24.ユリアーナ殿下のお誕生日とわたくしのお誕生日
慌ただしくわたくしとエクムント様の合同お誕生日のパーティーが終わると、王都に招かれてユリアーナ殿下のお誕生日のお茶会に参加する。
ユリアーナ殿下のお誕生日はお茶会だけなので、当日の朝辺境伯領を出て、王宮に昼前について、昼食を部屋でいただいてからの参加となった。
国王陛下と王妃殿下はユリアーナ殿下のお誕生日のお茶会に、ディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下を抱いて参加していた。
「ユリアーナの願いで、ディーデリヒとディートリンデを参加させてほしいということでな」
「最近はお喋りも上手になりましたし、朝はユリアーナとハインリヒとお散歩に行っているので、体も健康でしっかりとしてきました」
笑み崩れている国王陛下と王妃殿下はディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下が可愛いのだろう。
ディッペル家で小さなフランツとマリアが両親のお誕生日のお茶会に参加していたときのように、部屋の隅には敷物が敷いてあって、乳母がおもちゃを持っていつでもディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下を引き取れるようにしていた。
「ねぇね、おはなち!」
「えぽん!」
「ディーデリヒ、ディートリンデ、わたくしは皆様にご挨拶をしなければいけないのです。少しだけ待っていてください」
「ねぇね、えぽん!」
「おはなちー!」
乳母から借りて来た絵本をユリアーナ殿下に読んでほしそうにしているディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下は乳母に部屋の隅に連れて行かれていた。
「本日はわたくしのお誕生日にお越しくださってありがとうございます。わたくしも今年で九歳になりました。学園に通う日に向けてこれまで以上に努力していきたいと思っております」
立派に挨拶をするユリアーナ殿下に拍手が沸き起こる。
挨拶を終えると、ユリアーナ殿下は約束通り、ディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下のところに行って、絵本を一冊だけ読み聞かせていた。ディーデリヒ殿下もディートリンデ殿下もユリアーナ殿下に絵本を読んでもらって満足そうだった。
そういえば、フランツもマリアも小さなころわたくしに絵本を読んでもらうのが好きだった。わたくしが絵本の係で、クリスタがお歌の係だった。
昔を思い出すようで懐かしく楽しいお誕生日のお茶会だった。
ユリアーナ殿下のお誕生日のお茶会が終わるとわたくしとエクムント様は辺境伯領に帰る。
辺境伯領に帰ると、数日後にディッペル家の両親とクリスタとフランツとマリア、レーニ嬢、オリヴァー殿が来てくださった。
わたくしのお誕生日を家族だけで祝うのだ。
わたくしのお誕生日は辺境伯家の食堂でお茶会だけで祝われた。
公務がお忙しいのでハインリヒ殿下は来られなかったが、クリスタも来年からは来られないだろうから、皇太子と皇太子妃というものはそういうものだと納得するしかない。
クリスタはお茶会でわたくしに話をしてくれた。
「学園がお休みの日には、わたくし、王宮に招かれていますの。そこでウエディングドレスの仮縫いをします」
「そういえばヴェールもそろそろ出来上がるころですね。王宮に送らせましょう」
「ありがとうございます、エクムント様」
クリスタのために注文したヴェールもそろそろ出来上がる時期である。出来上がったヴェールは王宮に送って、長さなどをウエディングドレスに合わせて調整するだろう。
秋に入って辺境伯領も少しずつ涼しくなっていたので、温かいミルクティーを出しているのだが、フランツやマリアにはまだ熱かったようだ。フランツとマリアは蜂蜜レモン水を給仕に頼んでいる。
そういうこともあるのではないかと、蜂蜜レモン水や葡萄ジュースやフルーツティーやミントティーも厨房に言って用意させていた。
