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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
最終章 わたくしの結婚一年目とクリスタの結婚
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23.わたくしの課題

 エクムント様とわたくしのお誕生日のお茶会には、フランツ、マリア、ユリアーナ殿下、デニス殿、ゲオルグ殿、ガブリエラ嬢、ケヴィン殿、フリーダ嬢、ナターリエ嬢が参加して賑やかになった。

 ユリアーナ殿下はデニス殿に夏休みの様子を聞いていた。


「わたくしは参加できなかったのです。来年からは参加したいと思っています」

「ユリアーナ殿下、参加できずに残念でしたね。今年は私たちは初めて海に行きました。ガブリエラ嬢は海で泳げるのです」

「ガブリエラ嬢!? ガブリエラ嬢と仲良くなったのですか?」

「はい。ガブリエラ嬢は虫も捕まえられるし、木にも登れると言っていました」

「わたくし、虫は捕まえられません……。木にも登ったことがありません。海でも泳げません」

「ユリアーナ殿下は私と同じですね。来年、ガブリエラ嬢の弟のケヴィン殿も来るようなので、教えてもらいましょう」


 デニス殿がガブリエラ嬢と仲良くなっているのを複雑な気持ちで聞いているユリアーナ殿下の胸中は全く伝わっていないようで、デニス殿は無邪気に笑っている。


「ケヴィン殿……わたくしにそのガブリエラ嬢とケヴィン殿を紹介してくれませんか?」

「エクムント様の姪と甥と仰っていました。お話してみましょう」


 デニス殿が経験したことはユリアーナ殿下も経験したいようで、ガブリエラ嬢とケヴィン殿を紹介してくれるように頼むユリアーナ殿下に、デニス殿が先に立ってガブリエラ嬢とケヴィン殿とフリーダ嬢のところに来た。

 国王陛下の娘であるユリアーナ殿下が来られたことに恐縮して、ガブリエラ嬢とケヴィン殿とフリーダ嬢の方から挨拶がある。


「ユリアーナ殿下、ご機嫌いかがですか? わたくし、エクムント叔父様の姪のガブリエラ・キルヒマンと申します」

「エクムント叔父様の甥のケヴィン・キルヒマンです」

「同じく姪の、フリーダ・キルヒマンです」

「ガブリエラ嬢は泳げるのだと聞きました。虫も捕まえられるのだと。それに木登りも」

「木登りは忘れてくださいませ。エクムント叔父様に怒られます」

「わたくしにも泳ぎと虫の捕まえ方を教えてもらえますか?」

「もちろんです。ユリアーナ殿下はわたくしの弟妹を雪遊びに誘ってくださいますか?」

「ケヴィン殿とフリーダ嬢も雪合戦をしますか? それは嬉しいです! ご一緒しましょう!」


 最初はおずおずとしていたユリアーナ殿下だったが、雪合戦の話が出てくると目の輝きが変わってくる。ガブリエラ嬢は年上だし、デニス殿を特別に想っているわけではなさそうだとユリアーナ殿下も判断できたのだろう。

 その後は楽しそうにガブリエラ嬢とケヴィン殿とフリーダ嬢と話していた。

 ケヴィン殿がフランツと同じ年で、フリーダ嬢がユリアーナ殿下やマリアやデニス殿と同じ年なので、仲良くできるだろう。


 子どもたちの交流を見届けてからわたくしはエクムント様と料理の評判に耳を澄ました。

 どうやら蟹クリームコロッケもカレーライスも貴族たちに受け入れられたようだ。


「贅沢に蟹をたっぷり使った料理だなんて、辺境伯も粋なことをしますね」

「シチューのような食べ物は、異国の香辛料の香りがして、ライスと一緒に食べると食が進みました」

「とても美味しかったです。辺境伯領ならではの御馳走ですね」


 評判のよさを聞いてわたくしも胸を撫で下ろしていた。


 お茶会が終わって晩餐会になると、音楽隊もやってきてダンスの音楽を奏でる。

 食堂で夕食を食べ終わって大広間に行くと、既に踊っている貴族たちもいた。


 夕食はごく普通のわたくしもご馳走と思えるメニューにしたのだが、それの評判も悪くなかったようだった。ただ、昼食のインパクトがあったので、夕食はそれほど話題に上がらなかった。


