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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
二章 ノメンゼン子爵の断罪
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25.気付いた企み

 戻って来た両親にわたくしもクリスタ嬢もべったりとくっ付いていた。両親がいなかった期間心細かったこともあるし、寂しくて甘えたかったのだ。

 両親はそれを許してくれて、父は執務を休んで、母もずっとわたくしとクリスタ嬢のそばにいてくれた。


「おばうえ、わたくしのおかあさまのおなまえはなんていうの?」

「ノメンゼン子爵はクリスタ嬢に母親の名前も伝えていなかったのですか!? わたくしの妹の名前はマリアですよ」

「マリア……わたくしのおかあさまはマリア」


 歌うように言うクリスタ嬢はうっとりとしている。自分の母の名前をずっと知らなかったなど不憫すぎる。


「わたくしは、テレーゼ。元はマリアと同じでシュレーゼマン子爵家の生まれで、キルヒマン侯爵家に養子に行って、ディッペル家に嫁ぎました」

「私はユストゥス・ディッペル。覚えておいておくれ」


 母、テレーゼと、父、ユストゥスがクリスタ嬢に名乗る。

 クリスタ嬢は二人の名前を聞いてにこにこと微笑んでいる。


「わたくしがこうしゃくけのようしになることができたら、おじうえとおばうえを、おとうさまとおかあさまとよぶことができるのね」

「その日があまり遠くないといいのだけれど」

「当面の問題はノメンゼン子爵夫人とローザ嬢ですね」


 ローザ嬢がいる限り、クリスタ嬢はディッペル家に養子に来ることはできない。クリスタ嬢がいなくなればローザ嬢にノメンゼン家が乗っ取られてしまうからだ。


 ノメンゼン子爵がクリスタ嬢をバーデン家に預けようとしていたのも、クリスタ嬢を排除してローザ嬢にノメンゼン家を継がせようとする策略に違いない。

 今クリスタ嬢をディッペル家の養子に迎えてしまったら、ノメンゼン子爵の思惑通りに事を運ぶことになってしまう。


「養子にならなくてもわたくしたちのことは実の父母と思っていいですからね」

「私たちもクリスタ嬢を実の娘と思っているよ」


 優しい両親の言葉にクリスタ嬢は涙ぐんで頷いていた。


「こころのなかでは、わたくし、おじうえとおばうえを、おとうさまとおかあさまとよんでいいですか?」

「もちろんだよ」

「マリアの存在は忘れないで欲しいですが、クリスタ嬢はマリアと過ごした時間がありませんものね。わたくしでよければ、クリスタ嬢の母親代わりになりますわ」

「おじうえ、おばうえ、だいすきです」


 飛び付いて抱き付くクリスタ嬢を両親は軽々と受け止めていた。


 クリスタ嬢は両親に話があるようだった。もじもじとスカートの裾を揉みながら両親を上目遣いに見上げる。


「わたくし、おたんじょうびのプレゼントをおねだりしてもいいですか?」

「教えてください、何が欲しいのか」

「クリスタ嬢のお誕生日も近付いて来ていたね」


 冬もそろそろ終わりになる。クリスタ嬢は春生まれなので、冬が終わればお誕生日が来る。


「おりがみのほんがほしいのです」

「折り紙ですか。わたくしたちの誕生日にエリザベートとクリスタ嬢が折ってくれた花の見事だったこと」

「あの花束は大事に私たちの部屋に飾ってあるよ。そうだね、折り紙をしたいのなら、本を取り寄せてみよう」

「異国から取り寄せることになるので、異国の文字で書かれているかもしれませんが、それは平気ですか?」


 わたくしとクリスタ嬢はエクムント様に折り紙を習ったが、エクムント様はお母様が異国に接する辺境伯領の出身だ。辺境伯領から乳母を呼んでいてもおかしくはない。

 辺境伯領の乳母が異国の折り紙という遊びをエクムント様に教えた。

 わたくしも前世では小さい頃に折り紙をしていたが、この国では折り紙をした記憶がないので、異国の遊びなのだということは理解できた。


「クリスタ嬢、異国の言葉を勉強しましょう」

「わたくし、よめるようになるかしら」

