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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
最終章 わたくしの結婚一年目とクリスタの結婚
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22.デリカシーのない貴族

 夫婦のお誕生日には中央の貴族は前日から宿泊して来てくれていた。

 ディッペル家の家族もリリエンタール家の一家もキルヒマン家の一家もいる。ハインリヒ殿下とユリアーナ殿下は辺境伯領の王族の別荘に泊まっているようだ。

 前日のメニューも決めておいたので、後は厨房が取り計らってくれるはずだ。

 わたくしとエクムント様はディッペル家の家族とリリエンタール家の一家とキルヒマン家の一家と一緒に食堂で夕食を食べた。


「明日の朝の散歩はご一緒できないと思います」

「お姉様もエクムント様もパーティーの準備がありますよね。大丈夫です、わたくしたちだけでお散歩してきます」

「クリスタ嬢もレーニ嬢もフランツ殿もマリア嬢もデニス殿もゲオルグ殿も、日焼けをしないように気を付けてください」

「分かりました。十分気を付けます」


 わたくしとエクムント様は明日は朝から忙しいと思うのでお散歩に一緒に行けないことを告げると、クリスタは納得している。エクムント様は白い肌のクリスタたちが日焼けをしないようにと声を掛けていた。


「エクムント叔父様は夏休みにわたくしたちを海に連れて行ってくれたのです」

「お姉様、羨ましいです」

「わたくしも学園に通う年になれば辺境伯領に来られるでしょうか?」

「きっと二人が学園に通う年になったら、エクムント叔父様は連れて行ってくれますわ」


 ガブリエラ嬢は弟妹のケヴィン殿とフリーダ嬢に諭すように話していた。

 ケヴィン殿は来年、フリーダ嬢は再来年に学年に入学する。再来年にはフランツも学園に入学するのでフリーダ嬢とは同級生になる予定だった。


「海は塩分が入っているので浮力があって浮くというのをガブリエラ嬢から教えてもらいました」

「海でガブリエラ嬢は泳いでいたのです」

「格好良かったです」


 フランツの言葉にデニス殿とゲオルグ殿が歓喜の声を上げる。ガブリエラ嬢はすっかりとデニス殿とゲオルグ殿の心を掴んでしまったようだった。


 その夜は早くに休んで、翌日は早朝から厨房に欠席する貴族や、急に参加することになった貴族の人数を伝え、料理が滞りなく運ばれるように手配する。

 朝食の仕度もしなければいけない厨房はとても忙しかったようだが、伝えたことはしっかりと理解してくれているようだった。


 朝食を食べ終わると昼食会の準備のためにドレスに着替える。髪を結っていると、侍女が手伝ってくれた。


 エクムント様も着替えて準備は万端にして、辺境伯領から今日来る貴族たちを迎える。その中にオリヴァー殿とナターリエ嬢を見たときには、心底ほっとした。オリヴァー殿とナターリエ嬢ならば気を張っていることはない。


「ようこそいらっしゃいました、シュタール侯爵、ナターリエ嬢」

「私はまだ結婚もしていませんし、以前通りオリヴァーで構いませんよ」

「いいえ、シュタール侯爵を継がれたのでシュタール侯爵とお呼びしないと」


 頭の中ではオリヴァー殿と呼んでいるが、公の場ではシュタール侯爵と呼ばなければいけないことは分かっている。特にわたくしはオリヴァー殿と学園の同級生で仲がよかったことは知れ渡っているのだ。少しでも誤解を招くようなことはしたくない。


「シュタール侯爵、今日はよろしくお願いします」

「はい、エクムント様……私も辺境伯とお呼びした方がいいですか?」

「構いませんよ、エクムントで」


 オリヴァー殿はエクムント様をエクムント様と呼び続けていいようだ。

 貴族たちが揃うと、わたくしとエクムント様は昼食会の会場である食堂に行く。食堂の前のテーブルについていると、貴族たちも席に着く。


「本日は私たち夫婦のためにお越しいただきありがとうございます。今年の春にめでたくエリザベートと結婚してから、二人でこの屋敷を切り盛りし、辺境伯領を統治し、軍の司令官と副司令官として勤めております。エリザベートと共にこの一年もどうかよろしくお願いいたします」

