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独白。  作者: 周写楽
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 彼女との出会いは、至極単純な事故でした。


 その日は、長年付き合っていた恋人に「あなたと一緒にいてもつまらない」とありきたりな理由で一方的に別れを告げられ、胸中に空いてしまった穴を埋めるように柄にもなく酒をあおり、季節外れの大雨にハンドルを取られながら半ば自暴自棄気味に帰路についていました。


 何もかもがどうでもよく、いっそすべて忘れてしまおうと濡れて灰色に(かす)んだコンクリートに二十四時間営業の電光看板がぼんやりと光る街並みとより一層激しさを増す雨音に身を委ねて、目的もなくただひたすら車を走らせていました。


 時計もとうに零時を回った深夜、人影はおろかこの大雨に通る車は一台もなく。誰もいない道を走っているうちに先のやけ酒も手伝い、気分は高揚し、それに比例するように段々とスピードは上昇していき法定速度というものは優に超えていました。


 適当にラジオでも聞きながら走ろうと思いカーオーディオに手を伸ばそうとしたその時、大雨で歪む視界の中ヘッドライトに照らされた人影が。

私は咄嗟にブレーキを思い切り踏み込みましたがその判断も遅く、耳をつんざく鋭いブレーキ音と鈍い衝突音がむなしく響き渡りました。


人をはねてしまった。


 ただそれだけで頭がいっぱいでした。

しかし、人をはねてしまった以上は安否の確認をしなければならないとハッとし、急いで車から降りました。


 その間、小動物か何かを人影と見間違えてしまっただけ。あるいは怪談にありがちな事故で死んでしまった怨念や幽霊の類だった。などと単なる夢であってほしいと願っていました。ですがそんな願望を(あざ)笑うように一人の少女が横たわっていたのです。


 私はあわてて少女に駆け寄り、呼吸の有無、脈拍を確かめましたがすでに事切れているようでした。

人をはねてしまっただけでなく、殺してしまった。ただの平々凡々な人間から殺人犯になってしまった。そんな眼前に広がった紛れもない事実に私はとても動揺していました。


 その時、私は気が触れてしまっていたのでしょうか。もしくはそれ以前から既におかしかったのかもしれません。その場に私しかいないことを確認した後、あろうことか目の前の死体を急いで後部座席に積み込み、その場から逃げるように家路を急ぎました。


 気が付けばいつもと変わらない自室に死体を抱えて立っていました。罪悪感からか、死体とはいえ濡れたままにしておくことがしのびなく、身体を一通り拭きあげ、緊張と寒さでこわばった体を温めようとシャワーを浴びようと思い、死体は窓際に寄りかからせておくことにしました。


 浴室を出ると、シャワーを浴びている間に雨は止んでいたようでカーテンの隙間から差し込む月光はスポットライトのように死体を淡く照らしていました。


 月光に照らされたつややかな長い黒髪と磁器のように透き通った白く柔い肌、そしてまだ生きているのではないかと錯覚させるほどに鮮やかな唇。

まるで西洋人形(ビスクドール)を思わせる華奢な体躯に残る紅く生々しい傷。その全てに私は心を奪われてしまいました。


 これは死体性愛(ネクロフィリア)などと無粋な言葉で言い表せるようなものではありません。彼女への真っ当な恋情なのです。

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