「ハインリヒ殿下のお誕生日の晩餐会でわたくしに強引にダンスを誘ってきた貴族を覚えていますか?」
レーニ嬢に聞かれてわたくしとエクムント様は顔を見合わせる。
あの貴族は侯爵家の次男で、年下の婚約者がいたと記憶している。あの貴族がどうしたのだろう。
レーニ嬢が口を開くのを待っていると、レーニ嬢はちらりとフランツを見た。
「あの方は、年下の婚約者から婚約を破棄されたそうです。婚約者の方が違う侯爵家の後継ぎだったようなのですが、そのような浮気な男を夫にするわけにはいかないと判断されたようです……が、何かされました?」
何かされましたと聞かれても、わたくしは何も関わっていない。
わたくしは何も関わっていないのだが、エクムント様が何かしなかったかどうかは分からない。
エクムント様の顔をじっと見つめると、悪戯っぽく微笑んでいる。
「当然の報いではありませんか、そうですよね、フランツ殿」
「はい、エクムント義兄上! 私はちょっとその侯爵令嬢にお手紙を書いただけです」
「私もちょっとだけ」
「何かしていたのではないですかー!」
思わずわたくしは大きな声を出してしまった。
わたくしの知らないところでエクムント様とフランツは共謀して動いていた。
ディッペル公爵家の後継者であるフランツの婚約者のレーニ嬢を狙っただけではなくて、その前にはわたくしに声を掛けるなど、見境のなかった侯爵家の次男。婚約を破棄されても自業自得としか言えないのだが、それにしてもエクムント様もフランツもいつの間にそんなことをしていたのだろう。
「やはりわたくしを守ってくださったのですね。ありがとうございます、フランツ殿、エクムント様」
レーニ嬢は無邪気にお礼を言っているが、わたくしはエクムント様とフランツがどのようなことをしたのか怖いので聞けずにいた。
聞いてしまったらわたくしも共謀者のようになってしまう気がしたのだ。
「あの侯爵家の次男坊は、私の妻であるエリザベートに声を掛けて振られたと思ったらレーニ嬢のところに行くような浮気な人間でした。そんな人間が侯爵家の跡取りの令嬢の夫になれるわけがないでしょう」
当然のように言うエクムント様は、あの侯爵家の次男がわたくしに声を掛けてきたことを根に持っているようだった。
わたくしもあれは不快だった。
夫がいる女性に普通はダンスを申し込んだりしないし、婚約者がいる女性にもダンスを申し込んだりしない。特に他の侯爵家の後継ぎと婚約しているのであれば、あの侯爵家の次男はもっと慎重にならなければいけなかったのだ。
「自業自得ですね」
「その通りだと思います」
ばっさりと切り捨てたわたくしにレーニ嬢も同意した。
「フランツ殿、わたくしのプロムで卒業の年もパートナーを務めていただけますか?」
「もちろんです、レーニ嬢。私を誘ってくださって嬉しいです」
「わたくしはフランツ殿としか踊りません。そう決めているのです」
侯爵家の次男の誘いを断ったときもだが、レーニ嬢はきっちりとフランツだけを婚約者として立てていて、他の男性など目に入っていないようなので安心する。
「レーニ嬢のパートナーとして恥ずかしくない振る舞いをします」
「フランツ殿にはいつもそれができていますよ」
気合を入れるフランツと、それに微笑むレーニ嬢はとてもお似合いだった。
十歳になったフランツは背も伸びているが、まだレーニ嬢には届かない。身長差がある二人だが、そんなことはどちらも気にしていないだろう。
「オリヴァー殿は五年生のときのジュニア・プロムでも、卒業の時のプロムでもわたくしを誘ってくださいました」
「婚約者を誘うのは当然です。ですが、夜遅くまでプロムが続いたので、負担をかけたかもしれません」
「わたくしもオリヴァー殿の婚約者としてしっかり務めたかったのです」
去年の春と今年の春のことを思い出して言うマリアに、オリヴァー殿が答えている。
マリアとオリヴァー殿もいい関係を築けているようだ。
弟妹が年の差はあるが幸せな婚約をしていることを確認できたいいお茶会だった。
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