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独白。  作者: 周写楽
2/10

 翌日、私は鈍い頭痛に目が覚めました。


 築35年、古いアパートの1DK。

家賃の安さと日当たりの良さだけが自慢の狭苦しい私の自室がそこには広がっていました。

カーテンの隙間からは冬の穏やかな日差しが差し込み、手元のスマートフォンには日曜日の昼過ぎと表示されていたと思います。


 いつの間にか床に突っ伏すように眠ってしまっていたようで、身体の節々に痛みを感じながら、ぼんやりと霞がかかった頭を抱え起き上がろうとしたその時です。


目の前に昨晩と同じ姿勢で彼女が座っていました。


 彼女の伏せた目。


まるで水底のようで、吸い込まれるような暗く沈んだ黒い瞳と目があったのです。


 滑るように車窓を流れていった雨で歪んだ淡く光る街並みと人影。

 彼女を抱えた時の重さと感触。

 雨の匂いに微かに混ざった生臭い鉄の匂い。


 昨晩の出来事が走馬灯のように脳裏で激しく明滅し、罪悪感が腹の底からこみ上げ、気が付くと私はトイレに駆け込んでいました。

便座に両手をついて頭を突っ込み、ゲェゲェと嗚咽交じりに喉を鳴らしながら、若干の固形物が残る生温い胃液をボタボタと音を立てながら吐いていました。


 それでも気分は良くならず、息を整える暇もありません。

吐しゃ物と涙で顔をくしゃくしゃに歪ませながら、胃が空になるまで吐き続け、自分の身体が自分のモノではない。

そう感じていた時、扉の向こうからスマホの呼び出し音が響いてきました。


 あの妙に耳に付く無機質でリズミカルな音に我に返り、おぼつかない足取りで急かされるようにトイレから何とか這い出ました。


 画面に表示された見慣れない番号に誰からかと思い、警戒しながら手を伸ばした時にふと、それが警察からの着信ではないかと思ったのです。


昨晩の事故が誰かに通報されて、既に足が付いてしまったのかもしれない。

だとすればこの電話に出ることは危険なのではないか、と不安が深まるばかりで、遠巻きに見つめることしかできませんでした。


 しばらくして、先方もあきらめたのでしょう。

不在着信の通知を残して何事もなかったかのように静かになりました。

それから5分程経ってからでしょうか、耳が痛くなるほどの静寂を破るようにまた呼び出し音が鳴り始めたのです。


 蛇に睨まれた蛙のように全身がこわばり、息をすることさえ忘れるほどでした。

しかし、二度目の着信ともなると無視をするわけにはいきません。


 私は二度三度と呼吸を整え、意を決して緊張で震える手を抑えながら、スマホに耳を当てました。

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