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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
三章 バーデン家の企みを暴く
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20.壊血病の治療法

 原作の『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』では、全く触れられなかった辺境伯、カサンドラ様だが、わたくしにとっては人生を懸けなければいけないほど大事な攻略相手である。

 カサンドラ様に気に入られるかどうかがエクムント様との恋にかかっているのだ。


 お屋敷に帰ると昼食を食べて、わたくしとクリスタちゃんは疲れて眠ってしまった。海で遊ぶのは全身運動なので相当体力を使ったようだ。

 エクムント様も疲れているはずだが、休むことなくわたくしとクリスタちゃんの警護のために廊下にいてくれた。


 お昼寝から目覚めると、わたくしとクリスタちゃんは着替えてお茶に招かれた。

 カサンドラ様のお屋敷の食堂で、クリスタちゃんとわたくしで並んで座る。母は部屋で休んでいて、父だけがお茶に参加していた。エクムント様も辺境伯領では、後継者という扱いなのでお茶に同席することができている。


 ケーキやプリンやムースを取り分けながら、わたくしはカサンドラ様のお茶にはサンドイッチがないことに気付いていた。

 お茶といえばサンドイッチなのだが、カサンドラ様はケーキや甘いものが好きだと言っていたので、サンドイッチがないだけではない気がする。


 食事でも思っていたのだが、辺境伯領はあまり野菜を食べていない気がするのだ。肉はあまり出てこないが、海鮮が多い気がする。


「辺境伯領はあまりお野菜は食べないのですか?」

「米は野菜ではないか」

「キュウリやトマトやニンジンやジャガイモやキャベツは……」

「暑さが激しくて、辺境伯領はあまり野菜が育たないのだ。育つのは米や芋類やトウモロコシくらいなのだ」


 それ以外の野菜は交易で得ていると聞いて、わたくしは港町の市で聞いたことを思い出していた。

 漁に出ている間は寄港しても、船の中で食事を摂るのが普通だったと漁師さんは言っていた。その中、船を抜け出して野菜を食べに行っていた漁師さんが壊血病に罹らなかったという事実。


「わたくし、港町の漁師さんに聞きましたの。壊血病にはお野菜が関係しているのではないかと」

「壊血病について、エリザベート嬢は考えていたのか」

「寄港のたびに船を抜け出してお野菜を食べていた方が壊血病にならなかったというのです。お野菜を食べることで壊血病は予防できるのではないでしょうか」


 わたくしの言葉にカサンドラ様がわたくしをじっと見つめているのを感じる。ドキドキしながらわたくしは続けて言う。


「船でも保存できるお野菜といえば……ザワークラウトなんてどうでしょう? 海軍の方や漁師さんにザワークラウトを食べていただいて、壊血病にならないか実験してみたらどうでしょう?」


 カサンドラ様の大事な方の命を奪った壊血病の治療法があるのならばカサンドラ様も知りたいことだろう。

 本来ならばビタミンCは体に蓄積されているので、壊血病が発症するまでには三ヶ月以上かかるはずなのだ。だが普段からあまり野菜を取っていない辺境伯領ではビタミンCの蓄積も少ないのかもしれない。


 フルーツティーにレモンが入っているが、それはとてもいいのではないだろうか。


 保存のことを考えてザワークラウトを提案させてもらったが、保存できるのならばレモンが一番いいのだが、それはこの時代の技術では難しいかもしれない。


「壊血病には我が領地は非常に困らされている。エリザベート嬢の案は悪いものではないだろう。実験してみるだけの価値がある」

「ありがとうございます、カサンドラ様」

「礼を言いたいのはこちらの方だ。我が領地のためによく考えてくれた。この案が本当に役立つものならば、エリザベート嬢には礼をしなければいけないな」


 子どもの言っていることだと馬鹿にせずにカサンドラ様はわたくしの話を聞いてくれた。

 これで壊血病が少なくなれば辺境伯領にも利益になるだろう。


「壊血病に本当にザワークラウトが効くのか、船上でザワークラウトを食べさせた隊と、食べさせていない隊を比べてみることにしよう。壊血病になるまでには三ヶ月はかかるから、時間のかかる実験になるだろう」

「これで壊血病の問題が何とかなるといいのですが」


 わたくしとカサンドラ様が話している間、父もエクムント様も口を挟まずにいてくれた。二人ともわたくしの言葉をしっかりと重要視してくれているのだ。

 クリスタちゃんは取り皿の上のケーキをもしゃもしゃと食べてわたくしの話を全く聞いていなかったようだ。視線を向けると、口の周りに付いていたクリームを膝のナプキンで急いで拭いていた。


