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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
三章 バーデン家の企みを暴く
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25.カサンドラ様は王都へ

 カサンドラ様とエクムント様が席を離れて、入れ替わりにノルベルト殿下とハインリヒ殿下とクリスタちゃんが椅子に座る。クリスタちゃんはテーブルに飾られたダリアの花をうっとりと見つめていた。


「ピンクのダリアはわたくしがもらってもいいのかしら?」

「エクムント様はそのおつもりだと思いますよ」

「嬉しいです。お姉様のお誕生日とわたくしのお誕生日、どちらもプレゼントをもらえるなんて」


 エクムント様だけでなく、わたくしの両親もわたくしのお誕生日とクリスタちゃんのお誕生日に両方にプレゼントをくださっていた。わたくしももう八歳なのだから、クリスタちゃんのお誕生日に不公平だと感じることはないはずなのに、もらえるとなると嬉しいのだから、わたくしも現金である。


 幾重にも重なるダリアの花を見て、ハインリヒ殿下はクリスタちゃんに問いかけている。


「クリスタ嬢はダリアの花がお好きですか?」

「このお花は特別なのです。エクムント様が……あ、いけない、内緒でした。このお話は聞かなかったことにしてください、ハインリヒ殿下」

「内緒とは気になりますね」

「お姉様とお約束したのです」


 言いかけたが必死に内緒にしようとするクリスタちゃんにわたくしは微笑んでしまう。六歳なりにクリスタちゃんも頑張っていた。


「ハインリヒ、女性の秘密を探るのは紳士じゃないよ。ディッペル公爵夫人がお子を身籠られたこと、本当におめでとうございます」

「わたくし、お姉様になれるのです」

「わたくしにも実の弟妹ができます。弟であっても妹であっても可愛がる自信はあります」

「無事に生まれてくれば妹でも弟でも構わないですわ」

「そうですね、クリスタ」


 ノルベルト殿下が話題を変えてくださったので、わたくしはそちらの方に乗ることにした。

 ハインリヒ殿下はミルクがたっぷりと入ったミルクティーを、わたくしとクリスタちゃんとノルベルト殿下はミルクが普通の量のミルクティーを給仕に頼んで持ってきてもらう。

 ミルクティーを飲みながらノルベルト殿下とハインリヒ殿下とお話をする。


「ハインリヒはクリスタ嬢が下さった花束を大事にしていて、部屋に飾っているのですよ」

「折り紙の花束ならば枯れませんから、ずっと飾っていられます」

「そんなに喜んでくださって嬉しいです」


 頬を押さえて目を伏せるクリスタちゃんは幼いながらに恋する乙女だ。

 学園で出会ったクリスタちゃんにハインリヒ殿下が好きになるのが原作の流れだが、それより先にクリスタちゃんとハインリヒ殿下の婚約も考えられそうだ。

 ハインリヒ殿下の婚約者になるためには家柄だけではいけない。クリスタちゃんが王家に入れる気品と教養を身に着け、王家の利益にならなければならなかった。


「わたくし、刺繍を始めますの。お姉様と一緒なのですよ」

「辺境伯領に行ってきましたが、辺境伯領の市で売られていた糸の種類の多かったこと。赤一色でも、オレンジに近いものから紫に近いものまで何十種類とあったのです」

「辺境伯領には僕は行ったことがありません」

「私も行ったことがありません。カサンドラ様のお屋敷にも行ってみたいですね」


 お茶を飲みながら話が弾む。


「辺境伯領ではわたくしはお人形を買ってもらいました。マリーと名前を付けて、妹として可愛がっています」

「わたくしは女の子の人形でしたが、ジャンと名前を付けて、男の子の格好をさせて男の子として遊ぼうと思っています」

「辺境伯領の人形は肌が褐色なのですか?」

「いえ、白い肌の人形もありました」

「私たちと同じ肌の色の人形もあるのですね」


 辺境伯領の領民は皆、褐色の肌をしていた。カサンドラ様もパウリーネ先生も褐色の肌だ。キルヒマン侯爵夫人が辺境伯領の出身のエクムント様も褐色の肌だった。


 わたくしもエクムント様と結婚したら褐色の肌の子どもを産むのだろうか。

 空想するだけで幸せな気分になってくる。

 エクムント様にそっくりの男の子も可愛いだろうし、キルヒマン侯爵夫人のような女の子も可愛いだろう。

 考えていると、お茶の時間も終わりに近付いて来ていた。


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下に挨拶をしてわたくしは両親の元に小走りに駆けて行く。

 両親はカサンドラ様と話をしていたようだった。


「エクムント様の教育はしっかりと私たちで請け負います」

「立派な紳士にして差し上げます」

