23.お誕生日プレゼントは
お屋敷に帰るとわたくしのお誕生日が近付いてきていた。
わたくしはお誕生日にはぜひ呼んで欲しい方がいた。
「カサンドラ様をわたくしのお誕生日のお茶会に招待できませんか?」
辺境伯領に行ってわたくしはカサンドラ様にたくさんお世話になっていた。カサンドラ様と親しくもなれたのだし、お誕生日には来て欲しい。
わたくしの願いを両親は聞き届けてくれた。
「カサンドラ様がお忙しくなければお誘いしよう」
「パウリーネ先生を紹介してくださったし、わたくしもカサンドラ様に感謝しておりますわ」
カサンドラ様を招待するのに賛成してくれる両親にわたくしは感謝する。
お誕生日のお茶会のためには新しいドレスが作られた。
毎年毎年、わたくしは背が伸びて、体が大きくなっている。去年着たドレスはもう入らなくなっているのだ。
クリスタちゃんも大きくなっているのでドレスが入らない。
わたくしとクリスタちゃんは二人で採寸してもらった。
母もドレスを新調していた。
ウエストを締め付けない、胸で切り替えのあるドレスだ。
パウリーネ先生に指導されて、母はお腹周りがゆったりとしたドレスを着るようにしているのだ。
元々母はとても体付きが細い。ほっそりとしていて美しいのだが、妊娠するとお腹は大きくなるもので、体型が変わってしまうのも仕方がなかった。
体型が変わることにも母は前向きだった。
「赤ん坊が産みやすい体型になるのならば、以前のようにコルセットでウエストを絞めなくてもわたくしはいいのです」
美しい体型よりも赤ちゃんを大事にする母にわたくしは無事に赤ちゃんが産まれてくることを祈っていた。
カサンドラ様からはお誕生日のお茶会に参加してくださるという返事が来ていた。カサンドラ様が来るということは、その後継者のエクムント様もお茶会に同席していいのではないだろうか。
「お母様、お父様、カサンドラ様が来られるのですから、エクムントがお茶会に出てもいいでしょう?」
辺境伯領でのお茶会でエクムントはカサンドラ様の後継者だということが公にされていた。それまでも、キルヒマン侯爵家の次男か三男が辺境伯領を継ぐという噂はあったのだが、はっきりとエクムント様だと示されたのはあのときが初めてだ。
エクムント様は辺境伯のご子息ということになる。
キルヒマン家とヒンケル家とディッペル家の取り決めで、エクムント様は士官学校を卒業してから五年間はディッペル家で騎士として仕えて勉強してくるようになっているが、わたくしのお誕生日くらいは本来の身分で出席しても良いのではないだろうか。
「わたくしは構いませんわ。あなたは?」
「せっかくカサンドラ様が辺境伯領から出て来てくださるのだから、エクムントにもエリザベートの誕生日に参加してもらおうか」
エクムント様の養母になるカサンドラ様とエクムント様が一緒にお茶会に出席してくださる。それはわたくしにとってはとても嬉しいことだった。
「お姉様、エクムント様がお姉様のお誕生日のお茶会に出席されるの?」
「そのようです。わたくしもエクムント様とお呼びしていいのかしら」
「エクムント様と呼ばないと失礼ではないの?」
クリスタちゃんのいう通り、エクムント様は今は辺境伯家の後継者になったのだ。公の場にエクムント様が出てくるときには「様付け」しないと失礼だろう。
エクムント様はわたくしのことをどう呼んでくださるのだろう。
「エリザベート嬢」と呼ばれたい。
「お嬢様」だと子どもっぽい気もしているし、エクムント様と肩を並べることができない。
エクムント様はわたくしのことを、赤ん坊の頃から知っている妹くらいにしか思っていないのかもしれないが、わたくしはエクムント様が好きなのだ。エクムント様に妹以上の存在だと認識されたい。
「エクムント様は去年のお姉様のお誕生日には、ダリアの花をくださったのです。わたくしにもくださって。お姉様は紫色、わたくしはピンクだったのです」