「辺境伯夫妻の功績を讃えて乾杯!」

「乾杯!」


 集まっている貴族の中でわたくしたちを讃えて乾杯する声も響いている。

 心地よい声の中でわたくしは晩餐会を終えられた。


 晩餐会が終わると辺境伯領の貴族たちは馬車で帰って、中央の貴族たちは泊って行く。

 部屋の準備も万端に整えていたので、安心だったが、それでも全ての貴族が部屋に戻るまでは大広間で見守っていなくては行けなくて、わたくしは疲れて眠くなっていた。

 全ての貴族が部屋に戻って、厨房に明日の朝食の人数を伝えて、シャワーを浴びて寝る仕度をして寝室に戻ると、どっと疲れが襲ってくる。


 ベッドに入るとエクムント様の腕に抱かれてわたくしはぐっすりと眠ってしまった。


 翌朝も早くに起きたが散歩には一緒に行けなかった。

 朝食の人数が間違いないかとか、好き嫌いはどうかとか、細かな調整があって、厨房との連絡を取り合っていたのだ。


 朝食が終わると馬車の見送りに出なければいけない。

 ハインリヒ殿下とユリアーナ殿下は辺境伯領の王族の別荘に帰っていたので、始めに見送るのはディッペル家の馬車だ。


 クリスタがわたくしの手を握って目を見詰める。


「お姉様、お疲れさまでした。とても素晴らしいパーティーでした」

「ありがとうございます、クリスタ」

「来年はわたくしは王族の別荘から参加すると思います。今年で辺境伯家に泊まるのも最後かと思うと感慨深かったです」


 クリスタはわたくしと一緒に小さなころから辺境伯家に泊まっている。それも今年で最後となるのかと思うとわたくしもしみじみとしてしまう。


「皇太子妃になっても辺境伯領に来てくださいね」

「はい、必ず」


 名残惜しそうなクリスタが馬車に乗って、ディッペル家の馬車を見送ると、リリエンタール家の馬車が到着する。


「エリザベート夫人、とても楽しいパーティーでした。ありがとうございました」

「こちらこそ、お越しいただきありがとうございました、レーニ嬢」

「夏休みも一緒に過ごせて楽しかったです」

「来年もいらしてくださいね」


 挨拶を終えるとレーニ嬢が馬車に乗る。リリエンタール家の馬車が出発する。

 次はキルヒマン家の馬車だった。

 ガブリエラ嬢とケヴィン殿とフリーダ嬢がエクムント様を取り囲んでしまう。


「エクムント叔父様、来年も辺境伯領に来させてくださいね」

「私も来年は辺境伯領に行きたいです」

「わたくしは、再来年からになりますが、よろしくお願いします」

「分かったよ、ガブリエラ、ケヴィン、フリーダ。ただ、庭の木に登ってはいけないよ」


 優しく微笑むエクムント様はよき叔父の顔をしていた。


 貴族全員を見送るのにはかなり時間がかかったが、わたくしもエクムント様もやり遂げた。

 お客様が帰った後は客室に忘れ物がないかを調べさせ、客室を整えさせる。


 エクムント様は護衛たちに話をしていた。


「今回エリザベートに失礼なことを言った貴族は辺境伯家に出入り禁止とする。入ってこようとしても追い返すように」

「心得ました!」


 護衛たちが声を揃えて返事をしている。

 わたくしに、女性の仕事云々と説教をしてきた貴族は今後辺境伯家に出入り禁止となったようだ。


「辺境伯領にはまだああいう古い頭の貴族が残っていて困る」


 まだ怒りのおさまっていない様子のエクムント様に、わたくしは隣りの椅子に座ってその手を握る。


「わたくしはそんなに不快にはなりませんでしたわ。ちゃんと言い返しました」

「言い返して当然です。エリザベートは立派な対応をしました」

「でも、少しだけ考えることはあります」

「エリザベート?」

「妊娠して出産するのはどうしても女性にしかできないのは確かですし、その期間はわたくしは執務を休まねばならないでしょう」


 それを考えると、急いで妊娠しなくてもいいような気になってしまうのだ。

 わたくしはまだまだ執務を覚えている最中で、軍の勉強もカサンドラ様に教えてもらっていて、お屋敷の女主人としての仕事もエクムント様と一緒にやっているような状態だ。今やっていることで手一杯なので、妊娠など考えられないのが現状だった。


 もっと執務を覚え、軍の勉強も進み、お屋敷の女主人としての仕事も気を張らずにできるようになってからでないと、妊娠や出産は考えられない。


 わたくしにはまだまだ課題がたくさんあった。


読んでいただきありがとうございました。

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