「私は見本にならないから、ディッペル公爵夫妻に期待しているのですよ。エクムントがディッペル家で学んだことは必ずや辺境伯領で役に立つことでしょう」

「お任せください」


 話をしている両親とカサンドラ様に、クリスタちゃんが飛び付いていく。


「カサンドラ様、今日はお姉様のお誕生日に来て下さってありがとうございました」

「私で喜んでもらえるのならばいつでも……というわけにはいかないのだよね。辺境伯領はディッペル公爵領から遠いし、海賊騒ぎも起きている」

「海賊が出ているのですか?」


 カサンドラ様の言葉にわたくしは両手をぎゅっと握り締めた。オルヒデー帝国内は平和なのだが、カサンドラ様の統治する辺境伯領は海賊の危機に晒されている。


「大規模な争いにはなっていませんが、商業船や漁師の船を守るために海軍が出ているんだ。海軍の船を見ると海賊は撤退していくのだけれどね」


 その海軍を指揮しているのがカサンドラ様ということになるのだろう。そういう状況では長くは領地を空けられない。


「どの国の海賊かは分かっているので、国王陛下がその国に働き掛けてくれれば、共同で海賊退治をすることもできるのだが」


 辺境伯領を襲っている海賊の中には、国が公然の秘密として抱え込んでいる海賊もいるのだ。その国から働きかけてもらえば、共同の海賊退治をしたという名目で海賊を引き上げさせてもらうこともできないわけではない。


「国王陛下にカサンドラ様が依頼しに行くおつもりですか?」

「エリザベート嬢の誕生日のお茶会に出席したついでに、王都まで足を伸ばそうとは思っている」


 カサンドラ様の顔を見てから、わたくしは振り向いてクリスタちゃんを追い駆けて来ていたハインリヒ殿下とノルベルト殿下の顔を見た。


「ハインリヒ殿下、ノルベルト殿下、辺境伯領は海賊の危機に晒されています。国王陛下にお口添えをお願いできますか?」

「もちろん、させていただきます」

「辺境伯領のためでしたら」


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下からいい返事を引き出すと、カサンドラ様が微笑んでいるのが分かる。


「どうか、お願いいたします、両殿下」

「はい、お任せください」

「父上に話しをしてみましょう」


 このお茶会がカサンドラ様にとっても利益のあるものであればいい。

 わたくしはそう思っていた。


 お茶会が終わるとハインリヒ殿下とノルベルト殿下は国王陛下の別荘に、カサンドラ様は王都へ、他の貴族たちはそれぞれの領地へと散っていく。

 馬車に乗り込んだハインリヒ殿下とノルベルト殿下にクリスタちゃんが手を振っていた。


「わたくしのお誕生日にも来てくださいませ」

「喜んで参ります」

「お誕生日プレゼントを考えないといけませんね」

「ハインリヒ、そろそろ髪飾りはやめた方がいいかもしれないよ」

「え!? では何を!?」


 髪飾りはクリスタちゃんはたくさん持っている。そろそろ違うものがいいかもしれないというノルベルト殿下の言葉もその通りだとわたくしは思った。


「何かお誕生日のプレゼントに相応しいものを考えておきます」

「プレゼントなどいいのです。来てくださるだけで嬉しいのです」

「クリスタ嬢は本当に健気で可愛らしい」


 両手を組んでハインリヒ殿下を見上げるクリスタちゃんに、ハインリヒ殿下は鼻の下が伸びている気がした。

 これもクリスタちゃんが可愛いのだから仕方がないだろう。

 わたくしの妹のクリスタちゃんは皇太子殿下に愛されるくらい可愛いのだ。


「本日は本当にありがとうございました」


 わたくしも頭を下げて挨拶をした。


 カサンドラ様の馬車が出る前にわたくしとクリスタちゃんが挨拶に行くと、エクムント様も来ていた。


「義母上、お気を付けて」

「エクムント、無理に母と呼ぶ必要はない。カサンドラで構わないよ」

「それでは、カサンドラ様、お気を付けて王都に行ってらっしゃいませ」


 胸に手を当てて一礼するエクムント様に見惚れてしまう。


「カサンドラ様、本日はお越しくださりありがとうございました」

「わたくしのお誕生日は春です。春にもぜひお越しくださいませ」


 挨拶をするわたくしとクリスタちゃんにカサンドラ様が頭を下げる。


「本日はお招きいただきありがとうございました。エリザベート嬢の健やかな成長を祈っています」


 惚れ惚れするほどの美しい一礼にわたくしは胸がドキドキしてしまった。エクムント様のお母上のキルヒマン侯爵夫人の従姉というだけあって、カサンドラ様はエクムント様にもどことなく似ている。


 カサンドラ様の馬車が見えなくなるまでわたくしは見送っていた。

読んでいただきありがとうございました。

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