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独白。  作者: 周写楽
7/10

 とある休日にふと、学生の頃によくドライブに出かけていたことを思い出し、彼女を助手席に乗せて車を走らせていました。二人で雑談をしながら、気の向くままに夜景を見に行ったり、海辺に立ち寄ったり。基本的には目的地を決めずに過ごしていました。


 ドライブデートだとはいえ車内から出ることもなく、雑談も私が一方的に話しかけているのを彼女はただ静かに聞いてくれているだけでした。

それに、決まって真夜中に出かけるものですから、たいてい朝日が昇るのと同時に帰ることも少なくありません。

そんな日は助手席でうつらうつらと舟を漕いでいる彼女の横顔を眺めるのが密かな楽しみでした。


 ある時、せっかく二人で出かけているのだからと、思い切って彼女を背負って月明かりに照らされて淡く光る波打ち際を歩いてみることにしたのです。


 月明かりがあるとはいえ、先の方は暗く、波の音以外は全くの静寂が広がっていました。背中越しに伝わる彼女の体温が緊張と興奮で火照った私には心地よく、ただこの時間が永遠に続けばいいと思えるほどに幸せな時間でした。


 それからというもの、デートに立ち寄った先で彼女を背負って歩くことが増えていきました。ですが、傍から見ると背負っている様子が少し不自然に見えるような気がしたのです。


それに彼女が時折、恥ずかしそうに背中を小突いてくるので、どうにか自然な関係に見える方法はないかと思い、一緒に自然に見えそうな方法を考えていました。


そこで、試しに車椅子を使ってみることにしました。


これなら車椅子を使っている女性を介助しているように見えて、比較的自然なカップルに見えるのではないかと思ったのです。


 最初は、申し訳なさそうで気恥ずかしそうにしていた彼女も、数日と使っているうちに慣れてきたようでした。

(結局、真夜中に出かけているので誰かとすれ違うこともなく、人目を気にする必要はありませんでした。)


 それから季節は過ぎて春も近づいてきた頃のことです。春を別れの季節だとよく言ったもので、私のもとにもそれはやってきました。


 自室にいると海のような匂い。というより、少し甘い発酵臭のような何とも言えない匂いがしてきたのです。初めは花の匂いかと思っていたのですが、これがいわゆる死臭だということは後で知りました。


 それ以来、少しずつ彼女の身体が朽ち始めてきたのです。腕に残っていた大きな傷口から、徐々に浅黒く、熟れ過ぎた果物のように崩れていきました。


 私は、日を増すごとに少しずつ彼女の身体を蝕むように広がっていくそれに対して何もできず、漠然と終わりが近づいてきているような焦燥感に駆られることしかできなかったのです。

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