「エクムント様と共にこの地を豊かにしていきたいと思っております。どうかよろしくお願いいたします」

「今日の料理はエリザベートが異国のレシピを発見して用意させたものです。どうかお楽しみください」


 乾杯をすると、料理が運ばれてくる。

 蟹クリームコロッケやカレーライスにどんな反応が来るのか少し怖かったが、わたくしは挨拶してくる貴族たちにまみれてそれどころではなくなってしまう。


 最初に来たのはハインリヒ殿下とユリアーナ殿下だった。


「父上が王都を離れられないことを残念に思っていました。このお祝いのパーティーが賑わうことを祈っておられます」

「今年の夏は辺境伯領で過ごせませんでしたが、来年の夏は王家の別荘も整備されたので、辺境伯領で皆様と一緒に過ごせるようにお父様とお母様にお願いしてみます。どうかよろしくお願いします、エクムント殿、エリザベート夫人」


 ご挨拶をいただいてわたくしとエクムント様もご挨拶を返す。


「国王陛下にそのように思っていただいてありがたいです」

「来年の夏はぜひご一緒しましょう、ユリアーナ殿下」


 続いて、ディッペル家の両親とクリスタが来て、リリエンタール家のご両親とレーニ嬢が来る。

 キルヒマン家のご挨拶まで終わったところで、辺境伯家の貴族が真剣な様子でわたくしとエクムント様のところに来た。


「エリザベート夫人の功績は辺境伯中に知れ渡っています。こんな聡明な才女を奥方にできてエクムント様もよかったですね」

「お褒めに預かり光栄です」

「エリザベートは辺境伯家の誇りです」

「エリザベート夫人はとてもお若いし、女性としての仕事をするにも最適ですね」


 これは、エクムント様が言っていた妙なことを言って来る輩だ。


「性別に関係なく、エリザベートは屋敷での仕事も辺境伯領の仕事も軍の仕事もこなしていますよ」

「女性には大事な仕事があるではないですか。人類は女性からしか生まれないのです。こればかりは女性に頑張ってもらうしかない」

「その話については、この場で口に出すことではないので、お引き取り願えますか?」

「なぜですか? 一番大事なことではないですか! それとも、エリザベート夫人に産めない理由があるのですか?」


 こういう輩にはデリカシーというものがないのだ。わたくしを庇ってくれるエクムント様に甘えているわけにはいかない。


「わたくしは辺境伯領の仕事も、お屋敷の仕事も、軍の仕事も、間違いなくやらせていただいています。わたくしとエクムント様がいつ子どもを持つかは夫婦の問題で、あなたには関係ありません。そういう話をしたいのでしたら、この場は相応しくないでしょう。お帰りください」

「護衛たち、お客様がお帰りだ」

「なぜですか! 大事な話をしているのに!」


 最後まで暴れていたが、その貴族は護衛に連れられて食堂を退場していった。


「やはり至らぬものがいましたね。エリザベート、気を悪くしていませんか?」

「わたくしは大丈夫です。エクムント様が守ってくださいましたから」

「それならばよかったです。エリザベート、本当に気にすることはないですからね」


 再三言ってくれるエクムント様にわたくしは素直に頷く。

 エクムント様が配慮してくださることは嬉しいし、子どもは授かりものなのだからわたくしたちでいつ生まれさせるとか決めることはできない。わたくしたちで決められないことを聞いてくる輩は無視していいのだ。


 わたくしは堂々と対応できていただろうか。エクムント様からも何を言われても堂々としていればいいと言われていた。

 エクムント様の隣りに立つのだから、これからも何を言われても堂々としていようと決めていた。


 至らぬ輩はいなかったわけではないが、毅然とした態度で対応したので、その貴族は護衛に連れられて退場して、パーティーには平和が戻った。


読んでいただきありがとうございました。

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