「エクムントはエリザベートのこともクリスタのことも大事にしてくれているんだね」
「クリスタにまでダリアをくれたのですね。わたくしは知りませんでしたわ」
お誕生日の後に部屋に届いていたダリアの花。わたくしにとっては大事な思い出だったが、クリスタちゃんにバラされてしまった。
「クリスタ、その話は内緒だったのですよ」
「そうだったの? わたくし嬉しいことはみんなに言いたいから」
水色のお目目を丸くしているクリスタちゃんに、わたくしは眉を下げた。怒っているわけではないが、大事な秘密の思い出を両親に知られてしまって、わたくしは少し残念な気持ちだった。
わたくしの顔を見てクリスタちゃんが俯いてしまう。
「お姉様は嫌だったの? ごめんなさい」
「謝らなくていいですわ。少し残念だっただけです」
「お父様とお母様に内緒にできなかったの」
「クリスタは素直な子ですからね」
仕方がないとわたくしは諦めていた。
採寸が終わってお茶の時間になっていたが、わたくしはあまり軽食を食べなかった。お誕生日までにまた大きくなっては困るような気がしたのだ。
「このケーキとっても美味しいの。お姉様、食べないの?」
「今日は結構です」
「一口だけでも」
クリスタちゃんがわたくしに一口食べさせようとするのを、母が咳払いして止めようとしているがクリスタちゃんは気付いていない。
「クリスタ、お行儀が悪いですよ」
「あ、ごめんなさい、お姉様」
今日はクリスタちゃんにたくさん謝らせている気がする。
クリスタちゃんは悪くないのに。
クリスタちゃんはわたくしのことを心配してくれているだけなのだ。
「クリスタ、わたくしお誕生日が楽しみで、それまでにサイズが変わってしまうのが怖いのです」
「大きくなるのは喜ばしいことではないの?」
「ドレスが入らなくなるのは困りますわ」
心配事を口にすると両親が笑っているのが分かった。
「エリザベートが成長期といえども、そんなに急激に大きくならないよ」
「遠慮せずにお上がりなさい」
両親に言われてわたくしはお腹を押さえた。お腹は空腹を訴えてきゅるきゅると鳴いている。
母に言われてわたくしは取り皿にクリスタちゃんが勧めてくれたケーキや、サンドイッチを取り分けた。
やっとケーキやサンドイッチを食べられてわたくしはお腹がいっぱいになった。
お茶の時間の後に部屋に戻ると、クリスタちゃんがわたくしの部屋にやってきた。
「お姉様、お誕生日のプレゼントは決めたのですか?」
「わたくしのお誕生日のプレゼント……エクムント様がお誕生日のお茶会に出てくれるだけで幸せなのに」
「遠慮していてはいけませんわ、お姉様。欲しいものはちゃんと言わないと」
辺境伯領で刺繍用の糸も布も買ってもらったし、お人形も買ってもらった。カサンドラ様を招待することも、エクムント様がお茶会に参加することも許可してもらった。これ以上望んでいいものなのだろうか。
公爵家の娘としては何でも望んでいいのかもしれないが、わたくしは前世の記憶が朧げにある。前世ではこんな贅沢はしたことがなかった。
「欲しいもの……お人形の着せ替えは欲しいですね」
「お父様とお母様に頼んでみましょう」
辺境伯領で買った人形は、まだ着替えがなかった。
髪は結んでいるのだが、男の子の人形にしたいと思っているジャンはまだドレスを着ていた。
「わたくしも着替えが欲しいなぁ」
「クリスタちゃんも頼んでみるといいですよ」
「そうします」
クリスタちゃんはお誕生日プレゼントにわくわくしているようだ。
わたくしもお誕生日プレゼントに人形の着替えがもらえたらとても嬉しい。
わたくしとクリスタちゃんは夕食のときに両親にお願いすることに決めていた。
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