。人に先輩の特徴そのまま聞いていた方がいたので」

「なるほど」

「それに、話は入学してからでもいいですか?先輩」

「友章でええで。あ、まて!うーん。(とも)にしよ。俺の事は今から友と呼ぶこと」

「…わかりました」

「あと、敬語禁止。友だからな!」

「…わかった」


昔から、時間軸は現在に戻る。

殺意の先。愛銃を構えるもう一人の岬。

最悪な状況は、なにひとつ変わっていない。

思い出していたのは、走馬灯か、それとも、逃避行か。

(鏡なんてあったか?俺は何を見ているんだ?あんな殺意を出せはしない。あれは、俺だけど、俺じゃない)

「嘘にみえるなら、銃口を下ろせばいいだろ」

(あぁ、俺の声で喋りやがった)

銃口は、完全に眉間の真中。

「一歩でも動いてみろよ。俺は、その瞬間を逃がすわけがない。お前もそうだろう」

「…」

「なんで俺がいるのか、聞いていいか?」

「答えられる範囲ならええで」

「どっかのスパイが、なりかわ…」

「No」

「食い気味かよ。じゃあ、お前は幻か?実態を持ってるか?」

「両方」

「わからん」

笑うわけでもなく、表情をかえない。ただ、自分こそが本物という揺るがないモノだけが頼り。

「大丈夫、大丈夫。楽にしてやるよ」

あ。終わった。

避けることももう間に合わない。膝をついた衝撃を最後に痛みは感じない。

天井を仰いで、床に転がる身体。溢れる後悔がまざった海が溢れ出す。

基礎中の基礎を欠いた。

それがこんなに簡単に死に繋がる。

(死ぬときに、きれいに意識ってきれるわけじゃないのな。それだけは聞いた通りだわ 俺が顔を覗き込んでくる。もう何言ってるのか。聞こえねえ)

「畜生。なんでこんな時に、居ぇんだよ。―菊姉」


――


「これが、今起きているっていう証拠がない」

「見に行ってもいいけど?」

「今から向かっても、間に合うの?もう死んでるようだけど」

「どうだろう?」

少女がねっとりと笑うのをみて、悪意と気味悪さだけを感じる。

岬を襲ったのは、誰か。

細かな特殊工作をできる敵対勢力は、いないはずだとすれば、どう考えたらいいのだろうと考える。

「さっきの答えもう一回ちょうだい?」

「見せられたって変わらないよ」

ため息と、由美の揺るがない決意。

「死のリスクを人質にとったとしても。好きにしたらいい。私はそんなことじゃ揺るがない。生憎そういうのには慣れてる」

少女の顔色は暗くなる。笑える。

「友のほかに誰が巻き込まれるか知ったこっちゃないし。安全だっていえるものも提示してこないじゃない。そういう手段は詐欺」

足元を氷が覆い。体の自由を奪っていく。

(結局実力行使じゃない)

「結論は変わらないよ」

「じゃあ、さっき言った通りにするだけ。もし、気分が変わったら、いつでも話をきくから」

「ほら、結局選択は1つだけじゃない。あなたは盗み見て、なにがしたいの?」

「人聞き悪い」

パキパキという氷が張っていく音は、すぐそばまできた。もうすぐこの口も塞がれる。

「あんたが言うことは、この世ではまかり通らない。忘れたの?―」

遅かったか、もう氷の中だ。

不思議と寒さというものはない。

意識は遠くなっていくけれど、息はできる。

少女後ろにあるのは、陽の光。

私は、曲げない。負けない。譲れない。

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