「お姉様、何のお話だったの?」

「壊血病のお話ですよ」

「かいけつびょう……病気のお話だったの?」

「辺境伯領で流行っている病気ですよ」

「どんな病気なの?」

「歯茎や皮膚や粘膜から出血したり、貧血になったりする病気です」


 そんな病気になりながらも海軍で海賊と戦っていたカサンドラ様の大事な方は、大変なご苦労だっただろう。大事な方を亡くしたカサンドラ様の気持ちを考えると胸が苦しくなってくる。


 エクムント様と結ばれるためにカサンドラ様にアピールしたい思いはあったが、それよりも辺境伯領を苦しめる壊血病の治療法がカサンドラ様に伝わったのならばよかったと思う。


「明日のお茶の時間にエクムントの誕生会を行いたいと思います。エクムントを後継者にするというのは、公然の秘密となっていますが、まだ一応公にしていないので、これを機に公にしたいと思っています。ディッペル公爵夫人も参加いただけると嬉しいです」

「妻にも伝えてみます。きっと参加したがると思います」


 明日が終われば明後日は帰るだけだ。

 エクムント様のお誕生日を祝えるのは辺境伯領だけかもしれない。

 エクムント様が辺境伯領に行かれた後でわたくしも招待されるかもしれないが、それはまだ三年も先のこと。

 エクムント様のお誕生日を大々的に祝える好機をわたくしは逃したくなかった。


「お姉様、エクムントのお誕生日ですよ」

「そうですね、クリスタ」

「エクムント、楽しみにしていてくださいね」


 完全に内緒にしておきたかったが、クリスタちゃんに黙っておくことは難しかったようだ。これだけではわたくしとクリスタちゃんが何を企んでいるかを分かるわけがないのだが、わたくしとクリスタちゃんにできることは限られている。

 折り紙を折ってプレゼントを作ったことがバレていないようにわたくしは祈るのみだった。


 お茶の時間を終えて部屋に戻ると母がパウリーネ先生と話をしていた。


「ディッペル公爵領までついてきてくださるのですか?」

「カサンドラ様に命じられております。今後はディッペル公爵家にお仕えするようにと」

「ありがたいのですが、ヒンケル家の専属の医者はいるのでしょうか?」

「ヒンケル家には複数の医者がいます。わたくしはカサンドラ様の妊娠に関する治療を任されていただけです。ディッペル公爵領は今、医療に関する改革を行なっていると聞きました。カサンドラ様は、ディッペル公爵家でわたくしに婦人科の医療についての論文を書いて、わたくしの研究がオルヒデー帝国の役に立つようにするのだと命じられました」


 パウリーネ先生はディッペル公爵領が今、医療改革に力を入れていると知って、論文を書くためにもディッペル公爵家に行こうとしている。

 これはオルヒデー帝国全体の利益になることではないだろうか。


 まだまだ分からないことの多いはずの婦人科の医療について、経験のあるパウリーネ先生が論文を書いてくださる。その論文がオルヒデー帝国に広まったら、この国の医療技術は上がっていくに違いない。


「お母様、パウリーネ先生がおそばにいてくれた方がお母様の出産も安心ですわ」

「わたくし、この子を無事に産めたら、もう一人……いえ、気が早いでしょうか」

「わたくしにもっと弟妹が増えるのですか!?」


 わたくしを産んだときに死にかけた母は、お産を恐れて第二子を作らなかったが、わたくしの願いやパウリーネ先生の助けもあって、子どもを産むのに積極的になってきている。

 母が弟妹を産んでくれることはわたくしにとってもものすごく嬉しいことである。


「お母様、無理はしてほしくないですが、わたくし、弟と妹、どちらも欲しくなってきました」

「わたくしもエリザベートに弟と妹を産んであげたいのですよ。わたくしは三人兄弟でした。エリザベートにも兄弟がいる楽しさを教えたいのです」

「お姉様にはわたくしがいます」

「クリスタもいますが、赤ん坊の頃からずっと一緒の弟妹はいないでしょう?」

「赤ちゃん……わたくしもお姉様……」


 わたくしの妹であることは譲れないようだが、クリスタちゃんは自分が姉になることに関しては夢を抱いているようだ。

 わたくしにもクリスタちゃんにも弟妹ができることをわたくしは願わずにはいられなかった。

読んでいただきありがとうございました。

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