「リップマン先生にお願いしましょう」


 隣国とも言葉が違うし、わたくしはそろそろ外国語の勉強もしなければいけないと思っていたのだ。その入り口が折り紙の本ならばやる気も出るというものだ。


「辺境伯領に接する異国の民は、隣国と同じ言語を使っていると言われているね」

「隣国の言葉は、淑女の教養として覚えなければいけないのでいい機会になるでしょう」

「少し早いかもしれないが、興味を持った時が勉強するときだね」


 わたくしは七歳、クリスタ嬢はお誕生日で六歳になる。異国の言葉よりも自国の言葉をしっかりと覚えるように言われる時期ではあるが、わたくしもクリスタ嬢も勉強が順調に進んでかなり難しい単語の出て来る本も読めるようになっていた。

 わたくしは前世の記憶と本が大好きなので、難しい本も読めるようになりたい一心で勉強していた。クリスタ嬢も本が大好きで、本を読むために勉強をしていると言える。


 クリスタ嬢が年齢よりもしっかりとした喋りができるのはリップマン先生の教育のたまものなのだ。


 ハインリヒ殿下もノルベルト殿下もしっかりとした喋りをしているが、それも王家の教育の成果なのだろう。

 教育と言えばバーデン家のブリギッテ様は教育をきちんと受けているのか分からないような不作法を働いた。バーデン家にクリスタ嬢が引き取られていたらどうなっていたか。


 考えてみて、わたくしは重大なことに気付いた。


 『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』ではクリスタ嬢は奔放で、正義感が強く、思ったことはずばずばと口にして、おおよそ貴族らしくない振る舞いをする主人公だった。

 それとブリギッテ様の不作法に重なるところがあったのだ。


 もしかして、『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』に出て来るクリスタ嬢は、バーデン家で教育を受けたのではないだろうか。

 それならば、貴族らしくない、淑女から見れば不作法に思える態度も納得がいく。

 ノメンゼン子爵はクリスタ嬢の教育をバーデン家に任せようとしていた。それが正式な本編でのルートならば、そのルートで進んでしまうと、クリスタ嬢は貴族社会の常識を全く知らない女性に育ち、それを指摘したわたくし、エリザベート・ディッペルの方が悪役として描かれ、最終的に辺境域に追放されて、公爵位を奪われることになる。


 わたくしから最終的には公爵位を奪って、クリスタ嬢に公爵位を授けた後にハインリヒ殿下と結婚させて、公爵位に自分の親戚を置いてこの国を掌握してしまうこと。それがバーデン家の狙いではないのだろうか。


 気付いてしまったがわたくしの前世の話はできないので両親には相談できない。

 このことをどうすればハインリヒ殿下やノルベルト殿下に伝えられるのか。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下にそれとなく伝えれば国王陛下にも伝わって、バーデン家の取り調べが厳しくなるのではないだろうか。


「おじうえ、おばうえ、わたくし、ハインリヒでんかに、こんどのことをおてがみにかきたいのです」


 それだ!

 クリスタ嬢が両親に言っているのを聞いてわたくしは膝を打ちそうになった。


「おねえさまをぶじょくしたの、とてもいやだったの。ハインリヒでんかにごほうこくしなくちゃ!」

「そうですね。クリスタ嬢の気持ちも治まらないでしょうから、一緒にお手紙を書きますか?」

「わたくしも同席させてください」


 手を上げてわたくしは同席を申し出る。

 クリスタ嬢はわたくしの顔を見て目を輝かせていた。


「おねえさまもいっしょにおてがみをかいてくださるのね」

「クリスタ嬢のお手紙の内容を一緒に考えましょうね」

「はい、おねえさま!」


 これでハインリヒ殿下とノルベルト殿下にもそれとなくバーデン家の企みを伝えられるかもしれない。

 わたくしは母と一緒にクリスタ嬢の部屋に移動していた。

読んでいただきありがとうございました。

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